第20話 商人貴族と友だちになる

 ボクはセーフハウスから、外に逃げ出す。

 

「家に突っ込んでくる!」 


「うわあああ!」

 

 中年のおじさんが乗っている飛空艇が、ボクの小屋に激突した!


 なんとか、おじさんだけでも助けないと。


 コクピットのガラス窓を突き破って、おじさんが飛び出してきた。


「【ソーンバインド】!」


 ツタを絡ませて、おじさんをキャッチする。


 だが、飛行機はそのまま地面を滑り落ちて、向こうの崖に真っ逆さま。


「すまん、ケガはないか?」


「いえ……あっ!」


 仮面が、壊れちゃってる!


「お主、もしかして、ウッドゴレームか?」


 おじさんは、ボクの顔を不思議そうに見ていた。

 

 正体がばれちゃったかも!?


「顔を隠さずともよい。すまなかった。ぐう……」


 おじさんは、胸部をケガしている。


「じっとしていてください。治します!」


 ボクはありったけの魔力を込めて、彼にヒーリングを施す。


「ああ、すまん。ウッドゴーレム殿。おそらく、パロン・サントの作ったゴーレムだろう。だが、この際どうでもいい。この恩には必ず報いるゆえ」


「しゃべらないで」


「はい」


 じっとしてもらい、ボクは治療に専念する。


「治りました」


「どうもありがとう。傷口も完璧に、塞がっている。この治癒力。まさしくパロン・サントの力を感じる」


「パロンを、知ってるんですか?」


 この人は、パロンの知り合いなんだろうか?

 

「まあな。友人といえば、友人だ。知らぬ仲ではない」


「あの、ボクのことは……」

 

「構わんさ。誰にも話さん」


 おじさんのお腹が、ぐうと鳴る。


「待っててください。ゴハンを出しますから」


「結構だ。家を潰してしまったのだ。食い物まで恵んでもらっては、どうお返しすればよいか」


「まあまあ。食べてから考えてください」


「……そうしよう」


 豆は無事だけど、調理しないといけない。トマトなら、すぐに食べられるよね。


「どうぞ」


「どうもありがとう。うまい! 実にうまいトマトだ。ウチで売りたいくらいだ。お詫びに、すべて買い取ろう」


「いいんですか?」


「吾輩はこう見えて、商人貴族だ」


 トマトをバクバク食べた後、商人貴族様は惜しげもなく服で手を拭いてボクに握手を求めた。

 

「自己紹介が遅れたな。吾輩はティンバー・ネトルシップという。ここから南にある港町、コラシェルから来た。商人貴族の伯爵を父に持つ」


 ティンバーさんのお父さんは、裸一貫から行商人を始めて、一代で財を成したという。船による外交を成功させて、貴族階級まで手に入れてしまったそうだ。


「が、吾輩はただの研究好きなドラ息子だよ」

 

「コーキ・シラカバです。よろしく」


「ふむ。シラカバとな。東洋人……というか、東洋の木を用いて作られた可能性があるな」


「東洋地方に世界樹があるんでしたら、そうかもしれません」


 パロンのことだ。東洋の文化について詳しくても、おかしくない。


「どうして、飛行機なんて飛ばしていたんです?」


「王都を縦断する手段として、飛行機が使えないか試していたのだ」


 空路なら、海賊などに襲われることもない。


 アプレンテスの魔物にも、襲撃を受けないと思ったという。


「だが、結果はこれだ。実験は失敗。また一から、設計の見直しだ」


「飛行機か。原理はよくわかりませんが、素材くらいなら、提供しますよ」


 ボクの身体からの素材でよければ、飛行機の部品に使ってくれても構わない。


「まったく、キミはお人好しだな。パロン・サントそっくりだ」

 

「そうかもしれません。ボクは、パロンに作ってもらったので」

 

「やはりな。個人的に、研究者としては、キミの身体を隅々まで調査をしたいと思う。だが……そんなことをすれば、あのエルフ……翡翠の魔女ソーマタージ・オブ・ジェダイトの『パロン・サント』が黙ってはおるまいて」


 パロンなら、そうするだろう。


「サント家と我が家は、互いに商売相手でね。敵に回したくないのだ。とはいえサント家のことがなくても、キミからの恩を仇で返したくない。キミには、莫大な資産的価値があるかもしれん。だが、吾輩はキミとの友情を取るよ」

 

「ありがとう」


「友人として、この小屋にあった食料品を買い取ろう。ただ、条件が一つ」


「はい」


「トマトをもう一つくれ」


「あはは。はいはい」


 こうして、ティンバーさんとの商談が成立した。

 豆とトマト、ブドウなどを大量に買い取ってもらう。


「そちらは、何がほしい? なんでも言ってくれ。吾輩とキミの中だ。コーキ」


「では、香辛料とかはありますか?」


 一応ツリーイェンにも、塩コショウ程度はあった。

 だが豆料理に使うにしては、パンチがなさすぎる。


「ウチなら、たしか唐辛子があるな」


 唐辛子! 最高じゃん。


「ぜひください」


「あと、コーヒー豆などもあるぞ」


「それもぜひ」


「よし。ただで送ってやろう」


「いえいえ」


 さすがに、無料でもらうわけには。


「吾輩は、キミに命を救ってもらったんだぞ。それくらい、させてくれ。命に比べれば、安いものである」


 

 これは、断ったほうが相手に恥をかかせるタイプのお願いだね。


「では、お言葉に甘えます」


「そうしてくれたまえ。おや?」


 ティンバーさんが、崖の下を覗き込む。

 

「ぼっちゃま~」と、情けないお年寄りの声が聞こえてきた。

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