第24話 港町へ出発

 港町へ向かう準備は、最終段階に。


 パロンは数日かけて、ポーションとグミを作成した。


 後は、ツリーイェンまでの道のりで、新種の薬草があるかどうか調査する。

  

「ひとまず摘んで、道中でポーションを作るかな」


 ガルバたちを拾ってから、馬車の中でポーションを自作するらしい。


「でも、お店はどうしよう?」


 今までは、ボクもアプレンテスにいた。けど今後は、しばらく留守にする。人がいなかったら、商売もできないよね。


「警備用のゴーレムを、作っておくよ」


 パロンが、少し強いタイプのウッドゴーレムを作成した。店の前に作ったベンチに、ゴーレムを座らせる。これで、無人の店を守る警備員が完成した。


 でも、どこかさみしいね。


「ちょっと待ってて」


 ボクはゴーレムに、切った木の枝を持たせる。


「武器かい?」


「具体的には、違うかな? 見ててよ」


 ゴーレムの足元に、切り株を置く。


 切り株をドラム代わりに、ゴーレムがコツコツと叩く。


「楽器を叩くように、指示を出したんだね」


 かつて故郷にあった、「店の前で太鼓を叩くおじさんの人形」をイメージした。


「うん。少しでも気分良く、お買い物してほしいからね」


 これで準備は整ったかな。


「とはいえ、必要なのは店番だよね」


 ゴーレムは、あくまでもマスコット兼警備員だ。お金の計算なんて、頼めないし。


「うむ。そこは任せておれ」


 ドロンと、賢人クコが人間サイズになった。白髪の老人だが、むき出しの筋肉が若々しい。髪と同じく、白いローブをまとっている。


「店番は、ワシがやっておこう」


 カウンターに、賢人クコがドシンと座った。


「大丈夫なの? ポーションとグミは、値段が違うんだよ?」


 パロンが、値札をクコにチェックさせる。


「会計は、できんじゃろうな」


「ダメじゃん」


「冗談じゃ。ポーションが半銀貨一枚で、グミが銅貨一〇枚じゃろ?」


「正解。ちゃんとやればできるじゃん」


「亀の甲より、年の功じゃよ」


 えへん、とクコが胸を張った。


「でも、本格的な店番は、いいよ。冒険者や行商が来たら、お酒の相手になってあげて」


「ならば、お安い御用だ」


「頼もしいね。ただし、営業中のお酒は控えてね」


「心得ておる。気をつけて行くがよい」


「いってきまーす」


 パロンが、クコに手を振った。

 

 いよいよ、ツリーイェンを目指す。

 

 道中、土魔法で土壌を整備していった。といっても、土地を平らにしていくだけだ。楽でOK。馬に乗りながらできるってのも、いいね。


 マッドゴーレムは、乾燥した土地を潤わせてくれるまでは、やってくれる。

 整地は、ボクの仕事だ。


「馬車がすれ違えるくらいの広さがあれば、いいよね?」

 

 ボクたちの小屋が特定できるよう、道にランタン型のトーテムを立てていく。魔物よけの魔法を施して、防犯装置の役割も果たす。木の枝に光魔法をぶら下げるタイプだから、鳥の巣になってもいい。


「かわいいランダンだね。キミ、センスあるよ」


「そうかな?」


 だが、トーテムが立っただけで安全ではない。ランタンが赤く染まり、ライト部分に「警告」と、こちらの文字で出てくる。モンスターが来たようだ。ランタン型トーテムは、攻撃まではできない。

 これで、盗賊が襲ってきてもわかるようにした。


「さっそく、警告の光が浮かんだよ」


「モンスターだね」

 

 自分の体にしまっておいた、魔法触媒用の杖を出す。モンスターから得た魔法石で、強化したものだ。


 この武器が鈍器じゃないことを、証明してやる。


 敵は、特大のカメ型モンスターだ。全長一〇メートルほどで、全身や甲羅が岩でできている。意思を持った岩山と形容してもいいかも。


 カメが、ボクに攻撃を仕掛けてきた。


「とうっ」


 杖で、ボクは相手の前足を受け流す。


「うーん、硬いね」


 ショートソードを触媒にして、パロンがカメに火球を投げつけた。しかし、岩を少々削っただけで、ダメージはたいして出せていない。


 じゃあ、ボクが。


「ファイアーボー……ルゥ!?」


 ボン! と、ボクは火球を放った。サイズが、火の玉なんてレベルではない。パロンがスイカくらいの大きさだとすれば、ボクの火の玉は大玉転がしくらいある。


 ボクが撃ったファイアーボールが、ゴン! とカメに着弾して爆発した。大人二人がすっぽりはいってしまいそうなくらいバカでかい火球が、カメの頭部を砕く。

 

 カメモンスターは生命体ではなかったのか、血は出ていない。しかしコアは潰したようで、もう動かなくなった。頭が弱点なんだね。


「コーキ、キミってすっごいね。こんなバ火力、ハイエルフにもいなかったよ」


 パロンが、ボクに抱きついてきた。


 ボクも、パロンを抱き寄せる。

 

「素材がいいんだよ! きっと! だってボク、世界樹なんでしょ?」


 なるべく、謙遜する。このままじゃ、パロンの立つ瀬がない。


「いやいや! キミがすごいゴーレムなのは、製作者冥利に尽きるよ。キミを転生させた女神の恩恵だったとしても、それでワタシが助けられたのは事実だ」



「生まれてきて、ありがとう」


「お礼を言うのは、ボクの方だよ。この世界に誕生させてくれて、ありがとう」


 そう言ってもらえて、ボクもうれしい。


「さあ、目的の村はもうすぐだよ。ポーションを届けに行こう」

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