第13話 大樹を再生させる

 オオムカデの群れが、ボクに襲いかかってきた。


「一人じゃムチャだよ、コーキ!」


 パロンがボクを引っ張ろうとするが、ボクは逃げない。

 

「一気に仕留めるよ。【ソーンバインド】!」


 ボクは、ムカデたちをツタで拘束する。


「からのぉ、【チリング・ノバ】!」


 群れだろうとなんだろうと、ツタに氷魔法を這わせて一気に凍らせれば。


「弱らせたよ! あとは、お願い!」


「任せろ、コーキ!」


 ガルバたちに、ムカデのとどめを刺してもらう。


「おおお、やった。やっちまったぜ」


 腕で、ガルバが汗を拭った。


「アレだけのボスモンスターを、これだけの数で」


 アザレアも、信じられない状況みたい。深く、呼吸を整えていた。

 

「とんでもねえ強さだな、コーキ。レベル一〇超えは、伊達じゃないぜ」


「ありがとう。お褒めに預かり光栄だよ」


 これでもう、大樹にまとわりつく魔物はいないだろう。


 あとは治療してあげれば、大樹は自力で再生できるはずだ。


 その栄養は、ボクが。


 ボクは、大樹に近づく。


「傷口を見せて」

 

 大樹の根っこに触れて、傷んでいる箇所を探す。


 根っこは、かなり食べられていた。ひどい傷である。人間なら、致命傷って言えるだろう。


「こんなの、もう再生は不可能だ。ほうっておいても、自然治癒せずに枯れてしまう。魔素を取り込みすぎたんだ。新しく生え直すしかないよ」


「大丈夫。ボクなら、できるよ」


 根拠はないけど、なぜかイケる気がした。

 


「ボクが治してあげるね」


 ボクは、大樹に魔力を注ぎ込む。


 しかし、一向に大樹が回復する予感がしない。


 やはりダメなのか? いや、違う。


「魔力だけじゃ、足りないみたいだね。ボクの枝を、少し分けてあげるよ」


 ボクは、自分の腕から枝を伸ばす。枝を折って、大樹の傷口に差し込んだ。


「生きて生きて生きて……」


 祈りを込めながら、さらに魔力を枝越しに注ぎ込む。


 だんだんと、大樹が光を放つ。


「生き返った! コーキ、大樹が再生していくよ!」


 興奮気味に、パロンがボクの肩を掴む。ピョンピョンと、飛び跳ねだした。


 大樹の根が脈を打ち始め、ボクの枝を完全に取り込んだ。根っこがさらに伸び始めて、ダンジョンを覆い尽くすほどに成長を続ける。

 

「ダンジョンが、潰れそうだ。脱出するぜ」


 ガルバを先頭に、ボクたちは外へ避難をした。


 森で一番大きかった大樹が、シャッキリと突き出る。


 あんなに大木が、森の中心に育っていたのか。魔物に根っこを食われて、しおれていたのに。


「キミってすごいね、コーキ。森を再生させてしまうなんて」


「みんなが、サポートしてくれたおかげだよ。大樹だって、自力で生きたいって思ったから、再生できたんだよ」


 ボクは、大樹の背中を押したに過ぎない。


「でも、大樹は感謝してくれているよ。ほら」


 ホタルのような光が、ボクの前に集まってきた。大樹を守護する、精霊たちである。精霊たちはよってたかって、長い枝のようなものを担いでいる。


 杖は、ボクの前に差し出された。


「【大樹の苗木】だって」


 これ、杖じゃなくて苗木か。


「どこかいい土地にこの木を植えたら、大地を浄化するって」


 死んだ土地でさえ、魔力あふれる立派な森に変えてくれるという。

 大樹の力だけではなく、ボクの力も加わった苗木なんだとか。


「わかった。ありがとう。いただくよ」


 ムカデからも、素材を手に入れた。短剣のようなアゴが、二対もある。


「これ、【オオムカデのアゴ】だって。そのまま武器として加工できそうだね」


「そうだね。二人さあ。せっかくだから、もらっておいたら?」


 ひとまず一対ずつ、ガルバとアザレアが手に取った。

 

「ありがてえ。オオムカデなんて大物、レベル一〇以下の一帯ではなかなかお目にかかれねえからな」


 残ったオオムカデの素材は、すべて冒険者ギルドに提供することに。ギルドで装備品に、加工してもらってから受け取りたいそうだ。




 ツリーイェンのギルドに、戻ってきた。


 戦利品を売って、お金に交換する。


 装備品は、【オオムカデの短剣】を。戦闘には、使わない。主に、伐採用だ。

 あとは、外殻から作った【シェルアーマー】だけでいいかな。金属のヨロイ並に、固いらしい。


 パロンは他に、サソリの毒を分けてもらう。これをオオムカデの短剣と錬成して、毒性のナイフを作るんだって。


「それだけのレベルと装備があれば、それなりに遠くまで旅ができるだろうよ」


「そうなんですか?」


「ああ。南に行ったら港町があるし、北西には王都ダリエンツォもある。どこへなりとも行けるだろうさ」


 王都か。ここより大きな街に行くのも、面白いかもね。


「ただし」と、ギンコさんが付け加える。


「そうだ。コーキ、いいことを教えてやる。南西のアプレンテス荒野にだけは、絶対に行くなよ」


 世界地図の中で灰色になっている土地を、ギンコさんが指差した。


「えっと、そのアプレンテスってところには、なにがあるんです?」


「なにもないよ。というか、かつてはあったんだけどね」


 言葉を濁しながら、ギンコさんは続ける。

 

「とある村が、地図から消えた」

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