第三章 新しい住人たち
第28話 亜人種の港町
ボクたちは、港町コラシェルにやってきた。
潮風で自分の身体がきしんじゃうかと思っていたけど、そうでもない。むしろ、心地よかった。
「さっそく冒険者ギルドで、報告に行こうか」
コラシェルの冒険者ギルドは、イカリがトレードマークになっている。
中に入ると、水兵さんみたいな格好のお姉さんが。
「ようこそ! コラシェル冒険者ギルドへ! あたしは受付のブラシュ! えっと、お名前は、コーキちゃんね? ご要件は?」
受付のお姉さんが、ボクを「ちゃん」付けで呼ぶ。
「タイホウガニを討伐してきました」
ボクは、タイホウガニの素材を大量にカウンターへ置いた。
「すっご! これだけのタイホウガニを討伐してきたのね! おいしそう!」
突然、ブラシュさんの足元から魚のヒレがバタバタ! と出てきた。ブラシュさんの下半身から生えているみたい。
「ごめんなさい。あたしって、興奮すると人魚の姿に戻っちゃうのよ」
そう言って、ブラシュさんは自分の分の食べたい分を拝借していた。残りを、係の人に。
「これは、あたしがもらっておくわね。子どもたちも喜ぶわ」
ハサミのある前足部分を、ブラシェさんは好んでより分けていた。どうも、この人は既婚者のようだ。
「一部の殻や身は、ちゃんとあなた方に……」
「結構です。ボクたちも食べたので。素材も持っています」
ボクたちは遠慮した。
結構、水炊きで食べたからね。ほぼ数日、鍋が続いたし。アヒージョにしたりとか味を変えてみたけど、カニは当分見たくないかも。
「なら、いいわね。じゃあコーキちゃん、報酬だけ受け取ってちょうだい」
ボクたちは、ブラシュさんから大金を受け取る。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは、こっちだわ。いやあ。ダメ元で、ツリーイェンにも依頼書を出しておいてよかったわ。こんなに退治してくれるなんて」
コラシェルでもまともに数を減らすことができなかったので、試しに【
フードを目深に被って、パロンが脇に引っ込む。あまり、有名人になりたくないみたい。
「コラシェルの冒険者も、ポンコツってわけじゃないのよ。とはいえ強い人は、みんな伯爵様のボディガードを担当しているわ。層が薄くなっているのは、事実ね」
ギルドに来ている冒険者は、亜人種が多かった。
「あのー。コラシェルって、亜人種が多いんですか? 知り合いがリザードマンさんを連れていたりしたので、どうなんだろうって思いまして」
街を歩いていても、数人に一人は亜人種だったけど。
「そうなの! 魔王の居城である、アプレンテスから漂う魔素を吸って、王都から亜人種がめっちゃ生まれるようになっちゃったらしいのよね」
亜人種は大昔、王都から随分と迫害を受けていたらしい。悪魔の子だ、と。
「その受け入れ先として、伯爵様が設立したのが、南の港・コラシェルと言われているわ」
「伯爵様って、ネトルシップさんのことですか?」
「そうよ! ネトルシップ一族よ! 魔王がいた頃からずっと、この領地を見捨てずに守っているの。よく知っているわね!」
「最近、御子息と顔見知りになりまして」
ブラシュさんは一瞬、ドキリとした顔になる。
「ティ、ティンバー様とお知り合いだなんて! すごいわね! は、伯爵様は、この街で一番大きなお屋敷に住んでいるわ!」
「ありがとうございます。行ってきますね」
ボクたちは、ギルドを後にした。
「なんか、ビビってる感じ?」
「それだけ、ティンバーは影響力が大きいんだろうね」
本来の知り合いはパロンなんだけど、当のパロンはあまり気にしていない様子。
「さっそく、ティンバーの顔を拝みに行こう」
まるでコンビニでも行くかのように、パロンはティンバーさんのお屋敷に足を向けた。
「ホントに、知り合いなんだろうな?」
「わたし、緊張してきました」
ガルバもアザレアも、緊張している。ふたりとも、本来は貴族様と接触するような立場ではない。
「大丈夫だよ。いざとなったら、パロンがついているから」
「ならいいけどよぉ」
終始ガルバは、ビクビクだった。
ティンバーさんのお屋敷は、とんでもなく大きい。
屋敷のサイズからして、港から近いのかなと思っていた。しかし、遠近法が狂うほど大きい建物だったのである。
お屋敷というか、ちょっとしたデパートを思わせた。ショピングモールというより、昭和風の百貨店に近い。
「でけえ屋敷だな」
「息子が、研究職だからね。これくらいデカくないと――」
ドカーン! と、爆発が起きた。中庭からのようである。
「なんだ襲撃か!?」
けたたましい足音が、屋敷の中から聞こえてきた。
「心配ない。どうせまた、ティンバー坊ちゃまだ!」
「坊ちゃまなら、仕方ないか」
冷気魔法を展開しながら、警備員さんたちが爆発のあった中庭へ向かう。
「警備の人たちからも、呆れられてるなんて。どんな人なんでしょう? ティンバーさんって」
アザレアがさっそく、不安になっている。
「これはこれはコーキ様、お早いおつきで」
「あ、アルさん」
ティンバーさんの執事である、リザードマンのアルさんから、声をかけられる。
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