014 説明します

 まずは前提を説明した方が良いかな?


「俺の職業って覚えてる?」


「覚えてるよ」


「それが原因でクビになったわけよ」


「あーー。だから臨時収入が入ったわけか」


「そうそう」


 臨時収入が入ったからリフォームしたいって連絡していたからね。


「ニュースで流れてきた【萬屋グループ】の被害者って宗真のことだったんだね」


「もう一人いるけどね」


「へぇ。それでキャンプに行ったと」


「そう。最高の気分で帰っていたところにゴブリンライダー現れて、チェイスの末にロードキルして例の現場に逃げ込んだと」


「こう言っちゃなんだけど、よく生き残れたね」


「油圧ショベル無双だよ」


「はぁ?」


 そこから少し演劇チックで自分の活躍というか油圧ショベルの活躍を語り、鬼神無双の直前まで話し終えた。


「やっぱり重機ってすごいな」


「雑魚の相手はね」


「雑魚?」


「石の破壊を妨害した二体だって重機での討伐じゃなくて同士討ちだし、それですら半死状態までだったし」


「まぁそうだけどさ。速度重視のモンスターでなければ、案外良い勝負したんじゃない?」


「って思うじゃん?」


 重機がなければ生存することさえできなかったことを身をもって体験した俺も、ゴブリンたちのことを雑魚だとは思いたくはない。

 だけど、ヤバい存在はいる。


「その狐軍団を鎧袖一触で虐殺した存在がいるんですわ」


「あーー。それが高位覚醒者なんでしょ?」


「ん?」


「はっ?」


「高位覚醒者?」


「攻略して譲ってくれた恩人がいるって言ってなかったか?」


「恩人には違いないけど、高位覚醒者ではないよ」


「ん?」


 珍しく阿呆面を晒す真。

 正宗さんもクイズを出されていると感じたのか、顎に手を当てて考え込んでいる。


「高位覚醒者ではなく、神様に助けてもらったんだよ」


「──よしっ。病院に行くか」


「本当だって」


「分かった、分かった」


「証拠もあるんだよ?」


「証拠?」


「そう」


「もし本当なら、願いを叶える玉を贈呈しよう」


「何個バージョン?」


「三つの方」


「太っ腹ーー!」


 真はジャケットの内ポケットから、光り輝く一枚のカードを取り出した。

 九つの玉を背に光り輝いているデブ竜が描かれたカードで、特殊効果の記載欄に『五百蔵真に三つまで願いを叶えてもらえる』と記されていた。


「証拠の提示を」


 俺は称号欄に【鬼神の恩人】という項目を表示させ、真にステータスを見せた。

 ステータスは超が付くほど重要な個人情報で、基本的に家族でも見せないものだ。


 しかし、俺達三人はちょくちょく見せている。

 今回は一部を隠しているが、称号欄に集中して欲しいから。

 それに一度に公開しては、あのカードをもらう手札がなくなってしまう。下らないことにも使っているせいで、三回の願いもすぐに叶ってしまうのだ。


「「マァァァッ!!!」」


 正宗さんも同様に驚き、俺は無事にカードを獲得した。


「ゲットだぜっ!」


「神様って何っ!?」


「捕まっていた神様を助けた代わりに、無双して狐を虐殺してくれたんだよ。おかげで、生首になるまでボスの存在すら知らなかったからね」


「重機でも無理そう?」


「紙装甲だね」


「マジかぁ」


「刀だけでだよ? 他に不思議パワーがあるんだけど、それを使っていたらと思うと……ねぇ」


「神様っているんだね」


「その神様曰く、九龍塔の三〇階未満は全員赤子も同然だって」


 さすがに二〇階くらいになったら幼児になっているかもしれないけど、鬼神からしたらあまり変わらないだろう。


「赤子かぁ……。世界的に見ても最高で三階でしょ?」


「威張り腐っているお歴々も、全てまとめて赤子ですわ」


「グサリッ」


「おや? ここに覚歴のエリートがおりましたな」


「グサリッ」


「神曰く、あんよの速度を自慢している痛いやつらしいですよ」


「自慢してねぇからっ」


「もちろん、知ってますとも」


 社長業ができる範囲で、学歴も覚歴もそこそこ良い水準で得られる進学先を選んだだけで、真には驕りなどは微塵もない。

 ただ、同じ大学に通っている人たちが社会的に有名な差別主義者ってだけ。


「アレと一緒にされるのはやめてほしいな」


「学校で話さないの?」


「サークルみたいなものを作って啓蒙活動をしているから、その活動が忙しいみたいで授業にすらほとんど来ないよ」


「班ごとの行動があるんでしょ?」


「班決めのときに来なかったし、途中で加入させられても困るから、最大人数で構成しているよ」


 徹底しているなぁ。

 五百蔵グループのライバルグループで、真がイケメン代表だとすると、彼はブサメン代表だったりする。

 好きな子が真のことを好きになってしまったのだとか。

 そのせいか、真のことを敵対視しているそうだ。

 真は以前まで相手にしなかったのだが、ブサメンがどこからか俺の情報を仕入れてきたらしく、鬼の首を取ったように「友人がクズだと苦労するな」など、罵詈雑言を浴びせたらしい。


