第2話 落第横丁


落第横丁の謎


東都大学近くに、落第横丁という場所がある。


名前の由来は、この場所には沢山の娯楽施設や酒場があり、そこで遊び過ぎて大学を落第する学生が昔居たからという話しからついた名前だ。


噂では週1回から2回は問題無い。


だが、週に3回以上此処で遊ぶと絶対に落第する……そんな話だった。


まさか、この伝承に纏わる事件が舞い込んでこようとは……この時の僕は思いもしていなかった。


◆◆◆


「司さん、暇ですねぇ~」


「暇だねぇ~」


今日も、この『菊坂探偵事務所』は暇だ。


金田一耕助に憧れた僕は昭和50年だと言うのに着物を着ている。


今話しているのがお菊ちゃん。


なかなか綺麗な黒髪のスレンダーなお姉さんだ。


目は切れ長で整った顔、可愛らしくもあり美しくもある凄い美人だ。


尤も、彼女は人間ではない。


残念な事に、幽霊だ。


そう、鐙坂の人魂やお化け横丁の幽霊騒ぎは彼女が原因だ。


鐙坂の人魂の正体はメタンガスでもリンが原因ではなく。


殺されて埋められていた彼女が幽霊になり人魂となり漂っていた。


それが真相だった。


ちなみに相当前に殺されて、お化け横丁の傍の林に埋められていたからか、彼女に記憶はない。


だから、この場所、菊坂町という場所にちなんで『お菊ちゃん』と呼ぶ事にした。


不思議な事に、全てが解かる筈の僕の目でも、彼女については何も解らなかった。


まぁ心霊現象だから、不可解で当たり前なのかも知れない。


面白いので人魂だった彼女に声をかけ憑りついて貰った。


これで鐙坂に人魂が出ることは無く、お化け横丁に幽霊が出る事は無い。


その代り僕の部屋にくれば夜は人魂が飛んでいるのが見れるけどな。


まぁ心霊現象だから、不可解で当たり前なのかも知れない。


「そう言えば今日は1人お客さんが来るんでしょう?」


「まぁな、電話で聞いた話では、なんでも余裕で受かるような大学を幾つも落ちた。 なんとも訳がわからない話だったよ」


「へぇ~、それがなんで探偵に依頼してくるんですかね」


「良く解らないけど、なんでも受験中の記憶が飛んでなくなるのだとか……」


「ぷっ、また奇妙な話ですね……だから、司さんに依頼が来たんですね」


「まぁな」


うちは、何故かこういういわくつきの話ばかりの依頼が多いんだよな。



◆◆◆


「貴方が、東狐司さんですか?」


見た感じ、おとなしそうな感じの黒髪ショートカットのお姉さん。


そんな感じの女性だ。


「はい、僕が司ですが?」


挨拶をすると、来た女性の顔が曇った気がした。


僕は結構童顔だからか、かなり下の年齢に見られる。


お菊ちゃんは幽霊だから見えない。


不審がるのは解らなくもない。


だけど、うちの探偵社は『広告を打ってない』


誰かからの口コミで来たはずだから多分、問題にならない。


「貴方がが、あの犬神憑き事件を解決した司様であって居るんですよね」


ああっあれか。


「ええっ、それであっています。と言う事は山神さんか、八神さんからの紹介ですか?」


「紹介といえば紹介ですが、直接じゃなく、知り合いの三上さんからお話を聞きまして、ご相談に来ました」


成程、八神さんの姪っ子さんからだ。


「先に聞いておきますが、私に相談と言う事は、やはり可笑しな事が起きている……そう言う事ですか?」


「実は……」


彼女の名前は湯浅真理子。


高校を卒業した……浪人のお姉さんだ。


此処までなら受験に失敗した。


そういう話しで終わるが……真理子さんの話にはその続きがあった。


「信じられないし言い訳に聞こえるかも知れませんが……受験中の記憶が無いのです」


「記憶が無い?」


「はい、記憶が無いのに、答えは全部書いています。 そう、気がつくと眠ってしまって、起きた時には試験が終わっているのです。 そして問題なのは……」


「書いてある答えが合っていない! そういう事ですか?」


「はい、お恥ずかしいその通りなんです」


1回だけなら寝ぼけて……そう思うかも知れない。


だが…….


「電話で聞いた話では、それが1回でなく何回も起きた。 そういう事ですか?」


「はい、誰も信じて貰えませんが受験した全ての学校、全ての試験でそんな状態になりました……今年はもう浪人確定ですが、また来年もこんな事が起きたらと考えたら……もうどうして良いのか解らなくて……」


全てと言う事は滑り止めも全部落ちた。


そういう事だ。


確かに肩身が狭いだろうし、来年も落ちたらと考えたら気が気じゃないだろう。


だが、これはどんな現象なんだ?


「何か心当たりはありますか?」


「それが、私が住んでいるアパートがある場所が昔、落第横丁と呼ばれていた場所に建っていて、近所のおばさんが、そのせいかも知れないって……」


落第横丁?


ああっ、東都大学の近くのあそこか?


本当の所はどうなんだ?


あれは確か『遊び惚ける学生をたしなめる為の方便』そう聞いた気がする。


ならば、『こっくり様……真実をこの目に』


目が熱くなる……それと同時に目に文字が浮かんでくる。


浮かんだ文字は『神』


落第横丁。


神。


完全にオカルトだ。


多分、これは菊坂探偵事務所じゃ無ければ解けない事件だ。


「落第横丁、確かにそういう話しがありますね。 解りました、そちらも含み調査してみます」


「お願いします!」


依頼人の真理子さんを見送りながら……頭に浮かんだ『神』という言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。









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