010 連絡します

 ステータスの確認後は、大福を地面に寝かせて油圧ショベルを取りに行く。

 大量の毛皮と石をまとめて運ぶための車両が欲しかったからというのと、ちょうど近くまで乗ってきていたことを思い出したからだ。


 先程までは歩くにしては少し遠いなと感じていたが、能力値が上がった今、体が軽くてあっという間に油圧ショベルを置いてある場所に到着した。


「汚いなぁ」


 油圧ショベルで虐殺したから仕方ないのだが、バケットが汚れていることが気になって仕方がない。

 これからここに素材を入れることを思えば多少きれいにしておきたい。

 シート近くに置かれていた誰かのジャケットを雑巾代わりにバケット内を拭き、再びシート近くに戻して置いた。


「大福ー、お待たせ」


 ずっと寝ていた大福も油圧ショベルの音には驚いた様子で、石の陰に隠れて警戒しているようだった。


『ぱぱ』


 ん?

 これは大福の声か?


「大福、おいで」


『ぱぱ』


 ポテポテと警戒しながら近づく大福が可愛くて迎えに行きそうになるが、グッと堪えて俺の下に来るまで待つ。


『ぱぱ』


「大福ーーっ」


 抱っこして全体像を確認すると、俺は一瞬過ちを犯してしまった気がした。


 そう、女の子だったのだ。


 名前、もっと可愛いのにしてあげればよかったと思わずにはいられない。


『ぱぱ』


 ジッと見つめて来る大福の姿に、まぁ良いかと思い直して撤収作業を始める。

 一刻も早く帰って遊びたいのだ。

 猫グッズを爆買いしたり、大福を自慢したりしたい。


「早く帰ろう」


 バケットに毛皮と石を詰め込み、倉庫に向かってひた走る。


「スマホ、スマホ」


 愛車に置きっぱなしにしていたスマホを取りに行くと、ハリネズミ状態だった愛車は完全に逝去されていた。

 それも内臓をぶちまけた状態で。


「おい、どうしたっ!?」


 スマホも当然車外に出されて破壊されており、キャンプギアなど見る影もない。


「あっ! アレはっ!?」


 ドライブレコーダーが気になり確認すると、SDカードは無事だった。

 どこまで映っているかは不明だけど。


「──そうだっ」


 どうするかを考えた結果、ここは事務所もある倉庫だ。

 パソコンくらいあるだろうと思い、倉庫内の家探しを始める。そして欲してやまない電話とパソコンを見つけることができた。


「よし、よしっ」


 まずは唯一と言っても良い親友に電話をかける。

 電話番号は企業のホームページをパソコンで検索し、企業の電話番号にかけた。

 多少時間を要したが、本人に繋ぐと返事があり安心した。

 彼は、超絶イケメンでギルドマスターも務めるエリート。同時に起業家でもあるため、顧問弁護士を派遣してもらえるようにお願いしようと思ったのだ。


「もしもしっ! 真っ!?」


「んっ。どしたー?」


「弁護士を派遣して欲しいっ」


「いやいや、何があったのよ」


「カクカクシカジカでー」


 金色ダンジョンの件は丸っと無視して、ダンジョンブレイクに巻き込まれたことを説明し、その上で素材などを譲渡されたことを話した。

 無駄な拘束を回避して欲しいことと、洞穴内の宝石などの契約したい旨を簡単に説明する。


 真の家は【五百蔵グループ】という、結構大きな企業だったりする。

 そこの顧問弁護士を派遣するとしても、企業に利益のある取引を持ちかけないのはよろしくない。真は気にするなとは言うけど、立場が悪くなるのは避けたかった。


「顧問弁護士とすぐに向かうけど、多分少しは協会に拘束されるかも。ちょっと遠いからね」


「わかった。できるだけ早くお願いしますっ」


「了解ーーっ」


 次は比較的無事なタープを広げ、その上に毛皮を載せて端をまとめてロープで縛る。

 穴が開いている箇所はガムテープで応急処置した。

 残ったロープで石を運ぶ。

 運び方は、スイカを運ぶときのようなマクラメ編み。縛り方はパソコンで調べた。

 時間がかかりそうだと思ったが、DEXの数値が高いおかげで比較的簡単に縛り終わった。


「最後は偽装でしょう」


 化物ステータスを戦闘以前に修正する。

 基本的には隠蔽メインの偽装にする予定。



 【ステータス】

 名前:九鬼宗真

 性別:男

 年齢:20

 職業:ニート

〈2重〉テロリスト ⇒ 隠蔽

〈3重〉詐欺師   ⇒ 隠蔽

 状態:健康

    天骨之体  ⇒ 隠蔽

 称号:鬼人の天敵 ⇒ 隠蔽

    狐狼の天敵 ⇒ 隠蔽

    鬼神の恩人 ⇒ 隠蔽

    九尾狐殺し ⇒ 隠蔽

    暴虐非道  ⇒ 隠蔽

    聡明叡智  ⇒ 隠蔽

    大福の里親


 Lv:1

 HP:3045  ⇒ 140

 MP:1389  ⇒ 110


 STR:192  ⇒  10

 VIT:242  ⇒  10

 AGI: 98  ⇒   8

 DEX:112  ⇒  10

 INT: 82  ⇒   7

 MAG: 45  ⇒   5

 LUC: 20  ⇒  10


 AP:220P  ⇒  0P

 SP:220P  ⇒  0P


 〈スキル〉