 結果、ガチギレした真によって差別主義者のレッテルを貼られ、加担した者全員が映っている映像が拡散されたらしい。

 さらに、自前の解析班を他人と偽装してアカウントを作り、全員の実名と家族が所属している企業なども全て晒したそうだ。


 会社を経営している人たちの中には、倒産しそうになったところもあったそうだ。

 真は買い叩けそうな企業を買い取って、問題の役員を次々にクビにしたという。

 協力者はもちろん爺や。

 年齢を感じさせないフッ軽さで、乗っ取りまくったそうだ。


 あと、勤め人も左遷させられたり解雇処分になったりと、五百蔵グループに喧嘩を売ったことを後悔するような体験をした。

 こちらは大々的なニュースになっていたから、同級生くらいの付き合いがあれば、「ああ、アレか」と思うくらいの事件だった。


 この事件は『五百蔵様の粛清』と呼ばれる、大規模の大量転校事件だったから。


「それでここからが本題中の本題」


「何? まだなんかあるの?」


「うむ」


「……どした?」


 気分は鬼神。

 あのセリフを真似しようではないか。


 俺は【金鵄羅眼】の中でも一番無難そうな〈危険羅盤〉を発動するし、瞳を金色に光らせた。


「時に、我の瞳を見て何か気になることはないか?」


「はぁ? ──おい。金色だぞっ!?」


「いつの間にカラコンを?」


「うむ。これは魔眼なり」


「病院、行く?」


 厨二病じゃないから。


「まだ行かない」


「あっ。戻った」


「同じ言葉を言われたのよ、神様に。詳しく聞くと、世界的に隠蔽している【金色ダンジョン】というものがあって、報酬が格別なことと、ダンジョン関係の情報が入手できるらしい」


「「──えっ?」」


「【九龍塔】の出現情報も、塔の出現以前に現れた金色ダンジョンから得た情報で事前に知っていたらしいしね」


「マジでっ!?」


「マジで。だから、洗脳してでも金色ダンジョン関係のものを必要としているわけよ」


「だからかぁ。配信するって言ったときの慌てよう。世界的に生首アピールしたら、流石に何かあるって気づくやつが出るか」


「そう。で、何か気づかない?」


「何が?」


「あっ。大福ちゃん、金色では?」


「正宗さん、大正解っ!」


 先程から真と正宗さんの匂いを覚えるため、クンクンと嗅ぎ回っている可愛い大福。

 満足した後は、部屋の隅に置かれた座布団の上へ。


「なるほどね。誘拐ってそういうことか」


「大福ちゃんねるを開設して、大福にファンをたくさんつければ政府の横暴を防げるかなって思ってる」


「竜の卵事件があるもんな」


「そちらも神様が洗脳だと明言していました」


「マジかぁ」


「助けたら、五百蔵グループの専属インフルエンサーになってもらえるんじゃない?」


「助けたらだろ? 無理じゃん。そもそも会えないし」


「取引でも無理?」


「無理。女性の広告塔にどうですか? サポートしますよ? って各社が提案しても面会謝絶」


 うわぁ。

 そうならなくて良かった。

 スキル〈悪運〉の付随効果である危機一髪が働いている証拠なのかな?


「じゃあとりあえずは無視して、金色ダンジョンので得たものをお話しよう」


「いいねぇっ」


「……カード」


「おい、あげたろ?」


「もう一度ステータス見せるんだよ。驚いたら、一枚でどうだろう?」


「よし、驚いたらな」


「自信あるよ」


「俺も驚かない自信がある」


 ふふふっとお互いに笑みを浮かべる。

 俺は隠蔽をオフにした全公開版のステータスを表示した。


「──はっ!?」


「なんですかっ?!」


「勝ったぁぁぁぁっ」


「これはズルいだろっ」


「うむうむ」


 そこからは質疑応答コーナーの始まりだった。

 まずは職業。

 こちらは金色ダンジョンの隠し条件を達成した結果で、職業スキルもそれに伴うもの。

 状態の【天骨之体】は、オーラ結晶の特殊効果によるもので、主な効果は体質改善。


 能力値はジェムなどを爆食した結果で、エレム結晶を食したことで魔法も獲得できたと告げた。


「引っ張りだこじゃん」


「公開したら政府にバレるじゃん。恩人が何も持っていってないって」


「あーー……」


 そして隠蔽後のステータスを表示して、能力値から判断しておかしくない行動をすると伝える。


「うーん。今とあまり変わらないな」


「でしょ?」


「魔法もあまり使わない方がいいのでは? 一応エリート用のスキルという扱いですから」


 そうなんだよ。

 最初はそれもあって隠そうとしたけど、スキル〈投擲〉を使うにしても硬い石や、石器を魔法で生成できたら戦術的な幅が広がると思うと、使わない選択肢はなかった。




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