第25話 村に納品

 途中で、依頼のあった村に到着した。


 パロンが、村の責任者のいる住居へ。村の分のポーションとグミを、村長に渡す。


「おはようございます、村長さん」


「毎回、敬語は結構ですよ、魔女様。あなたは私より歳上じゃ」

 

「そうだったね。ご依頼の品を持ってきたよ」


 ポーションの種類は治療薬だけではない。虫よけや土壌の活性剤なども含まれる。


 ボクも、アプレンテスで収穫した野菜を、村におすそ分けした。


「こんなデカいダイコンやカブが、あんな荒れ地で育つなんて」

 

「ボクもビックリだよ。味はどう?」


 村長が、パロンに促されてキュウリをかじる。


「うまい! これなら、野菜が苦手な子どもにもウケます! 感謝します、魔女様!」


 丸のまま野菜を食べて、村長が太鼓判を押してくれる。


 干し肉と野菜を使った料理で、夕飯をいただく。たしかに、こたえられない味だ。開拓が進めば、もっとおいしい野菜ができるよね。 


「主食は、豆料理なんですね」


「労働者の食事は、豆になりますなぁ」


 豆のスープに、パンを浸して食べていた。


 この豆料理も、もうちょっとおいしくできるといいな。


 そのために、港町で調味料をもらおう。


 食後、パロンがポーション作りを始める。


「すごいのできそう?」


「いい感じだね。村の薬草なども混ぜて、かなり上質なポーションができたよ」


「手伝うよ」


「ありがとう助かるよ」


 簡単なすりつぶし作業くらいなら、ボクでも手を貸せる。


 今のところ、薬草の質は村のほうが上だ。当然だけど、水や土の質がアプレンテスとは比較にならない。


 まあ、アプレンテスはこれからだよね。

 

 ポーションが完成するまで数日過ごし、改めて旅を続ける。


 ボクたちは、ツリーイェンの街に到着した。


 冒険者ギルドには、相変わらず無愛想なメイドの、ギンコさんが受付をしていた。


「死んじまったんじゃないかって、思っていたよ」


 再会してそうそう、ギンコさんが物騒な発言をする。


「様子を見に、アタシが直接捜索に行くところだった」


 自分であの危険な場所に行こうとするなんて、このメイドさんは強いのかな?


「荒野に花が咲いていたのを見たときは、夢でも見てるんじゃないかって思ったくらいさ」


 ギルドは「おそらくコーキは生きているだろう」と、ボクたちの調査を取りやめにしたそうだ。パロンも一度ツリーイェンに寄ったからね。


「バッチリ生きていますよ、ボクは」


 どっさり取ってきた素材を、カウンターに置く。


「野菜もくれるのか。どれもいい素材だね。商業ギルドに回しておくよ。どこで採取した? 近所の村で取れたのを、代わりに売りに来たのか?」


「アプレンテスで作りました」


「マジか」


 大きなダイコンをじっと見つめながら、ギンコさんはため息をつく。


「こんなみずみずしいダイコンが、あんな荒れた土地で作れるとは」


 ダイコンや蕪を、ギルドの職員さんに預ける。高く買い取ってもらった。


「マッドゴーレムを使って、土を耕しました。水も掘って地下から」


「あの硬い岩盤を……」


「ついでに、アプレンテス村までの道を、作りました。警報装置付きなので、少しは安全になったかなと思った……んですけどね」


 カメモンスターの残骸を、ボクは受付のメイドさんに見せた。


「あああ。まだ、こんなレベルのモンスターがうろついてんのか」


 素材を買い取って、メイドさんがため息をつく。


「こいつらが徘徊しているから、アプレンテスは発展しないんだよ」


 ツリーイェンの冒険者を派遣しても、まったく数が減らないという。


「どこかに、巣などはありませんか?」


「北にあるクレキシュ渓谷郡の、ダンジョンから湧いているそうなんだ。が、そこに辿り着く前に、冒険者のほとんどが疲弊しちまう」


 メイドさんが、地図を見せてくれた。クレキシュ渓谷郡は、シドの森とアプレンテスを挟んだエリアである。


 マップには、大まかなダンジョンの位置が書かれていた。崖だらけの渓谷群で、歩くだけでも危険が伴うという。


「じゃあ、ボクたちで見つけてきます」


「正気か? 北の王族さえ、突破できんのだぜ?」


 メイドさんが呆れた。


「どれくらい強そうなんですか?」


「あんたが倒したカメの、数倍は強いよ」


 そのダンジョンは、ギルドが依頼を出せないくらいの危険度だ。行くなら自己責任になる。ギルドや国は干渉できない。


「自分たちが、住んでいる場所なんです」


「ホントに、アプレンテスに居を構えたんだね。パロンから聞いていたけど、ホントにあんたは不思議くんだよ」

 

 ギンコさんが目を丸くした。


「危険なダンジョンがあるなら、安全を確保しておきたいですね。パロンがお店を始めたので、お客さんも来ますし」


「そこまで言うなら、止めないよ。ダンジョンで手に入った素材は、こちらで高く買い取らせてもらう。生きて帰れたら、だけど」


「お願いします」


 ダンジョンか。この間の森にあった洞窟とは、難易度がケタ違いだろう。


 港町で家具類を買い終わったら、見に行こうかな。


 残った冒険者ギルドの用事は……。


「お久しぶりだね、アザレア!」


「コーキさん!」

 

 冒険者の集う宿屋、その一階にある酒場に、見知った少女を見つけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る