第19話 ウッドゴーレム、山に登る

 岩山に木を植えて、セーフハウスを作ろう。雨を吸ってもらって山に水を貯められたら、滝もでき上がるかな。滝の水が湖になってくれるかも。


 序盤こそ、普通の登山だった。

 上へ登るにつれて道は険しくなり、とうとう断崖絶壁になってくる。


「よし。【クライミング】は、生産系のスキルか」


 スキルポイントを振って、クライミングを行う。


 トレーニングすることでも、スキルはレベルアップしていく。

 戦闘によるレベルアップで手に入ったポイントを割り振ることもできるが、練習をしたほうがより専門的になる。


「登山はやったことあるけど、クライミングって初めてだな。でも、案外できるぞ」


 クライミングとなると、知識が必要になることが多い。

 その知識が、スキル振りによって手に入るのだ。


 ケンカなんてしたことないのに、戦闘ができるのと同じ原理かなぁ。

 

「高いなあ」


 思っていた以上に、てっぺんが遠かった。


 とはいえ、ゴツゴツしているから、比較的よじ登りやすい。

 クライミングスキルを手に入れるまでは、絶対に登れないって思っていたのに。


 ウッドゴーレムだから、身体が軽いってのもあるね。荷物もアイテムボックスに入っているから、重量を感じない。

 いざとなったら、ツタを使ってよじ登ればいいし。

 

「よいしょ、よいしょ」


 魔力は、ツタを通じて水場で補給している。

 ハンガーノックとは、無縁だね。


「よい、しょ。もうちょっとだ」


 てっぺんの標高も、森林限界ってほどじゃない。これなら、木を植えても育つはずだ。


「とうちゃーく」


 ボクは、てっぺんの岩場に腰から倒れた。一旦、魔力補給に時間を割こう。


「おいで、マッドゴーレムたち」


 マッドゴーレムを喚び出して、土壌を整地してもらう。ボクが休んでいる間に、木が育ちやすい環境にしないと。


「もういいかな」


 一休みした後、ボクは半身を起こす。


「おお、すごいすごい」


 岩だらけだった山肌が、苔むしている。

 ちゃんと水分が、山まで上がってきているな。

 これなら、お花の種が落ちてきても育つはずだよね。


 さらに、崖なども緩やかになっている。クライミングが必要ないくらい、登りやすくなっていた。


 針葉樹の苗木を、腕から生やす。


 確か森林限界って、低いところが広葉樹、高いところに針葉樹だっけ。その上だと、お花畑なんだっかな。

 

 ここだと、針葉樹が限界だろう。


 大樹は広葉樹の苗木だけを作るが、ボクは広葉樹も針葉樹も作り出せる。


「あとは、ボクの身体から作った苗木を、えいやっ、と」


 苗木を、土にぶっ刺した。


「おお、水を吸ってる吸ってる」 


 ドクンドクンと、根が池の水を吸い上げているのがわかる。


「その間に、家を作っちゃおう」


 余った木材を、アイテムボックスから出す。


 お豆腐ハウス二号が、完成した。


「一度、やってみたかったんだよなぁ」


 今日はお家の中で、たんぽぽコーヒーを作ってみる。

 薬草茶を作る過程で、作ってみたのだ。


 アイテムボックスから、砂糖とミルクを出して、コーヒーに継ぎ足す。


「ふーっ。落ち着くな」


 カフェオレで、一服する。

 砂糖もミルクも見つかったから、よかった。


 こういうのを、「チルする」っていうのかな。

 たしかに、くつろげている。


 自分の身体の構成を、確認しておこう。


 ボクの肉体から作れる作物って、果物・野菜・薬草など幅広い。

 コーヒー豆も作れるんだとしたら、すごいな。

 そのうち麦やコメなんかも見つかれば、取り込んでみよう。


 アプレンテス開拓の前に、ツリーイェンの生活事情を観察したことがある。

 どうも労働者のゴハンは、豆が主流みたい。それも、あまり味がしない感じで。


 朝に豆のスープが出てきたときも、ガルバは黙々と食べていたっけ。


 チリビーンズなんて作ったら、みんなおいしく食べてくれるのではないか。

 

 豆も、セーフハウスに保存しておいた。


 誰でも使えるように、食糧も大量に保存しておこう。


 なんて、有意義な時間だろう。


 人間だった頃、こんなのどかな暮らしをした記憶がない。


 社会人になってからは、年老いた家族をみんな看取った。一人っ子で、一人暮らしだったし。恋人も、作ったことがない。


 生きるのに必死だったな。


 ネコを助けたのも、誰かに認知してもらいたかったんだろうか。


 それにしても、きれいな景色だな。


 夕日って、あんなに大きいんだ。


 その中央に、黒い物体が。

 

「ん? 鳥?」


 この荒野にも、鳥が戻ってきたんだろうか?


 それとも、もうパロンが帰ってきた?


 いや、パロンのハトにしては、大きすぎる。それに、さっき出かけたばかりだ。


 なんかあの物体、だんだんとこっちに近づいていないか?


「【探知】!」


 敵モンスターが襲ってきたかもと、ボクは探知を発動させた。


 しかし、敵対心の気配はない。


 物体はグラグラと体制を崩しながら、こちらに近づいてくる。


「わあああああ!」


 男性の悲鳴のような声が、物体から聞こえてきた。


 あれは鳥じゃない! 小型飛行機だ! 


「おーい、止めてくれ!」


 コクピットから、中年男性の声が聞こえてきた。

 

 バランスを失った木組みの飛行機が、ボクのセーフハウスに向かってくるではないか!

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