EX 風呂と紙 3
結局、カード買っただけで帰った。俺には家電量販店で適切なチョイスができなかった。『ゼーガペイン』のフィギュアやプラモ買っても良かったんだが、どれが好みかわからなかった。シズノ先輩が好きという情報だけだと「ゼーガペイン・アルティール」か「ゼーガペイン・フリスベルグ」のどっちの方が好みかわからん。シズノ先輩両方に乗っていたしさ。
そして女性にプレゼントを送った記憶が俺にはなかった。文字通り俺には記憶がない。ウイヒメの父である破嵐レイジに拾われる前の記憶がなかった。
ズタボロの状態で俺は砂浜に倒れていたらしい。状況証拠というかこれまで戦ってきた『組織』のエージェントどものリアクション的に俺は裏切り者なんだろう。
裏切り者に安寧の日々はないという一般論がある。
そのようなことを考えながら具が煮えるカレーの鍋を眺めている。
俺は破嵐探偵事務所と同じ建物の上の階にある自宅でカレーを作っていた。ウイヒメやリコと同居している。リコは借りていたマンションが燃えたので居候している。
「ウイヒメ」
「何?」
俺はリビングのソファーでひっくり返って『週間少年ジャンプ』を読んでいるウイヒメに話しかける。
麗しい黒髪をセミロングに伸ばし、海外の理系大学を飛び級で卒業するくらいの頭脳をもつ美少女。俺の感覚では美しいより可愛らしいというものだ。それが白いラインが入った紫色のジャージを着て、完全に気を抜いている。
普段はオーダーメイドのスーツを着ているのだが、プライベートだとこんなもの。そもそもスーツ着込んでいるのもいちいちお客さんが舐めてくるのが面倒だったからだったな。
「クリスマスプレゼントなんだが、リコはどういうものを欲しがるだろうか」
「本人に聞けばいいよ」
「おい」
「冗談だよ。でもリコ姉さんはよっぽど変なものじゃない限り何でも喜んでくれると思うけど。だってリコ姉さんは君のこと好きだから」
ウイヒメにとってリコは従姉なんだが、姉貴分のように慕っている。
「……面倒だな」
面倒だ。俺のような得体の知れない人間を好きになるくらい、リコは綺麗だった。大事にされ、世の中の汚さに穢れないようにされた美しい心。俺には眩し過ぎる。眩し過ぎるが、一度でも太陽の眩しさと暖かさを感じた人間がそれを忘れて生きていけるだろうか?
「君も満更でもないだろう?リコ姉さんは綺麗だし、話していて楽しいし。僕もああいう大人になりたいな」
「大学生が大人かよ」
年齢的に成人しているとはいえ、自分で生計を立ててないだろと一般的に考えられている。
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