015 特注します

「拳銃型の魔法発動体って作れない?」


 まぁ明確に魔法と思われずに済む方法ならなくはない。ダンジョンから入手したアイテムのおかげと言えば良いだけだ。

 そこでとある漫画からインスピレーションを得て、現代の銃器とガッチャンコした仕様書を提出した。

 そこには以前から考えていた拳銃の仕様を記載しており、変更箇所は朝食の時間を使って訂正済み。


「拳銃型かぁ。赤魔法ならともかく、黄魔法の発動に使うなら普通の拳銃か小型の杖の方が良くない? 拳銃型にしちゃうと汎用性が低くなるし、結局序盤でしか活躍しないよ」


 面倒なことに魔法職には、魔法を発動する杖が必要らしい。

 だから近接戦闘を行う魔法剣士は、使用する剣に杖の効果を持たせるために高価な武器を必要とし、魔法も使える盗賊などは菜箸みたいな杖を装備するらしい。


 ちなみに、銃器も重機も効果がないのに人間が振り回す剣や武器は効果がある理由は、モンスターやダンジョンの資源を使っているから。

 ゲームみたいに攻撃力〇〇とかはなく、単純に切れ味が上がったりする。


 ステータスのSTRも攻撃力に直結するわけではなく、特別な武器を持てる膂力を示す数値だ。

 というのも、特殊な武器は何故か重い。

 もれなく全て重い。

 重さで装備できる人物を制限しているのか? と、研究者が考えるほど重い。


 それゆえ、覚醒者のほとんどは自分の戦法に向いた武器を注文して戦うそうだ。


 菜箸風の小型杖が良い例だと思う。

 速度重視の盗賊が軽量化を図った結果が、菜箸に行き着いたのだろう。


「んー……個人的には自動拳銃の方が好きだけど、リボルバーならどうだろう?」


 急いでスマホでタクティカル・リボルバーを探し、参照資料として真に見せた。


「リボルバーだからどうしたって話よ?」


 魔法を構築して発動するのは自分の体で、発射口が杖ってだけ。

 わざわざ重量もあって嵩張るものを装備しなくても良いって言いたいのだろう。


 仰るとおり。


 自分で構築して発動することで成長するし、最終的に杖を使わなくても良いほどに熟練度が増せば、魔法職としては大成したと言える。

 でも俺は魔法職じゃないし、緊急を要する場面でいちいち構築していられない。


 特に初心者は、集団に包囲された場合に焦ってしまう。

 遠距離から攻撃できるという利点があれば心にゆとりを持て、たとえ包囲されたとしても死中に活を見出すことができるかもしれない。


 であれば、サイズの指定、発射位置の指定、術式の構築が完結した状態というのは、成長を度外視すればかなり有用だと思う。

 自身で必要なことは、魔力の供給と魔法発動の意志だけ。

 それで魔法を連射できるなら、俺は作る価値があると思っている。


 何より、拳銃型なら素材のほとんどを地球の合金で代用できるから、一から魔法杖を作って重くなるというデメリットを回避できるはず。


「弾倉部分に魔法サイズの変更を指示する魔法陣や回路を、グリップ部分に術式を変更する魔法陣や回路を刻むのはどうかなって」


 銃口の先を魔法の展開位置とし、銃身は魔力が効率的に流れるように指向性を持たせる回路。

 弾倉のシリンダーは手動でサイズ変更を可能にし、ロック機構で誤作動を防止する。当然ハンマーとの連動はさせない。


 グリップは自動拳銃を参考に、術式を変更可能にしたマガジン風のものを装填させる箇所とする。

 グリップの大きさや加工難度を考えると、発動できて《岩槍》までだろう。まぁそれ以上の魔法は自分で構築できるようになればいいだけ。


 ハンマーはシリンダーを回す必要がないから不要だが、発動の意志を行動と連動させて、イメージしやすくすると考えれば有用ではないかと考えた。

 故障で動かなくなっても、発動や連射のイメージを引き金で構築しておけば慌てずに済むと思う。


 なお、モデルとして選んだのは「M327 M&P R8」だ。

 上部にリフレクトダットサイトを、バレル下部にウェポンライト&レーザーも付けてもらおう。


 交換式のバヨネットも欲しい。

 素材を魔法発動体にも使用できるものにしてもらえば、仮に刃が折れても黄魔法で生成できるだろうから、狭所戦闘も心置きなくできるはず。


 あと、個人的に装備にテーマを持っている。

 もちろん、大福の影響もあるが。

 でも一番の理由は、祖父の遺品から想起した。

