第3話 犯人は神
『湯浅真理子じゃな。それなら私が力を貸したが……問題はあるのかな?』
手掛かりが『神』だったのでこの辺りにある神社を片端から当たってみた。
その結果、8件目で該当する神様に出会えた。
『貴方がなにかしたのですね……菅原道真様』
『うむ、正確には私は分霊だ。 同じ分霊でも湯島には沢山の人が祈るに行くのに私の所には余りお参りには来ないのだ。だから、私に祈り来たのにだから、出来るだけの事はしてやろうと思い力を貸してやったのだ』
確かに、菅原道真様と言えば湯島天神だ。
他の場所の神社だとこの辺りじゃ祈りに行く件数は少ないのかも知れない。
だが『力を貸した』のなら何故落ちたのか、それが解らない。
力が無いのに受かったのなら納得は行くが、実際は落ちた。
その意味が解らない。
『ですが、湯浅真理子さんは受験に失敗して落ちています。 力を貸したと言うのなら、何故落ちたのでしょうか?』
何者かが邪魔をしたのか?
わけがわからない。
『落ちた……そんなわけ無い』
そう道真様の分霊は言うが、落ちてしまったのは事実だ。
『ですが、彼女は努力したのですが、全ての大学受験に失敗して現在浪人生活を送っています』
『なんだと……私が乗り移り、全ての問題の回答を書いたのだ。そんなわけ無い』
やっている事は完全に不正だ。
だが、仮にも学問の神が解いたのに不合格になる物だろうか?
待てよ……
幾ら学問の神様とはいえ『昔の人だ』
もしかして今の問題が解らなかったのか……
『あの道真様に言いづらいのですが、もしかして問題が解らなくて適当に回答したとか?ですか』
ああっ、怒らせたようだ。
『私は学問の神だ! 死んだ後も常に学んだ……しっかり回答したし、解らない物は優秀そうな者の物を複数見て書いた。 絶対に間違ってなど無い』
うん、やっている事はカンニングだ。
だが、それなら落ちる訳ない。
いったいどうしたと言うんだ?
そうか……まさか名前を『藤原道真』と書いたんじゃないだろうな。
『まさかと思いますが、名前を自分の名前を書いてしまったりしたとか?』
『私がそんな間違いをするとでも?』
『しませんよね……ですが、全部の大学に落ちたのは事実ですから……それなら、そうだ1問此処に書きますから答えて下さい』
俺は適当な問題を枝で地面に書いた。
『私を試すのか? こんな問題など……どうだ?』
英訳の問題を書いたのだが……あっている。
あっているが……これじゃ駄目だ。
『確かに合っていますね……ですが落ちた理由が解りました』
『何故落ちたのだ』
『文字が風流すぎます』
良く言えば風流。
悪く言えばミミズがのたまわった文字。
確かに大昔は唄とか書く時、こういう文字を書いていた気がする。
まぁ百人一首の文字を見ただけだけど。
『そういう物か? これ今流行ってないの』
『はい……スミマセン』
今回はあくまで善意で行っていた事が空回りしただけだ。
相手は『神』文句など言えるわけ無く……説明だけした。
『すまんかった』
その一言を聞いて神社を後にした。
◆◆◆
こんな途方もない話を説明して誰が納得するか?
だが、嘘はつけないし、正直に話すしかない。
事務所に来て貰い湯浅真理子に素直に今回の事件のあらましを伝えた。
「そういう事だったんですね」
「ご理解頂けるのですか?」
「はい、文字が汚いのは私もみていますし、あれを書いたのが藤原道真公だと言うのなら納得です」
「そうですか……」
謎は解けた。
だが、これでは彼女にとってなんの解決になっていない。
僕は良く推理小説を読んで悩む事がある。
事件が終わった時に探偵に感謝を言い報酬を渡すシーンがあるが『あれで本当に納得できるのか』と。
確かに犯人が捕まり謎は全部解けたが……守って欲しかった家族は全員死んでしまい、残ったのは自分だけ。
依頼者が望んだことは『謎解きじゃない』
家族を守って欲しかった筈だ。
今回は……謎は全部解けたが、結局は依頼者の力にはなっていない気がする。
さて、どうしようか?
報酬はどうしようか?
「……」
「これ謝礼です」
「あっ良いのですか?」
「少額ですみませんが……」
「いえ、ありがとうございました」
真理子さんを玄関まで送り、今回の事件は終了した。
◆◆◆
封筒を確認すると中には5万円が入っていた。
「なんだか微妙ですね」
「まぁ、こんな物でいいんじゃないか?」
うちは費用を決めていない。
依頼者が決める。
相手は浪人生なんだから、これでも奮発したほうだろう。
「ですが、それじゃ今月の生活だけで精一杯じゃないですか?」
「それなら大丈夫……今月は大きな事件がもう一軒舞い込むって解っているから」
「その目ですか、便利ですね」
「まぁね」
ここ菊坂探偵事務所は変わった事件専門。
もし、貴方が不思議な事に巻き込まれ困ったら……何時でもご相談ください。
FIN
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