第14話 荒野 アプレンテスへ
「ここから徒歩で一ヶ月ほど進んだ先にある荒野だ。行くとしたら、相当な覚悟がいる。オススメはしないよ」
港町と王都を挟んで、無限に広がる荒野があるという。
樹木が生えていない土地をずっと歩き続けるため、補給は不可能。おまけに岩山に囲まれて、ただでさえ居住区としては適さない。
「おまけに、嵐で街がやられたんだよ。今は何もない場所さ」
ツリーイェンなどに住むミノクス地方の住人も、一部はアプレンテスから逃げてきたそうだ。
「地元民すら近づかない土地、か」
辺り一面、荒野しかないという。魔物は棲んでいるが、動植物はいない。
ツリーイェンの街にも、アプレンテス宛てのクエストも貼られていなかった。
これだけで、見放されている土地だとわかる。
行商の馬車も、この土地は迂回して進む。
さぞ、不便だろう。
それでも……。
「わかりました。そのアプレンテスという場所に、行ってみます」
「やめときなって、コーキ。死にたくなかったらな」
ギンコさんが、血相を変えてボクを引き止めた。
「そうだよ。ワタシも古代遺跡を探索したとき、食べ物が枯渇して大変だったんだから」
パロンにも反対される。
「ギルマスやパロンの、言う通りだぜ。いくら最強のコーキでも、こいつばかりは」
「そうですよ、死にに行くようなものです」
ガルバもアザレアも、ボクに行ってほしくないようだ。
「いえ。行きます。そこを通りやすい場所にするだけでも、やってみますよ」
ウッドゴーレムであるボクだから、行く価値があると思う。
「ガルバとアザレアは、ついてこなくてもいいからね」
補給ができないなら、連れて行くことはできない。
二人はボクと違って、ただの人間だ。補給なしで歩き続けるなんて、ムリだろう。
馬車で三日間移動して、アプレンテス荒野に向かう。
途中訪ねた村々で、アプレンテスの評判を聞く。
雪が振らないから、寒くはないらしい。しかし雨も降らず川がないため、硬い地面を掘って井戸を探すしかないとか。生き物が育つには、過酷すぎる環境だと。
めんどくさそう。
「途中までの馬車は、手配してやろう。そこからは済まないが、二人だけで行ってくれ」
「どうもありがとうございます、ガルバ。寄るところがあるから、ついてきてください」
「わかった」
ボクらは一旦、シドの森まで引き返す。
馬車にて、パロンがアザレアから本をもらっていた。レシピ本のようである。
「ウチの母直伝のレシピ本です。母は冒険者時代からお料理が得意だったので、そのときに得た知識が詰まっています。複写しておいたので、ぜひ活用してください」
「ありがとう、アザレア! 大切に使うよ!」
パロンは大喜びで、馬車の中でレシピを読み耽った。
「お料理も、奥が深いね。エルフって『素材の味を活かせ』って風潮があるから、お料理に関心がないんだよ」
馬車が、シドの森にあるパロンの小屋に到着した。
ここで、二人とはお別れである。
「ホントに、馬車は必要ないのか?」
「大丈夫ですよ。そのうち二人も来られるように、道は作っておきます」
ガルバとアザレアは、キョトンとする。
「お、おう。気を付けてな」
二人は、去っていった。
「でもコーキ、対策はあるのかい? いくらウッドゴーレムのキミでも、荒野を旅するのは難しいよ」
「秘策はある。その前に、クコと話さないと」
ボクは、シドの森の賢人であるクコと対話をする。
「ふむ。アプレンテスへ向かうとな」
「この大樹の苗木だけど、アプレんテスでも育つと思うんだ。だから、行ってみたい」
「しかし、そこまでの道中じゃな。ロクに食料も手に入らぬ状態では」
「食料はムリかもしれないけど、水は確保できるよ」
「水?」
「ボクの力で、川の水を引っ張りながら進もうかなって」
ひとまず、見せることにした。
川へ向かい、自分の腕からツタを伸ばす。
ツタが、水をゴクゴクと吸収していった。
「ほおーっ。そんなことができるのか」
クコが、ボクを見て感心をする。
ボクだって、驚いていた。
自分の身体からフルーツを栽培するとき、水を吸う感触があったため、できると思ったのである。
まさか、本当にできるなんて。
「ボクは自分の身体から、果物を育てることができる。食事はそれでやればいい。なんなら、ボクを狙った鳥とか動物を確保してもらう」
「それは大丈夫さ」
エルフは、果物だけでも十分に栄養を接種できるという。
「水さえあれば、大地と魔力を融合させて、植物を育てる栄養を補給できる。あとは、荒野を緑化させながら進むことにするよ」
「わかった。そういう作戦で行くなら、ワタシも付き合うよ」
パロンは、自分の小屋から必要なものをすべて持ち出す。
「クコはどうする? ついてくる?」
「うむ。そろそろ、留守番にも飽きたぞい。二日酔い解消の薬草茶も、残りが少ないしのう」
クコが、立ち上がった。手荷物は、お酒の入ったひょうたんだけである。
「少々心もとないが、足りぬ分はまたコーキが作ったワインの世話になろうかのう?」
「どうぞどうぞ。ボクもクコがいてくれて、心強いよ」
ボクの方も、準備は済んだ。
「コーキ、行こう。新天地を目指して」
(第一章 おしまい)
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