 祖父と古物商に行ったときに購入した目貫が、楽しかったあの日を思い出させる。


 俺の成長を近くで見守っていて欲しいから、脇差の代わりである拳銃につけようと思っていた。

 目貫は、赤銅地三羽烏図となっており、黒っぽい感じと金色が渋くかっこいい。

 しかも大福の色合いとも同じで、大福との出会いに運命を感じてしまう。


 ということで、色は全体的にマットブラック。

 フロントサイトなど部分的に、マットチタンを金色にしてもらう。

 最後に、我儘だと分かっているけど、グリップ部分を黒版象牙にして、そこに目貫を固定してもらいたい。


「あぁ。それならブラックホーンブルっていうモンスターの角を使えば良いよ。象牙の代用品として人気の素材だけど、人気のお陰で供給量も多く比較的簡単に入手できるしね」

 

 先程獲得したお願いその一を使い、最優先で製作してもらうことになった。

 当然特注品の代金は払う。

 友人でもそこはわきまえている。


「物は相談なんだけど、コレをうちの装備品として使わせてくれない?」


「えっ?」


「アイデア料を払うし、宗真のものとは違って装飾は失くして、オリジナリティを損ねないようにするし」


 確かに、序盤のモンスターに通用するってことは人間にも通用するってこと。

 特に対人においては、リロードの手間を省ける上に継戦能力が高いことがメリットになるだろう。それにナイフとかと違って、明確に脅威と感じる武器が銃だ。

 突きつけられただけでも警告としての意味を為すのは大きい。


「良いけど、魔法はどうするの?」


「魔力を変換する機構を付けることはできるよ。魔法剣士とかも同じ方法で武器を用意しているし」


「それは知らなかった」


 その機構をつけることが、重量を増す要因の一つらしい。

 やっぱり良いことだけじゃないのね。


「最優先で作らせてもらうから、少し時間頂戴」


「任せた」


 うん、願い一つ目終了。



 ◆



 願い事第二弾にして、本命。


「そういえばさ、アプリ開発が得意だったよね?」


「何、いきなり」


「前に翻訳&通訳アプリ作ってなかった?」


「あの暗号遊びのやつでしょ?」


 無駄に頭が良い真は、家族に見られないようにと暗号を作ってしまった。

 しかし、俺も読めない。

 そこで解読用のアプリを作ったのだが、そこそこ高性能であるために、今では普通に通訳アプリとして使っている。


「うむ」


「なにか嫌な予感がする……」


「時に、本物の暗号に興味はないかね?」


「えっ? 本物?」


 俺は知っている。

 彼は宝探しとか暗号解読とかが大好物だということを。


「世界で唯一だよ?」


「──神様、仏様、宗真様っ。是非とも私めに解読させてくださいっ」


 即座に土下座をする真。

 その頭を片足で踏みしめる大福。

 思わずシャッターを切る俺。


「良かろう。とくとご覧あれ」


 空間収納からクソ重いモンスター図鑑を取り出し、テーブルの上に広げる。


「うおぉぉぉっ! 確かに読めんっ!」


 真は読めないもの全てが好きってわけではない。

 その場合外国語も暗号になってしまうからね。

 辞書で解読できるものは、基本的に語学だという認識らしい。

 だからこそ、辞書を出すタイミングに悩む。


「……あのぉ、辞書があるって言ったらどうする?」


「──えっ?」


 やっぱりダメか?


「早く出してよっ」


「あぁ。ごめん」


 語学扱いじゃなかった。

 完全に未知の文字だからかな?


「これを先に入力して……」


 ブツブツ言い始める真をどうするか悩んでいると、正宗さんが現実に戻し始めた。

 できる人だ。


「真くん」


「仕事、リスケできそう?」


「無理です」


「チッ。仕方ない。指揮車持ってきて。ここで仕事するわ」


 指揮車とは、海外ドラマでよく見る警察のトレーラーのことだ。

 パソコンとかが積まれていて、避けられない遠出と仕事が重なった際に使用しているところを何度か見たことがある。


 パソコンで思い出したけど、俺もこの際に最新の機種と撮影機材を購入しようかな。

 ついでにダンジョン用の道具も買いに行こう。




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