第31話 住人確保

 ボクはティンバーさんに、あのメイドさんを連れて帰りたいと相談する。


「ああいうのが好みなのか?」



「そうではなくてですね。実は」


 事情を説明すると、ティンバーさんは納得した。


「なるほど。会計士がほしいと。たしかに計算をしていたほうが、あの子にとっても楽だろうな」


 ティンバーさんが、チモ子さんに「あのメイドを呼んできてくれ」と指示を出す。


 チモ子さんが、ちっこいメイドさんを連れてきた。


「こんにちは」


「こ、こんにちは。先程は助けてくださって、ありがとうございます」

 

「いえいえ。ボクはコーキ。アプレンテスって土地に住んでいる、冒険者です」


「わたしは、チェスナです。よろしくおねがいします」


 チェスナさんが、ペコリと頭を下げた。

 

「あのですね、さっきティンバーさんとお話したんだけど、キミを連れて帰ろうと思います」


「そうなんですね?」


 ボクは、アプレンテスにあるパロンのお店で、会計係が足りないことを告げる。

 

「ウチの領地って、王都なのかコラシェルの領地なのか、わかってないんだ。独立国家だとしても、税金とか色々考えないといけない。アドバイスをいただけると、助かります」


「わかりました。お供します」

 

 こうして、住人を確保することに成功した。


「他にも、移住を希望している方がいらしたら、誘いたいんですが」


 さすがに、チェスナだけをお店に住まわせるわけには行かない。


 あと、チェスナ用の家具も必要だ。


「アタイ行きたいですね~」


 なんと、よりによってチモ子さんが挙手した。


「ダンナさまの相手、大変なんすよ~。お供したいですね~」


 ホントに大変なんだな。


「これ、チモ子。お前がいなくて、誰が坊ちゃまを守るというのか」


「アル爺が守ってたらいいじゃん」


「ワシはもう歳じゃからのう。いつくたばっても、おかしくないんじゃ。チモ子ががんばってもらわんと」


「アタイ、責任重大じゃないっすか~やだ~」

 

 チモ子さんは駄々をこねていたが、屋敷の料理番などがいなくなるため、移住は見送られた。


「なにより、ウチの庭のバラが死ぬので」


「それは、仕方ないっすね~」


 チモ子さんは庭師でもあるそうで、バラのお手入れもこなすという。


「ところで、伯爵様は?」


 ここの領主って、伯爵様だよね? たしかに、食事の席にも出ていなかった。どうしたんだろう?


「先日の嵐対策のために、会議に出ていますぞ。そうでなくても、家にいるほうが少ないですな」


 チェスナの両親は、嵐に遭って亡くなってしまった。


「ティンバーさんが飛行機を作ろうとしてたのは、海が荒れているのも関係していますか?」


「そうなのだ。魔王のとんだ置き土産だよ」


「魔王はよほど、王都とコラシェルをつなげたくないみたいですね」


「コラシェルだけではない。王都を孤立させるつもりなのだ」


 ひどいなあ。滅びてもなお、魔王は世界に影響を及ぼしているなんて。


 魔王自体がなにかを起こしているのではなく、余波で未だに世界がダメージを受けているのだ。それにしても、コントロールがよすぎる。

 なにか別の力が働いているのでは、と、王都は考えているようだ。

 

「だから、アプレンテスを開放してくれたコーキには、本当に感謝しているのだ」


「お褒めに預かり、光栄です。ひとまず、東の海沿いは大丈夫だと思いますよ。タイホウガニもやっつけたので」


「ありがたい! このティンバー・ネトルシップ、伯爵に代わって礼を言う」

 

「こちらこそ。素敵な住民を紹介してくださってありがとうございます」


 ボクたちは、チェスナを連れて帰ることにした。


「他にも住人が見つかるといいね」


「そうだね。一人ぼっちはさみしいからね」


 アプレンテスの近くには村があるけど、少し遠い。


 そちらから移住希望者が来てくれたらいいけど、土地に愛着があるならムリは言えない。


「ひとまず、家具を見ていらしてください。コーキさん。わたしたちは、チェスナの洋服や日用品などを見てきますので」


「ありがとう、アザレア」


「では、行きましょう。チェスナ」

 

 アザレアが、チェスナを連れて商店の方へ向かう。  


 魔物の素材やアイテムを売ったことで、お金がかなり増えた。カニが高く売れたのは、よかったね。

 

「自分の装備品より、生活品がほしいなんて、コーキは変わっているね」


「元が、ハンティングなんて必要ない職業だったからかも」


 日本人だからね。戦闘とかとは無縁だったし。


 それに、住人が増えるんだ。日用品は、多いに越したことはないはず。


 ボクたちは、家具売り場へ向かう。


「チェスナの意見も、聞いておけばよかった」


 あの子にも、好みがあるはずだ。


「後で見てもらったらいいよ」


 ボクはひとまず、自分の家具を探す。作ってはみたいけど、まずは完成品を見ないと。


「大きな街だからか、完成品の質が高いね」


 棚やベッドなどがある。ほとんどサンプルだけど。注文を受けてから、オーダーメイドするらしい。好みがあるからね。


「高いね」


「シドの森の木材は、丈夫なんだけどお高いんだ」


 コラシェルで売られている家具類は、シドの森の木材も含まれる。さらに運搬費もかさみ、結果的に高額になるのだ。


 この値段で買うと、予算を大幅に超えてしまう。

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