第27話 コラシェルからの依頼

 一旦キャンプをして、夕飯にした。


 パロンが、簡単な料理を披露してくれる。


「おいしいね、パロン」


「ありがとう、コーキ。でも、ドナのような味は引き出せないんだ」


「それは、ドナさんが毎日料理をしているからだと思うよ」


 経験には、差が出てくるからね。


「さて、オフロを作ろう」


 夕食後、パロンは簡易の露天風呂を作り出す。木の板を下に敷いた薄い鉄板を、さらに薄くい細長い木の板で覆う。ドラム缶風呂を、ちょっと広くした感じだ。いわゆる「ゴエモン風呂」である。ボクが作った川からお水を引いて、お水を注ぐ。あとは、水を温めたら完成。

 これも、ティンバーさんが家庭用の浴槽として開発したそうな。


 おしげもなく裸になり、パロンは簡易オフロにダイブする。


 アザレアも、入浴することになった。さすがに木陰に隠れて、バスタオル一枚になってそっと湯船に入る。


「キャンプでオフロに入れるなんて、ぜいたくですね」


 控えめに身体を隠しつつ、アザレアがお湯で身体を温めていた。


「ふうう。本当は足を伸ばしたいけど、旅の途中だからね。これくらいで、魔力を温存しないと」


 ひとまず港町への遠征が終わったら、本格的な温泉施設をアプレンテスに建設予定だそう。


 オフロから上がって、パロンたちは焚き火で髪を乾かす。

 

「港町コラシェルからの依頼ですが、【タイホウガニ】というカニ型のモンスターを倒してくれとのことです」


 タイホウガニとは、海岸沿いの岩場に生息している、カニ型の魔物である。人間より大きく、ハサミから大砲のように魔法を打ち出すことから、タイホウガニと呼ばれているそうだ。船を大砲で沈めて、タマゴを産み落とすのだそう。


「それは、ちょっとヒドいね」


「でも、身はプリプリで美味しいそうです」


 繁殖力が高く、湧き潰してもワラワラ産まれてくるそうだ。


「じゃあ、海沿いを渡ってコラシェルへ向かおう」


 タイホウガニを退治しつつ、南下することに。



 

 翌日から、タイホウガニの退治を行う。


「おーっ。やってるね」


 人間より大きな青いカニのバケモノが、商船に向けてハサミから魔法を打ち出す。


 泡状の魔力弾を浴びた商船の板が、溶け出していた。


 ああやって、船を沈めるのか。


 ボクが食らったら、全身が溶けてしまうかも。


「大砲には大砲だ! 【アタック・トーテム】!」


「喝ッ!」


 召喚してそうそうに、トーテムがファアボールをカニに向けて打ち出す。


 ダメージは、軽微のようだ。


 ドンドン、と、タイホウガニがボクに向かって泡の魔法弾を撃ってきた。


「コーキさん! この!」


 アザレアが、カニのハサミが開いた瞬間を狙って、矢を放つ。


「【ファイア・エンチャント】!」


 パロンが、アザレアの矢に炎属性を付与する。


 カニのハサミが、大爆発を起こした。


「今だよ、コーキ!」


「新しい攻撃スキルを喰らえ。【サンダーストライク】!」


 雷属性を付与した武器で殴る、近接攻撃だ。


 一撃を見舞った直後、相手に雷が落ちる。


「やったな、コーキ」


 二匹目を相手にしていたガルバたちも、タイホウガニを全滅させたみたい。


「どうしよう。湧き潰しをしておく?」


「数は減らしておこう。カニを狩って生計を立てている冒険者はいるみたいだしね」


 アプレンテスから引いてきた水を、海岸の崖から海へ流す。


 魔物除けの浄化作用があるので、多少カニの数は減るはずだ。

 

「ここでキャンプをしよう」


 周辺に警備用トーテムを設置して、キャンプを行う。


 ツリーイェンで買ってきた鉄鍋に、水を注ぐ。ニンジンや白菜を切って、タイホウガニの身といっしょにお鍋にぶち込む。


 グツグツ煮えてきたら、できあがり。


「なにこれ? 味をつけないお鍋?」

 

「水炊きっていうんだ。食べてごらん」


 木で作った小鉢にユズを絞って、いただきます。


 ちゃんと、カニの味が染みている。カニを食べるなんて、何年ぶりだろう? 自分で獲ったカニだからか、余計においしかった。


 ホントはおしょう油をユズに混ぜると、ポン酢になって一層おいしくなる。ぜいたくは言えないけどね。


 おしょう油、港町にあるといいけど。


 あと、土鍋を作る技術もほしいね。

 土鍋があると、お料理の幅もグッと広がるだろう。

 

「コーキ」


 水炊きを食べ終えて、パロンが小鉢をヒザの上に置く。


「どうしたの、パロン?」


「コーキ……キミはウソつきだ」


 パロンが、ボクをうそつき呼ばわりした。


「ん? なにが」


 おいしくなかったのかな?

 でも、パロンの小鉢は、中身が空だった。全部食べたみたいだけど。


「ボクがウソつきだって?」


「こんなにおいしい食べ物を、パパパって作れるなんて。キミは、神様か何かだろ? 人間じゃないよね?」


 パロンが、変な言いがかりをつけてくる。


「どうなんだい? キミはボクより優れた魔法使いだって、認めなよ」


「そう言われても」


 ボクはれっきとした、人間なんだけど!? 


「でも、ワタシはアザレアからもらったレシピを、まるで再現できなかったよ!」


 普段からお料理していない人が、いきなりおいしいゴハンを作るなんて難しいよ。お料理って、ある程度の練習が必要だからね。


「ガハハ。魔女様にも不得意なものがあった。オレからすれば、パロンの人間らしい一面が見られてうれしいぜ」


 ガルバが、水炊きを食べながらお酒を煽る。 


「ふーっ。ごちそうさま。ホントにキミは、なんでも作れちゃうんだね」


「足りないものは多いよ。水炊きだって、材料が揃えばもっとおいしくなるからね」


「今でも十分おいしいのに、もっとおいしくなるなんて。やっぱりキミは神の申し子だよ」


 アザレアもつられて、「まったくです」と語りだす。


 大げさだなぁ。 

 


(第二章 おしまい)

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