第二章 ウッドゴーレム、土地開拓を開始
第15話 荒野を緑化しつつ、旅を
アプレンテスまでの道のりは、想像以上に環境が厳しい。草原も木もなく、吹きさらしだ。ゴツゴツした岩のせいか、風の強さが増している。いわゆる「ビル風」みたいになっていた。
アプレンテスへ向かう道中で、カマドウマとカマキリを足したようなモンスターが襲ってきた。オッサンの悲鳴のように鳴きながら、両手のカマを振り回してくる。
「うわ、こんな奴らが襲ってくるのか!」
「こやつらは、【デビル・インセクト】じゃ!」
悪魔の虫って意味か。正体は、虫に取り付いた弱い悪魔だという。動きが早い。これも悪魔の所業?
「この!」
カマを振り下ろすタイミングで、反撃した。カウンターで相手のノドに、杖の先を打ち込む。
「みんな、下がって! 【フレイム・ビート】!」
パロンが炎の範囲魔法で、カマドウマモドキ焼き尽くす。
しかし、まだウジャウジャと湧いてくる。
「コーキ、土魔法じゃ!」
「こうなったら。【ロックスロー】!」
ボクは小石を空中に浮かべて、デビル・インセクトにぶつけた。
「うむ! こちらも。【ウインドカッター】!」
風魔法で、クコも戦う。
だが、いくら風の刃で切っても石をぶつけても、デビル・インセクトは増えるばかり。
「キリがないぞよ!」
「おおーっ。こうなったら! クコ、合体魔法だ!」
「ウム。【サイクロンスクイーズ】!」
ボクは、クコに竜巻を起こしてもらう。
竜巻に飲まれたモンスターたちは、手足の自由を失って防御できない。
そこへボクが、大量の岩石を叩き込む。
竜巻に飲まれて、岩石がデビル・インセクトを叩きのめした。
「これぞ、【岩石百裂拳】!」
スキル表にも載っていない、オリジナルの技である。シャーマンは一応格闘のスキルもあるので、そのパターンとみなす。
なんとか、デビル・インセクトの大群を壊滅させる。
二週間もすると、ヘトヘトになった。まだ、アプレンテスに到着していないのに。
インセクトは食料にもならず、ロクなアイテムを落とさないし。連日こんな魔物ばかり相手にしていては、身が持たない。
王都と港町が、この地を迂回して進むわけだよ。
「この道が開拓されたら、港と一直線なのにね」
「まあ、この荒れ地があるから、ツリーイェンが栄えてる、ってのもあるけど」
とはいえ、ツリーイェンを回ってアプレンテスを迂回するのは、相当な手間である。
「コーキ、ひとまず休憩を挟もう」
「そうだね。こうも歩きっぱなしじゃ、大変だ」
ボクは一旦、ここに休憩所を建てることにした。
「木材を揃えて、【クラフト】」
雨風をしのげるだけの小屋を、建築する。川の水も流れているから、馬の水場にも困らない。
ボクたちはそうやって、拠点を作っていくのである。だいたい、三日分歩いては小屋を一件作るというローテだ。
ツリーイェンへの道も、舗装しておく。
これまでのミッションで得た種を植えていき、川の水を引いて育てる。
魔法で育成するので、種は植えたら一瞬で芽を出す。
そのおかげか、蝶や鳥がボクたちの道中にやってくるようになった。動物たちも、そのうちやってくるかも。
ガルバやアザレアたちにも、拠点のことは話してある。この道を伝って、向かえばいい。
「中継地点を作ったのはいいけど、見張りがほしいね」
あと、土地を耕す担当がほしい。
「【マッドゴーレム】でも、召喚するかい?」
泥で作ったゴーレムを召喚するスキルの存在を、パロンから学ぶ。
「やってみるよ。【マッドゴーレム召喚】
下半身のない泥製の人形が、地面から二体現れる。
「ここから、どうするの?」
「どうもしないよ。彼らは生活しているだけで、勝手に増えていく。土地も乾燥地帯から、泥の混ざった土に変化できるよ」
「ホントだ」
カラカラだった地面が、しっとりとしていった。
これが、マッドゴーレムの力か。
ゴーレムがゴーレムを召喚するって、ちょっとおかしいけど。
また、デーモン・インセクトの大群がやってきた。しかし群れは、マッドゴーレムが作った泥地帯に足を取られる。
「うわああ」
マッドゴーレムが、インセクトを次々と沼へ引きずり込んでいく。
「これ、ガルバたちが来ても大丈夫かな?」
「召喚獣だから、敵味方の識別は可能だよ。魔物にしか、反応しないから」
だったら、いいか。
ボクが川の水をシドの森から引っ張っていることで、マッドゴーレムは自活できるという。
「あとは、池がほしいね」
水を溜めておけるエリアがあれば、アプレンテスの水場も確保できるだろう。シドの森から川の水を引きつつ、池で貯水していきたい。
「周りに木を植えていけば、池の水を吸って成長もできるよね。川魚だって、生活できるかと」
クラフトによって、小屋が完成した。
「ちょっと休むよ」
ボクは即、眠る。
翌朝目覚めると、広大な池が完成していた。
「うわ、なんだこれ」
たしかに、池がほしいって言っていたが。
「キミの願望がマッドゴーレムを増やして、池という形で実現したんだよ」
外を見ると、マッドゴーレムは一〇〇体、いや一〇〇〇体くらいに増えている。
「ありがとうみんな。これで土地の再生が早まってきたよ」
アプレンテスまでの道のりが、少し軽くなった。
「でもコーキ。どうしてアプレンテスに行きたいんだい?」
「この苗木の、故郷なんだって」
ボクは、大樹から託された苗木を取り出す。
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