  加護:悪運   ⇒ 隠蔽

     金獣母神

  固有:変化   ⇒ 隠蔽

  職業:金鵄羅眼 ⇒ 隠蔽

     金蚊鉄蠍 ⇒ 隠蔽

  通常:直感   Lv2

     投擲   Lv2

     貫通   Lv3

     衝撃   Lv1

     黄魔法  Lv1

     金魔法  ⇒ 隠蔽



 加護スキルは、一攻略につきパーティーメンバー全員に一回チャンスがあるから、一つ表示していないと逆に不自然。

 さらに言えば、大福という従魔がいてスキルを持っていないわけがないし、スキルが非表示のままだと他にも何か隠していると自白しているようなもの。

 魔法は、今後使わないわけないと判断して、言い訳ができる方を表示しておく。


 以上を踏まえた修正ステータスが、これだ。

 


【ステータス】

 名前:九鬼宗真

 性別:男

 年齢:20

 職業:ニート

 状態:健康

 称号:大福の里親


 Lv:1

 HP:140

 MP:110


 STR:10

 VIT:10

 AGI: 8

 DEX:10

 INT: 7

 MAG: 5

 LUC:10


 AP:0P

 SP:0P


 〈スキル〉

  加護:金獣母神

  固有:──

  職業:──

  通常:直感   Lv2

     投擲   Lv2

     貫通   Lv3

     衝撃   Lv1

     黄魔法  Lv1


 そして左手の紋章内の空間収納には、モンスター図鑑と九龍塔語辞書に、財布を入れて偽装しておく。

 壊れたものはスマホ含めて車に放り込んでおき、まとめて弁償してもらうつもりだ。


 ドライブレコーダーの記録をパソコンで確認したところ、工事現場についた後、俺が油圧ショベルで無双しているところまでは映っていた。

 その後、ゴブリンに従魔だと誤解されてフルボッコにされたところで映像が途切れた。


 自動車という点では共通している油圧ショベルが無双していたら、俺の愛車に対しても危機感を抱くか。

 弱いやつから死んでいく。

 教訓ですな。


「もしもしー。覚醒者協会ですか?」


「さようでございます。どうされました?」


「ダンジョンブレイクに巻き込まれた者ですぅっ! 事後処理をお願いしたく存じますっ!」


 気持ち語尾が強くなってしまうが、それは仕方ないだろう。


「──ご無事ですかっ!?」


 殺すぞ。

 お決まりの定型文なのだろうが、無事であるはずがないと分かってての発言にデリカシーを持てと言いたい。


 通報義務があるから連絡しているだけであって、一刻も早く休みたいくらいには無事ではない。


「いいえ」


「急いで向かいますので、現在地を教えてもらってもよろしいですか?」


 事後処理部隊には医療従事者も含まれている。

 急いで向かって間に合う怪我じゃなかったらどうするのだろうかと、一度聞いてみたい。

 今回は間に合うから大人の対応をしてあげよう。

 一刻も早く帰りたいからね。


「茶螺建設の倉庫にいます。固定電話から電話していますので、そちらから検索した方が早いと思います」


 スマホで電話してない時点で、持っていないことが分からんかね?

 ブレイクに巻き込まれ、必死になっているのに現在地を把握しろと?


 それが無理だと分かっているから、協会登録証の発行時に協会専用デバイスが支給されるんでしょ。

 電話使用不可の機能制限付きスマホみたいなもので、専用アプリを使えばチャットや協会への通報ができるそうだ。

 真曰く、検索もチャットも全て情報を抜かれているし、GPS情報も抜かれているから使わないに越したことはないそうだ。


 そのデバイスは、支給された後一度も電源を入れずに金庫の中に入れてある。

 壊していないだけ感謝して欲しい。


「協会のデバイスはお持ちではないですか?」


「持ってきていませんが、持ってきたとして何か変わります?」


 GPS情報を抜いているから分かりますとでも言うつもりか?


「マップ機能があったかと……」


「でしたら、スマホにもついているでしょ。スマホを使えていないのに、協会デバイスなら場所が分かるってなんで言えるんですか?」


「そ、れは……無理ですね」


「では、検索をお願いします」


 ちなみに、事務所にボイスレコーダーがあったから、スマホからSDカードを抜いて録音しておいた。

 持ち主が、ボイスレコーダーを持っていっても大丈夫なように、SDは自前で用意したかった。


「この倉庫の持ち主、評判悪いらしいからね」


 パソコンで企業の評判を調べたけど、素行が悪くコンドルと呼ばれているそうだ。

 腐肉漁りの天才で、金の匂いを嗅ぎ分ける能力が高く、少しでも集れると思えば違法行為も辞さないんだとか。


 資源狙いで来そうだけど、真にはすでに相談済で対策案をもらっている。

 持つべきは親友だ。

 彼には金色ダンジョンの情報も全て渡す予定。

 仮に裏切られても、仕方ないと思うほどにはお世話になっている。


「あとは待つだけかな」





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