第16話 荒れ地を拠点に
数日後、アプレンテスに到着した。
「地面が硬いね。木々や作物が育つといいけど」
全然、土が水を吸わない。池の水も、引いてあるのに。
「難しいかもしれない。ここまでマナが死んでいると」
「マナが、死んでいるだって?」
「ここって、古戦場跡でさ。長い戦闘によって自然界のマナを取り込めなくなってしまったんだ」
大昔にここを拠点にしていた魔王が、王都と激しい戦闘を繰り広げたという。
今なお、土地が戦争の傷跡を残していた。土地が瘴気にさらされすぎて、穢れているのだ。
そのせいで、長年放置されたままらしい。
「もっと根本的な理由があるかもしれないけど、誰も長期滞在しないから調査が進んでいないんだ」
誰も予算を割いてくれないので、貴族どころか行商もここを迂回するという。直進できれば、一〇日で通れるルートらしい。なのに迂回が必要なため、さらに進行に一五日かかる計算だ。
「大変だね。家も、ボロボロだ」
村らしき場所はあったが、廃墟となっていた。ゴーストタウンなんてレベルじゃない。基礎すら残っていなくて、ほとんど遺跡になっているじゃないか。
「なにか、おるぞ!」
硬い地面を砕き、魔物まで現れた。四本脚の、獣? モグラとオオカミが融合した感じのモンスターが数体、ボクたちに狙いを定める。
以前戦ったイノシシは、交渉でなんとかなった。この魔物は、話が通じそうにない。デビル・インセクトと同じように。
「【煉獄モグラ】じゃ! 奴らはどんな土地でも住み着きよる。雑食で、肉もマズい!」
だったら、やっつけていいか。
「こんなところで死ねるか!」
ボクは体当たりで、魔物を転倒させる。
「起き上がるぞよ!」
「この! 【ソーンバインド】!」
地面から、ツタを喚び出す。魔物を、がんじがらめにした。しかし、全然ツタに力が通わない。
「ぬう、大地のマナが呼応せぬ!」
自慢の魔法さえ、魔物は引きちぎってしまう。
「このままじゃ……【召喚:マッドゴーレム】!」
少し離れているけど、池の水を利用してマッドゴーレムを喚び出した。
水が吹き出し、辺りを泥沼にする。足止めくらいにはなるかも。
だが重要なのは、土が水を吸うこと。
「水を得て、ツタに力が増したぞな。このまま【ウインドカッター】で!」
ツタに絡まったままの魔物を、クコが風の刃で切り裂く。弱った魔物は、沼に引きずり込まれていった。
「【プロミネンス・スラッシュ】!」
パロンがショートソードに炎をまとわせて、二匹目の巨大モグラを斬り捨てる。
モグラは炎魔法を浴びて、黒焦げに。
「最後の一匹!」
だが魔物は、井戸水の沼なんてヒョイとかわす。
「ワタシが倒そうか?」
ショートソードを手に、パロンがモンスターに攻撃しようとする。
ボクは、待ってもらった。
「パロン、ちょっとやってみたいことがあるんだけど」
「どうぞー」
よし。戦闘スキルをちょっと試してみよう。
「出てきて。【アタック・トーテム】!」
ボクは、トーテムポールのような丸太を召喚した。全部顔があるダルマ落としって言えばいいかな。顔なんてまんまダルマさんである。バラエティ番組で出てきそうな感じの大きいサイズで、見た目はコミカルな変顔だ。でも全部怒っていて、魔物に敵意を剥き出しにしている。
「喝!」
ブチギレ状態のトーテムが、口を開けた。ファイアボールを放つ。
「喝!」
避けたとしても、回避先に別のダルマが火球を吐き出していた。火球が着弾して、結局魔物は火に巻かれ、絶命する。
このダルマたちは、門番として今後も立っててもらおう。荒れ地の各所に設置して、警護システムとして活用する。
ダルマ落としたちが、笑顔になった。モンスターの気配が消えると、変顔で教えてくれるみたいだ。
「なんか、思っていたより強いね」
「コーキ、キミのレベルが高いからさ。あの魔物たちは、レベル一五相当だよ。普通の冒険者では、束になってかからないと太刀打ちできないね」
ガルバやアザレアでは、勝てない相手なのか。
強い魔物がいるなら、このままここを放置できない。
早く、浄化しないと。
「この大樹を、植えてみるね」
「待って、コーキ。拠点を作るから」
パロンが、拠点にするための家を建てた。道中で建ててきた、小さな小屋ではない。シドの森にあったような拠点と、同じ規模である。
「今はワタシたちが住めるだけの小屋だけど、そのうち大きくするからね」
「わかったよ。じゃあ、植えるね」
マッドゴーレムに、土地をならしてもらう。
続いて、苗木を植えた。
川の水を取り込みやすいように、木の周辺を水で囲む。
「よし、最後はボクの魔力を注ぎ込んで、おしまいだ」
一連の作業を終えると、ボクは眠くなった。
土地の魔力が死んでいるのも、影響しているだろう。
「ふー。たくさん活動するには、まだ大変な時間がかかるね」
「そうだね。今はゆっくり休んで。ワタシたちは、自分たちの作業をしておくから」
「うん。先に休ませてもらうね」
パロンにあいさつを終えると、ボクはすぐに眠った。
翌朝、大樹は見事に成長していたではないか。
昨日植えたばかりなのに。
「これって、お笑い番組で言う『天丼』じゃん!」
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