第2話
ぼくはお祭りに戻ろうかと思ったけど止めて、キュッキュルさんの所に向かった。
キュッキュルさんはお母さんと仲良しで、とっても物知りなイルカだ。とっても昔からお母さんと仲良しだから、お父さんのことも知ってるみたいだ。
お母さんはぼくが聞いてもあまりお父さんの話しをしてくれない。だから、ぼくがお父さんについて知ってるのは二つしかない。
一つは、お父さんは今とっても遠い所にいて、会えないこと。
あと一つは、お父さんは『熱帯』って言うここよりずっと暖かい所で生まれた『熱帯人魚』だと言うこと。お母さんとぼくの群ははなになに人魚っていう呼びかたをすると『寒帯人魚』って言うみたいだ。
熱帯人魚と寒帯人魚の違う所は、寒帯人魚の人の体にうろこは生えてないけど、熱帯人魚には柔らかくて薄いのが生えてるんだって。何で生えてるのかなって聞いたら、お母さんが考えるには、強すぎる太陽の光から人肌を守るためにあるんじゃないかだって。
ぼくは前、キュッキュルさんから熱帯はとっても遠くにあるって聞いたから、お父さん、実は熱帯にいるんだと思う。
キュッキュルさんはイルカの群にいたけど、ぼくの姿を見ると群から離れてぼくの方に来てくれた。
「よう、真珠。サンゴ祭りはもう終わったんかい?」
キュッキュルさんは縦に横にぐるぐる泳ぎながらそう言った。
「……まだ終わってないけど、競技は終わったから出て来ちゃった」
キュッキュルさんはぐるぐるするのを止めて、ぼくの顔をのぞきこんで言った。
「何かあったんかい? 難しい顔してさ」
ぼくは、お母さんが首飾りを見て悲しそうな顔をしたことを一気に話した。
「――ぼく、お母さんが一番喜ぶ物をあげようと思ったのに……。お母さん、なんで悲しかったのかな……」
「うーーーーーーーーーーーーーーーん」
キュッキュルさんは動くのを止めて、そううなりながらどんどん沈んでいった。
「キュッキュルさーん?」
ぼくが呼びかけるとまた泳ぎ出して、ぼくの所まで戻ってきた。
「あー、あれだ。……やっぱりプレゼントが気に入らなかったんじゃないか?」
「ぼく、絶対喜ぶと思って作ったのに……。お母さん、何が欲しいのかな?」
「さ、さあ。最近何か欲しいようなこと言ってなかったか?」
「欲しいとは言ってなかったけど……」
ぼくはそう言いながら閃いた! これなら絶対喜んでくれる!
「ぼく分かった! 今から行って来る!」
そう言うと、ぼくは急いで宝穴に向かって泳ぎ出した。
泳ぎ出してからキュッキュルさんと話してた途中だったのを思い出して、キュッキュルさんに手をふって「ありがとう」を言った。
宝穴に着くと、ぼくは海図を引っ張り出した。海図は、キュッキュルさんがしてくれた話しをもとに、大きな貝を石でひっかいてぼくが書いた。それには、ここから熱帯に行くまでの目印が書いてある。
ぼくが閃いたのはこうだ。
お母さんはお父さんに会いたいんだと思う。でもここにいないし、会いにも行けないから(一人で群の縄張りを出たら危ないんだって)、だから悲しくなっちゃったんだと思う。
じゃあ、ぼくがお父さんを連れてくればお母さん喜ぶんじゃないか?
そりゃあちょとは危ないかも知れないけど、ぼくだって一回ぐらいお父さんに会ってみたい!
だからぼくは、熱帯に行ってお父さんを連れてくることに決めた。
. ゜ ° 。 。 O O ○
ぼくはお母さんが眠っているのを確かめてから、熱帯目指して泳ぎ始めた。
海図を取ってすぐに行けなかったのは、星が出ないと方角が分からなくて、方角が分からないと海図が使えないからだ。でも星が出た後はいつもお母さんと一緒にいるから、お母さんが寝るのを待たなければならなかった。もちろん、お父さんをないしょで連れてきて、お母さんをびっくりさせるためだ。
熱帯への行き方は前キュッキュルさんが教えてくれた。
ぼくはキュッキュルさんの言葉を思い出す。
『熱帯へは北極星を背中に泳いで行けばいいんだ』
だからぼくは海面に出て北極星を探して、それとは反対向かって泳いで行った。
海の水は、海面近くの月明かりとホタルイカだけが明るくて、あとは薄暗かった。
だから、海図はあまり役にはたたなくて、方角が何回も分からなくなった。そんな時はまた海面に出て北極星を探して、それとは反対に泳いで行った。
そうしてたくさん泳いだ。
だからお母さんと一緒でも来たことない、縄張りの外まで来てしまった。でもまだ熱帯じゃなかったから、ちょっと怖かったけど、もっと泳いで行った。
すっごくたくさん泳いで、ぼくはすっかり疲れてしまった。
だから海面に浮かび上がって、月を見上げるようにあお向けになってちょっと休むことにした。泳ぎ始めた時は海の近くにあった月が、今はもう高い所まで上っている。海図を見ると、まだ五分の一も来てないのに……。
白く輝く月は、空気をきれいに、ちょっと冷たくしているような気がする。
ぼくは寒くなって、また海に潜って泳ぎ始めた。
. ゜ ° 。 。 O O ○
星と月だけであとは真っ暗だった空が、ちょっと紺色になってきた。
ぼくは急がなきゃと思ったけど、疲れて泳ぎたくなくなってきた。
「危ない!」
急に言われて、ぼくはとっさに海面に飛び上がった。
飛び上がった瞬間ちらっと見ると、さっきぼくがいた辺りを『何か』がさっと横切って行った。
ぼくは怖くなって動きかたが分からなくなった。
飛び上がったままの格好で尾ひれからじゃばんと落ちると、『何か』は方向てんかんして、もう一度ぼくの方に向かって来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます