009 確認します

 拝殿が崩壊した後、その跡地には洞穴ができていた。

 中に入ると、洞穴の壁一面に宝石の原石が埋まっていた。ぱっと見黄色が多いが、橙色や赤色なども見えている。

 証拠兼記念品として、奥にあった大きめの石を持ち帰ることにした。


 そして、そのとき初めて自分の変化に気づいた。

 普段なら持ち上げることもできないだろう大きさの石を、少し力を入れただけで持ち上げられたのだ。


 協会に連絡する前に自分のことを把握しておく必要があると感じ、休憩も兼ねてステータスを確認することに。

 その場に座り、鬼のメモを片手にステータスを展開した。


「ステータス」


 左手の紋章からステータスが飛び出す。


【ステータス】

 名前:九鬼宗真

 性別:男

 年齢:20

 職業:ニート

〈2重〉テロリスト

〈3重〉詐欺師

 状態:健康

    天骨之体

 称号:鬼人の天敵

    狐狼の天敵

    鬼神の恩人

    九尾狐殺し

    暴虐非道

    聡明叡智

    **の里親


 Lv:1

 HP:3045

 MP:1389


 STR:192

 VIT:242

 AGI: 98

 DEX:112

 INT: 82

 MAG: 45

 LUC: 20(100%上昇)


 AP:220P

 SP:220P


 〈スキル〉

  加護:悪運

     金獣母神

  固有:変化

  職業:金鵄羅眼 Lv1

     金蚊鉄蠍 Lv1

  通常:直感   Lv2

     投擲   Lv2

     貫通   Lv3

     衝撃   Lv1

     黄魔法  Lv1

     金魔法  Lv1



「一気に充実したステータスになったな」


 職業欄の見栄えの悪さったらないね。

 完全に社会不適合者じゃん。

 二つ目に関しては劣化版とのことだし。


「天骨之体っていうのが特殊効果か」


 武術特化の天武之体と、魔法特化の天魔之体の中間で汎用性が高いものらしい。

 武術に関しては身体能力が向上したり、将来的にはオーラ系各種スキルが使えるようになるらしい。が、武術系スキルが必須だから習得しろとのこと。

 魔法に関しては、第六感含めて感覚が強化されるから精度向上につながったりするらしい。

 他には副次効果として、回復力の向上や抵抗力の向上など、自然治癒力が増すそうだ。疲れにくくなるから修行に励めと言っていた。

 確かに〈貫通〉を使いすぎてフラフラになっていたのに、肉体的疲労はすでに一切感じない。


 それから称号は、隠し条件関係なしとありで大きく違う。


 まず、天敵というものは関係ない方。

 どのダンジョンでも同種のモンスターを一〇〇〇体以上討伐したり、特定の条件を達成したりすると得られる。

 効果は、対象モンスターとの戦闘時に能力値補正があるということ。


 次に、鬼神の恩人。


「あいつ、モンスターじゃないって言ってたけど、神だったんだな」


 間抜けな神もいたもんだ。

 称号の効果も塔の中でしか活きないものだったし。


「あの生首は、九尾狐だったんだね」


 こちらも驚いた。

 神と比較したら格の差はあれど、同じ金色ダンジョンのボスを務めていた実力者だ。

 ネームドとは思っていたが、まさか九尾狐だとは思わなかった。


「九尾とは……。とことん縁があるなぁ」


 こちらの九尾は顔を合わせることなく死んでくれたこともあって、少しスッキリしている。

 あちらもサクッと死んでくれないかな。


「効果も良い」


 九尾狐殺しの効果は、俺に対する偽装及び隠蔽系スキルの無効。

 同時に、精神干渉系スキルの無効。

 付随能力で、契約等の詐欺では甲乙反転で優位になるそうだ。


「素晴らしい」


 隠し条件関係なしでこの効果。

 金色ダンジョンを独占したい気持ちも理解できる。


 あとの二つは隠し条件達成時のみの特殊称号。


 一つ目は、暴虐非道。

 暴行等の行為で理性消失。

 暴行等の効果や精度が上昇する。

 勇気がなくてとかの、精神的弱さから来る躊躇いを回避できる反面、冷酷非情に映るらしい。

 対人戦など同情的になりそうな場面で活躍しそうな称号で、明確に関連する三つの能力値に補正があるらしい。


 二つ目は、聡明叡智。

 端的に言えば、ほぼ未来予測。

 引く手数多の超有名な称号で、所有していることを公表すると羨望の対象になるらしい。

 代わりに、賭博場を出禁になるとのこと。

 一度カジノに行ってみたい。

 こちらも能力値の補正あり。


「一番意味が分からないのが文字化け部分だな」


 多分こいつのことかなっていう見当はつけている。

 それは、俺が運んできた石の上で寝ていた猫だ。

 石を運ぶ時に下ろしたんだけど、何故か懐いて今も膝の上で丸くなっている。


 ポチャってしている感じが大福みたいで可愛い。

 色は黒いけど、虎猫みたいに縞模様があって虎焼に見えなくもない。


「大福みたいで可愛い」


 撫でている最中に、あまりの可愛さに思わず呟いてしまう。

 すると、文字化け部分が【大福の里親】に変化した。


「もしかして従魔になったとか?」


 まぁ可愛いから良いか。

 今は無職だから、猫動画を配信して生計を立てるのも良いかもしれない。


「それにしても能力値ヤバッ」


 単純計算で、Lv八〇の戦士特化型と同じくらいの能力値とHPだ。

 世界的に見ても極僅かな高位覚醒者の枠に入ると思うと、顔がニヤけるのを止められない。同時に異常さが理由で拘束されている未来も見え、悪寒が走る。


 そしてスキル。

 加護スキルにレベルはない。

 最初から最大効果を発揮する素晴らしいスキルである。

 固有スキルは、立ち位置的に加護スキルの下位互換だ。こちらもレベルはない。


 どちらにしろ、九尾狐に関係する方は問題ない。

 加護スキルの【金獣母神】は、金色系のモンスターも唯一契約可能なテイム系スキルだ。

 固有スキルの【変化】も鬼神が言っていた偽装系能力で、魔力を消費すれば自分以外も変化させられるらしい。


 ステータス偽装はもちろんのこと、紋章内の内容物も偽装できるらしい。さらに言えば、こちらは魔力消費なしだ。

 固有スキルでも十分価値がある。


「問題はコレだよ……」


 絶対に嫌がらせだろ。


 もう一つの加護スキル【悪運】は、LUC値を一〇〇%上昇させるスキルなのだが、付随する効果が面倒くさそうで外したい。


 一つは転禍為福。

 必ず一度禍が発生するらしい。

 最終的に福となるが、絶体絶命以外の災難に見舞われるとか嫌すぎる。

 絶体絶命を回避できると分かっていなければ、絶望しているところだ。


 というのも、もう一つの効果が危機一髪だから。

 そんなギリギリな生活を送らなきゃいけないのか?


「アイツも奥さんに責められるギリギリを味わえばいいのに……嘘だけどね」


 途端に悪寒が走り、前言を撤回する。


「職業スキルは飛ばして」


 通常スキルが増えたのは嬉しい。

 しかも、〈貫通〉と同じ汎用戦技だから武器を選ばない。

 あれだけ轢き逃げを繰り返せば〈打撃〉か〈衝撃〉を獲得できると思っていたが、欲しかった方を獲得できたのはすごく嬉しい。


 そしてまさかの魔法スキル。

 通常は、エレム結晶で属性解放をした後、SPを使ってスキルを獲得するか、専用アイテムを使うか、転職を機に獲得するか。

 俺は今回獲得したSPを注ぎ込んで獲得しようと考えていた。


 だが、鬼にしては気が利くらしく、鬼神加工で魔法を獲得できるようにしてくれたらしい。


 まず、九尾狐を金色エレム結晶に、将軍狐の右大臣を黄色エレム結晶に変化させた。それぞれ属性解放の効果を持つ。

 このままだと属性解放止まりだが、将軍狐の左大臣を属性強化の効果を持つ黄色エレム結晶に変化させ、それを素材に魔法を取得できる特別なエレム結晶にしたそうだ。


「危うく……売るところだったとは……」


 愚かな行為を止めてくれた鬼に感謝をし、鬼の浮気を墓場まで持っていくことを決めた。


 ちなみに、黄魔法は土と木系統魔法で、金魔法は命と星系統魔法。

 回復系職業を除き、唯一回復できるスキルを獲得できたわけだ。最高。


「トリはやっぱり初めての職業スキルでしょ」


 ニートのときは得られなかったが、今回は一つずつ得られて嬉しい。

 職業スキルは最大Lv五で、転職の度に進化したり派生したりするらしい。

 俺のスキルはどうなるか不明だが、色々期待している。


 テロリストの方から確認しよう。

 不完全攻略だから職業も下位互換だし、職業も固有スキルと融合することで構成したらしい。


 その鬼神パワーで生み出されたスキルが、【金鵄羅眼】という魔眼系スキルだ。

 使用時に金色に発光するデメリットはあるらしいが、四種類の能力があり、それぞれレベルアップごとに増えていくらしい。


 つまり、すでに四つの能力があるわけだ。


 一つ目は、解析から〈簡易鑑定〉。

 対象の名前、Lv、職業が分かるらしい。

 二つ目は、羅盤から〈危機羅盤〉。

 自分にとって危険なものがある方向が分かるらしい。

 例えば、鬼神が片っ端からブレイクに首を突っ込めと言っていたが、ダンジョン関係の危険な場所に向かえば自然とブレイクに遭遇できるというわけだ。


 うん、悪意を感じる。


 三つ目は、おまけの烏目から〈眼光〉。

 鬼神も視線だけで殺傷できるような鋭い眼光をしていたけど、まさかの眼光というスキルがあるとは。

 でもこのスキル、とても馬鹿にできるようなスキルではない。

 なんとスタン効果があるらしい。

 絶対にスタン効果が発動するわけではないけど、必然じゃないところがある意味フェイントになると思う。


 最後の四つ目は、おまけの鷹目から〈暗視〉。

 ダンジョンは暗いところが多いからね。

 普通だけど、実用的で良い。

 全く悪意を感じない。


「金色ダンジョン……良い」


 次は詐欺師の職業スキルについて。

 棚ぼたで獲得できたスキルは【金蚊鉄蠍】。


 こちらは三種類の能力が成長するタイプらしい。

 鬼神よりは少ないけど、固有スキルと複合せずに三種類だと思えば多い方だと思う。


「うーん……」


 少し特殊な感じ。

 一つ目は〈吸血〉。

 効果は、無許可の吸収というもので、レベルアップで増えていくものは人数と条件らしい。

 例えば、Lv一の現在は一人に対して接近しなければいけないらしい。が、ストーキングし続けられれば、対象が廃人になるまで吸収できるらしい。


 ちなみに、廃人というのは覚歴社会において価値がなくなった人という意味だ。

 呪具などでステータスが全て一桁になったり、スキルが封印されたりと役に立たなくなった人に対する蔑称である。


「お、恐ろしい」


 そう言えば、鬼神が魔力供給源にされていたっけ。

 九尾狐らしい能力といえば間違いないだろう。


 そして、二つ目は魔毒から〈模倣〉。

 こちらは先程とは違い、能力が増えるタイプだ。

 対象のスキルをランダムで選出し、劣化版だが一回限り発動することができる。

 ただし、使用スキルは直接見る必要がある。

 一つしか見てなければ、それが選ばれるのか。

 それとも見てないスキルも選出対象で、不発に終わるのか。

 検証が必要なスキルだ。


 最後に反則的な断頭から〈窃取〉。

 対象の所有物及び能力から、ランダムに選出して盗み出す。

 条件は、生存していることと接触していること。

 確率は低いが、スキル発動の隠蔽効果が高く感知されにくい。

 なお、回数制限はない。


「これは……ダンジョンに行くしかない……」


 何より恐ろしいのは、何度見返しても『人間のみ』と書かれていないところ。

 人間に対して行えば問題になるだろうが、モンスターに対して可能ならば、潜伏技術次第で寄生し放題ってことだ。


「検証することが山程ある。楽しみだっ」


 まぁ鬼神の思惑通りと思うと悔しいが、自身の職業やステータスに絶望して全てを諦めていたときとは違い、目の前が開けたように光り輝いている。

 不名誉な称号を付与されないよう、作業同然のスライム狩りも楽しみで仕方がない。


 それに、異常な能力値になったステータスを持ってしても鬼神に瞬殺される未来しか想像できず、今後平和に生きていくためには強くなるしかないと改めて思う。

 同時に、金色ダンジョンの脅威も感じている。

 隠し条件なしでも十分な報酬を得られ、さらには隠し条件を達成した異常能力者もいるはずだ。


 敵はモンスターだけではない。


 異常能力者が敵対した脅威は、金色ダンジョンのブレイク以上だろう。


「結局は鬼神様の言う通りだったな」


 死を目前にして後悔しない?

 するに決まっている。


「それにもう独りぼっちじゃないしね」


 膝の上で腹を晒して爆睡している大福を撫で、強くなる決意を固める。


 二度と家族を失わないような強さを得ると。


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