EX 風呂と紙 4
深夜になにか悪夢を見ているような心地から目覚めると布団の上にリコが乗っていた。美しい黒髪を長く伸ばし、その髪のインナーカラーに紅色が入っており、眼差しは鋭い。スクエアフレームの銀縁眼鏡が鋭さを更に際立たせている。
今はクリーム色のふわふわパジャマに身を包んでいる。冬だから。
「あー……一人でホラー映画を見て、怖くてトイレに行けないから一緒について来てほしいとか?」
寝起きでよくこれだけの台詞を喋れたなと思うような長台詞だと我ながら思う。
時計を見る。午前三時か。
「たわけ。眠れんので一緒に映画を見よう、だ」
リコの部屋に移る。リコが借りてきたDVDがなんかもののごちゃごちゃ置かれたテーブルの上にある。編みかけの赤いマフラーやとじ針もあるが……見なかったことにしよう。ウイヒメにでも渡すクリスマスプレゼントだろ。
「あっ」
編みかけのマフラーを見て硬直するリコ。反応が正直過ぎる。俺に渡すつもりだったか。
「で、どれ見るんだ」
DVDの話にずらしてやる。『SAW』か『グレムリン』か『イップ・マン 序章』か。『SAW』は寝る前に見る映画にしては刺激的過ぎるだろ。
「『SAW』は以前から気になっていたが、一人で見る気にはなれん」
人間の損壊が凄くてびっくりするタイプの映画って二人で見ようが衝撃は軽減されないと思うが。
「じゃあ『SAW』だな。他はウイヒメも起きているときに見よう」
個室に置くにはややデカいTVの画面を見る。
リコのベッドの上に二人で並んで座る。リコが距離を詰めてくる。俺の肩に他者の体温が感じられる。
「なあ」
「何か?」
「クリスマスプレゼントには何が欲しい?」
もう直接本人に聞こうと思った。
「何でもいい。そうだな。普段遣いができるようなものがいい」
「何でもいいわけじゃないだろ」
画面の中では人が自分の足を切断したりしている。再生時間的にそろそろ幕が降りる頃だろう。
「プレゼントは気持ちだ。だから気持ちをいつも思い出せるようなものを渡して欲しい」
「責任重大だな」
「
自分の台詞に恥ずかしくなった照れがリコの表情に見えた。見えたが見なかったことにする。熱い想いを正面から受け取ることができるほどこの俺がまともな人間であれば。そんなわけがないのだが。
「おう」
『SAW』の再生が終わった。
リコはすっかり眠くなっていたので布団をかけてやる。
俺はすっかり目が覚めてしまったので、冷凍庫から冷蔵庫に肉を移しておこうと思った。今日は仕事が忙しくなかったらカツにして、忙しかったら普通に焼く。
「実はこのベッドはもう一人寝ることができるのだが……」
「じゃあおやすみ」
すっぱりと誘いは断る。無責任なことはできん。責任を取れるほど俺はちゃんとした人間ではない。
「
かなりマジの投げ方で枕がぶん投げられ、顔面にヒットする。羽毛の枕でダメージを受ける人間などいない。
「いけずでいいよ。あとこれはお返し」
枕を投げ返す。こうやって触ってみるとけっこういい枕使っているなと思った。
リコの部屋の扉を出る。
しかしあの赤いマフラーを俺は何処かで見た記憶がある。喪失の扉の向こうにある記憶なのか、仮面バトラーであることを選んでからの記憶なのか定かではないが。
【特別編】仮面バトラーレンズ&ストリングス 遲?幕邏咎哩 @zx3dxxx
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