第12話 ダンジョンへ

「うわっぷ!」


 焚き火のそばにいたガルバが、あぐらをかいたまま宙に浮く。


 木の上で夜を明かそうとしていた鳥たちも、一斉に逃げ出した。


 悪いことをしちゃったなぁ。


「コーキ、なんだ今のは?」


 あぐらをかいた状態で、ガルバが聞いてくる。


「やりすぎました。すいません」


 ボクは、ガルバに詫びた。


「あそこまで、強い火力が出るなんて」


「いやあ、参ったね。コーキの力が、これほどまでだなんて」


 さすがに、これはちょっと危険だ。


「次は、コントロールを学んだほうがいいかもしれないね」


「うん」


 ウルフの魔法石と、角三本のうち二本は、換金することに。

 今だと火力が、過剰になってしまうからだ。

 

 

 翌日、ボクはこの世界で初めてのダンジョンに到着する。


 

 岩の断面を切り取った、文字通りの洞穴だ。

 

「ここって、なんか由来があるの?」


「ダンジョンは、大地の魔力が漏れ出してできあがるみたい。もちろん、普通に洞穴だったりするよ。でも【ダンジョン】ってのは、微量に魔力を放出しているんだ。エルフだと、すぐに探知できるよ」


 たしかにこのダンジョンからは、微量の魔力が漂っているらしい。


「大舞台の調査隊を派遣するまでもないけど、警戒はしておいたほうがいい。こういったダンジョンには、決まって魔力発生源のモンスターがいるからね」


 ダンジョンの魔力を吸いすぎた、大型の魔物が潜んでいるという。


「ほとんどのダンジョンは、魔物たちがダンジョンの発生源の魔力を取り合いになって、魔物たちのるつぼになっているケースが多いんだ。で、ボスが決まると、みんながソイツに従う」


 ガルバの後ろで、パロンがボクに解説をする。


「ボクが前に出たほうがよくない?」


「大丈夫。ワタシが前にいたほうが、都合がいいよ」

 

 パロンが後方で魔法を放ち続け、ガルバのシールドを強化しているからだという。

 

「モンスターが来たよ!」


 人間サイズのヘビや、サソリが襲ってきた。


 ガルバが盾で魔物の攻撃を抑え込み、そのスキにパロンが魔法を打ち込む。


 ボクも前に出て、杖を突き出した。この狭い空間でファイアボールを撃てば、みんなが酸欠になりそう。


 こういう魔物って、寒さに弱いはず。

 

「【チリング・ノバ】!」


 ボクは範囲攻撃の、氷の爆発を起こした。


 軽めの爆発だけど、ヘビやサソリは見事に動きが鈍る。


「ナイスだ。あとは、オレがやってやる!」


 ガルバが剣で、ヘビたちを切り裂いた。


「いっちょあがりだ」


 ヘビの牙と、サソリのシッポを素材として手に入れた。


 パロンが素材から、解毒ポーションを作り出す。アザレアに、作り方をレクチャーした。


「このポーションの作り方を覚えておいたら、毒にやられても効果てきめんだよ」


「ありがとうございます」


「なに。乾燥肉の作り方のお礼さ」


 この道中で、パロンはアザレアから、おいしい乾燥ウルフ肉の作り方を学んだ。味に無頓着すぎて、「保存がきいて食べられれば、味はどうでもいい」と考えていたらしい。今回の旅で、食に生きがいを見出す大切さを知ったという。


 

「このダンジョン、なんか湿っぽいね」


 洞窟の天井から、木の根っこのような物まで突き出ている。


「ゴールが、大樹の根っこみたいなんだよ」



 この大樹は、世界樹と同じ働きをするようだ。精霊を呼び、付近の安全を守るのである。


 だがパワーバランスが難しく、魔物に食われて力を失うときもあるんだとか。

 

 どうもその大樹が腐り、魔物の巣になったっぽい。


 聖なる力が宿った大樹は、根腐れを起こすとパワーが反転する。魔物に、つけ入れられてしまうのだ。


「ボスだよ!」


大型の昆虫が、木の根っこにへばりついている。ムカデ型の怪物だった。大樹並に、大型の魔物だ。


「大ムカデが、世界樹を食べているよ!」

 

 こちらに気づいたオオムカデが、襲ってきた。


「コーキ、避けろ!」


「逃げてください、コーキさん!」


 ガルバが剣を、アザレアが弓を構えて、けん制の姿勢を取る。


 しかし、ボクは逃げない。


 大樹が困っているんだ。助けないと。


 まずはムカデを倒して、周りの安全を確保する。その後で、治療してやろう。


 ムカデのアゴが、ボクの胴体を捉えようとした。


「おおお、どすこーい!」


 ボクは、ムカデの口を掴む。


 ミシミシ、と身体がきしんだ。


 だが、これでいい。


 キングボアに突撃されたよりは、軽い軽い。


 おそらくこのボスは、そこまで強くはないんだろう。大樹を食べて強くなろうとはしているが、まだキングボアにも及ばない。殺意はこちらのほうが上だけど。


 ボクは、コイツより強いモンスターと戦ったことがあるんだ。負けるもんか。


「【ソーンバインド】!」


 ツタを身体から生やして、ボクはムカデを拘束した。ゴキゴキと繊維質を破壊しながら、ムカデの胴体を締め上げる。


「今だよ、みんな!」


 後は、パーティのみんなに撃退してもらう。


「やったか?」


「まだだよ、ガルバ! いっぱい出てきた!」



 オオムカデは、一体だけではなかった。さらに数を増やす。その総数、実に一三体ほど。


「やべえぜ、コーキ! 数が多すぎる!」


「大丈夫だ。ボクに考えがある!」

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