朝、願わくば(彼氏Side)
隣で寝ていた彼女が動いたのに気がついて
目が覚めた
寝起きでよく働かない頭のまま
どうしたのかと聞き耳をたてていると
何やら携帯を操作しているらしい
しかしそれも一瞬で
少し冷たい空気と一緒に
彼女がいそいそと布団に入り直してくる
少し掠れた小さな声で
「いてて…」なんて言いながら
ゆっくり体を倒していく彼女をみてると
昨晩はほんの少しだけ
無理をさせたかもしれないと思った
やがて完全に布団を被り直し
満足そうに深呼吸する彼女
…ご満悦ですかそうですか
なんだか寝床を整えた小動物みたいだ
その様子があまりにも可愛くて
つい薄目を開けて眺めてしまう
窓から覗く外はまだ薄暗い
あと何分寝られるか…とげんなりするが
そういえば今日は祝日だったか、と思い直す
それなら無理に起きる必要もない
…もっとも、昨晩それが分かっていたから
夜更けまで貪ったのだけれど
既に蕩け切っている彼女を
意地悪くそれでも丁寧に責め立て
欲望のままに最奥を突き
精を吐き出したことを思い出す
薄皮越しに感じる彼女の熱に
自身が融かされてしまうのではないかと
思いながら
それでも僅かに残る理性で
傷つけないよう、壊れないよう
優しくしたつもりだ
今更になって
彼女は痛がっていなかっただろうかと
心配になった
深く目を瞑りなおせば
そんな不安をよそに
また何事もなかったように
静かに時間が流れていく
耳を澄ますと外は少し雨が降ってるようだが
このようなら起きる頃には止むだろう
料理をしない彼女の冷蔵庫は
きっと空のはずだから昼前には
買い出しに行かないと、などと
寝ぼけた頭を働かせていると
不意に指先に何かが当たった
不思議に思い
薄目を開けながら確認すると
彼女が俺の指に自分の指を絡ませながら
何やらしている
何か分からないが
ご機嫌のようで可愛い
そうこうしているうちに
やがて指だけでは飽き足らず
腕ごと絡ませながら持ち上げたかと思うと
彼女は胸の前でそれを抱きかかえた
俺の腕を抱きしめながら
またしても満足そうに息をつく彼女
そのままもう一眠りするつもりのようだ
…何だこの愛くるしい生き物は
思わず微笑ましくなって
こぼれた笑いのせいで
寝たふりができなくなってしまう
それをごまかすように
俺は彼女に声をかけた
「…どうしました?」
その声に彼女が少し驚く
「ううん、どうもしないよ」
彼女はそうはにかみながら
首を小さく横にふる
俺の腕を抱きしめたまま。
なんて、なんて愛しいんだろう
俺は衝動を抑えられなくて
空いてる方の腕で彼女を抱き寄せた
目を白黒させながら
俺の方に倒れ込んでくる彼女
すっぽりと腕の中に収まった頭から
自分と同じ匂いのシャンプーの香りが
ほんのり立ちのぼる
身体を強張らせたままの彼女は
どうしたら良いのかわからなくて
小さくじたばたしている
本当に小動物みたいだ
この期に及んでまだ
抜け出せると思ってる
彼女の女性らしく柔らかい肩に
腕を添わせてもう一度抱きしめなおすと
彼女はやっと観念したように
恐る恐る体重をかけてくれた
やがて安心したように
大きく息を吐いて寝息を立て始める彼女
そう、それで良いんだよ
目が覚めたら買い物に行く前に
もう一度だけ君と愛を確かめ合おう
でも今はまだ
この幸せな時間を噛み締めていたい
願わくば、
この時間がずっと続けばいいのに
そう思った。
朝、願わくば 琥珀 艶(こはく えん) @kohaku731
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