第18話 豆腐ハウス完成

「じゃあコーキ。ワタシは一旦戻るよ。アプレンテスまでの地図も、向こうに用意しておくよ」


 ツリーイェンにいるガルバやアザレアにも、声をかけてくれるという。


「手伝うよ」


「キミは、ここの整地をしておいて。水も出てきたしさ」


 よし、パロンが戻ってくる間に、できることをしよう。


 まずは、家だね。


 いつまでも、パロンの家にお世話になるわけにはいかない。


「おうちを増設させてもらっていいかな? 自分専用のスペースを、作りたいんだ」


「OKだよー。ただし、ゴハンはいっしょに食べるからね」


 パロンは、手で輪っかを作った。


「わかった。増設は、寝床と物置までに留めておくよ」


「家具の心当たりはあるから、待っててね」


 パロンが、モンスターを召喚した。まるまると太った、白いハトである。ハトにしては、オウルベアのようにデカい。


「空を飛ぶ幻獣を呼べたんだね?」


「でも、一人用なんだよね。あとめちゃ燃費が悪いから、コーキが木を植えたり整地したりしてくれなかったら、飛び続けられないんだ」


 クコが、パロンの肩に移動する。


 パロンが、ハトの背中に乗った。


「気を付けて」

 

「いってきまーす」


 巨大な白いハトが、空を舞う。


「さて、ボクは家作りだ」

 


【クラフト】で、作業用の物置と自分用の寝室とベッドを作る。


「これでいいかな」


 コンテナハウスのような、真四角設計の家が完成した。いわゆる、「お豆腐ハウス」と呼ばれる代物である。

 ボクの設計センスだと、ここまでが限界なんだよね。


 あっという間に、家が完成してしまった。


「レンガを作る技術とかあったら、他の家も復元できそうだけど」


 あいにくボクは、土からレンガを加工する技術を持っていない。


 他の街に行って、調べてきたほうがいいか。


 これから、どうしよう?


「セーフハウスでも作ろうかな」


 アプレンテス荒野は、広い。


 各所にチェックポイントを作っておかないと、持たないな。


 ボクも魔力だって、無尽蔵ではない。

 ウッドゴーレムだからか、どこかから魔力供給がどうしても必要になる。


 ここは近くに大樹があるから、魔力には問題ないけど。


「大樹の根も、手広く張ってもらわないといけないよね」


 木材は、大樹から少し分けてもらった。

 後一軒分くらい、余裕はあるね。


 できれば、荒野一帯を見晴らせる場所に、セーフハウスがほしい。


「あそこがいいな」


 手頃な岩山を、発見する。




 ―幕間 港町の発明貴族―




 港町コラシェル出身の伯爵令息、ティンバー・ネトルシップは、小型飛行機をアプレンテスまで持ち込んだ。


「坊ちゃま! ムチャですって! 小型飛行機で、アプレンテスを横断するなんて!」


 トカゲ獣人族の執事アル爺が、ティンバーの後方から小型飛行機を押す。

 

「そうですよー。坊ちゃまー。考え直してくださいよー。ダリィってのー」


 ウサギ獣人メイドのチモ子が、前方から小型飛行機を馬車で引っ張っていた。

  

「やかましい! 吾輩はもう三五だぞ! 坊ちゃまって歳ではない!」


 ティンバーは飛行機を担ぎ上げ、手頃な飛行スポットを探す。


「坊ちゃまは坊ちゃまですぞ! このアル爺めが、どれだけあなたにお仕えしているかおわかりですかの?」


「だから、ついてこなくてもよいと言っているではないか!」

 

「そうは参りません。あなた様にもしものことがあったら、この爺めは……オヨヨ」


「泣くでないわ! まったく!」


 この飛行機は、ティンバーの発明品だ。完成すれば、魔物を相手にしなくても、アプレンテスの荒れ地を攻略できる。

 

 このところ、荒れ地だったはずのアプレンテスに緑が増えたらしい。


 テスト飛行は、アプレンテスの調査も兼ねていた。


「父上にはよろしく言っておる! 任せておけ!」


「お父様には、ロクに許可取ってねーじゃないですかー」


「声をかけておけば、屍は拾うてもらえようぞ! 吾輩はなんとしてでも行く……ぬお!?」


 荒野だったはずのアプレンテスに、花が咲いている。岩場には、泉が湧いていた。


「ふむ、珍妙な。味も見ておこう。ペロリんちょ、と」


 なんの警戒もせず、ティンバーは泉の水を指ですくい、舐め取る。


「あああああ坊ちゃまぁ!」


 慌てて、執事が回復魔法をティンバーに施そうとした。

 

「治癒などいらぬわ! これは紛れもなく、ただの湧き水であるぞ!」


「バカな!? 見果てぬ荒野であるはずのアプレンテスに、泉など!?」


「だが、事実だ!」


 つまり、誰かがアプレンテスを開拓していることになる。


 翡翠の魔女ソーマタージ・オブ・ジェダイト、『パロン・サント』か。

 あるいは、魔王が復活したのかもしれない。


 いずれにしても、調査が必要のはず。 


「おいチモ子、父上に報告せよ! 馬車は爺やが使うから、すまんが歩いてくれ。ここはまだ、街まで近いからな」


 チモ子は「はいなー」と、馬車から降りる。


「吾輩は飛行機で、行けるところまで向かう。この北への道に、ちょうどアプレンテスの中央まで続いているはず。うまくいけば、補給もしつつ荒野を突破し、王都まで進めるぞ!」


 ティンバーは、飛行機に乗り込んだ。


「いざゆかん、未開の地へ!」


 コクピット内のペダルを漕ぐ。


 前方のプロペラが、勢いよく回転を始めた。


 飛行機が前進し、大地から離れていく。

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