第23話 パロンのグミ
パロンはボクの小屋の隣に、自分の店を出す。簡易小屋を設置し、大量の道具を出した。
「お客さん、来るかな?」
「来るかもね? コーキがお留守番している間、通り道の魔物は排除しておいたよ。あとは、道を整備できれば」
道路か。たしかに必要かも。何もない荒野だと、道に迷う危険もあるからね。
最後にパロンは、看板を立てる。『パロンの錬金小屋、アプレンテス支店』と書かれていた。
「その前に、棚のラインナップを増やさないとね。さて、薬草の種をさらにまくとするかー」
パロンは自分用の畑に、種を大量に撒く。
「あと、ツリーイェンで追加の依頼がないか見てきたよ」
ボクが受けられそうな依頼を、何枚かもらってきたらしい。
「しばらくは、ツリーイェンのギルドに依頼の品を届けつつ、道を整備していこう」
ガルバとアザレアをツリーイェンで拾ってから、港町へ向かう計画を立てた。
「ツリーイェンからの依頼で、ここの作物を売ってくれってさ」
まずパロンは、薬草畑を調べた。
「上質な薬草だね。水がいいのかな?」
パロンが、ヒモで吊るした桶を井戸に落として、水を汲む。
「人の手が触れていないからか、澄んでいるよ」
水を見ただけで、そこまでわかるとはねぇ。
「野菜はおいしいね。キュウリが最高だよ」
そうパロンが言うので、ボクも食べてみる。
なんという、歯ごたえとみずみずしさ。とても、一日で育ったとは思えない。完全に、野菜だ。
「それだけのスペースでいいの?」
「ワタシが管理できるギリギリは、これくらいだよ。それに、人が増えたら、麦畑の領域がいるでしょ?」
「今でも、手一杯かも」
ちょっと、果樹園を広く作りすぎちゃったかな。
「よし。ウッドゴーレムを増やそう。木を二、三本もらうね」
パロンは、樹木に手を当てる。
木は、人間の形になった。世界樹でなければ、あんなふうにゴーレムを作るのか。
「野菜や薬草の収穫とか、簡単な作業はできるよ」
さらにパロンは、小さいゴーレムを作り出した。採掘用の、ドローンだという。
ボクは他の枯れ木に、果物の接ぎ木をしてあげた。これで、木々も蘇るはずだ。
「石をなんとかしたいね。石材もほしい」
岩石を砕ける道具を、手に入れたい。鉱石を掘れる人も、雇いたかった。岩山って、もっと有効活用ができそうなんだけどなあ。
「こんなもんかな?」
畑や果物は、これでいいだろう。あとは、勝手に育つはず。作物はともかく、果実は店に売るための栽培ではない。自然を再生させるための植樹だ。徹底的に管理する必要はない。
ツリーイェンの通路さえ確保できれば、ある程度顧客も見込めるだろう。
「薬草畑がもう少し潤って、ポーションが自作できるまでは、お店の経営はもう少し待ちたいかな」
薬草の種類も多く、どれでなにができるのか調べたいとか。
夜になったので、小屋へ戻った。
魔力が切れてきたので、一旦休む。体力的にはまだできそうだけど、農具の使用に魔力を使っていた。ウッドゴーレムって疲れを知らないって思っていたけど、ボクの魂が疲弊しちゃうみたい。トーテムが絶賛活動中だし。ダルマたちが攻撃するときのみ、ボクの魔力は消耗するようだ。
食事は不要だけど、やはり睡眠は必要らしい。寝ている間に大地から魔力を吸って、回復するようだ。
今日も、大変動いた。
明日に備えて、今日は寝ることにする。
ベッドも綿が詰まっているとはいえ、もう少しまともな素材が必要だ。
ボクはゴーレムだから、疲れも痛みも感じない。しかし、人間らしい生活とは程遠いね。
部屋の雰囲気も、さみしい。雨風をしのげる程度の、最低限の設備しかなかった。
大地にとっては恵みでも、ボクにとっては湿気を呼ぶ不便な代物である。
家具があれば、少しは人間らしくなるかな。
チュンチュンといった鳴き声で、目を覚ました。
「鳥だ」
小鳥が、木に止まっている。場所からしてツリーイェン、ボクたちが最初に訪れた街から来たようだ。
ボクの旅も、ムダではなかったみたいだね。
「ブドウも果汁は、申し分ないね。これをポーションと混ぜて、味をつけてみよう」
パロンが布でブドウを絞り、ポーションと混ぜる。
ボクは別の布を使って、ミカンを絞った。
「糖分が混じって、性能が落ちちゃわないの?」
たしか薬って、スポーツドリンクと一緒に飲んじゃいけない、って聞くけど。スポドリの栄養素が邪魔をして、効き目の時間が変わるとかで。
「栄養素を果物から接種すれば、問題ないよ。そこは錬金術の腕の見せ所かな?」
紫やオレンジ色のポーションが、完成した。色は、着色用の草を使ったんだけど。
「その、コロコロしたのは?」
「グミだよ。子どもは苦いのを嫌うから、ポーションじゃなくて、薬用のグミを使う」
グミの中に、スライム状に粘り気のある薬品を包むそうだ。
味見をさせてもらう。
市販のものとは違って、素材をまるごと活かした味付けである。つまり、果物そのものの味って感じ。
それにしてもこの食感、ペラペラの寒天みたいだな。
「ああ、オブラートか」
「オブラート? これのことかい? 原理は同じだけど、ぜんぜん違うよ」
パロンが、ウエハース状のおせんべいを、ボクに見せた。これが、この世界のオブラートだという。
そっか。地球にある大昔のオブラートも、たしか薄い膜じゃなくて、ウエハースみたいな発酵パンなんだっけ。
「キミの作ったフルーツのおかげで、いいグミができたよ。ありがとうコーキ」
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