008 爆食します

 拝殿の外に出ると不思議パワーで死体を残らずかき集め、空中で各部位に解体し、それぞれの部位ごとに山積みにしていく。

 肉や臓器は食べれないということで、これまた不思議パワーで焼却処分していた。


 残されたのは付与や装備に使える毛皮に、狐たちが身につけていた武器防具に、大量のジェム、オーラ結晶、エレム結晶だった。

 何故か魔核が一つもない。

 魔核がそれぞれ別のアイテムに変化することはブレイクでも結構珍しく、ブレイクに参加する覚醒者は取得優先権を交渉して獲得することが大前提と聞く。


「ボスを除き、一〇〇〇体以上の死体があった。その中でも細切れになったりしたものは焼却処分とした。それでも一〇〇〇体の死体はある」


「おぉ〜」


 単純に驚いているのもあるが、どう処理したらいいか悩む。


「今回は、お前が不思議パワーと呼ぶ力で魔核の加工をした」


 内訳は、次の通りだ。

 最優先は、【オーラ結晶】の特殊効果。

 次点で、【エレム結晶】の特殊効果。

 最後に、ジェムの割合を多くし、中でも戦士向きのAPを獲得できるように比率を調整したとのこと。


 費用は、魔核の半分。

 元々俺が討伐したものではないから、費用に関しての文句は一切ない。

 ただ、どれもダンジョン崩壊後は一日以内に使用しないと消滅するアイテムゆえ、この後すぐに大食い早食いをしなければならないことに戦慄している。


 残しておいたら協会職員に奪われる。

 そんなことは絶対にさせたくないから死ぬ気で食べる。


「最優先で食べるのは【オーラ結晶】だな」


 HPを増やす【オーラ結晶】は果物の形をしており、大きい順に効果が高くなっている。

 しかし、何故か一番効果が高い果物はバナナである。特殊効果が付くものは色違いなどの変化があるそうだ。

 実際、目の前のバナナは金色だったりする。


 他の果物は特殊効果がないもので、大きい順にパイン、メロン、リンゴ、スモモ、ミカン、イチゴと分類ごとにまとめて置かれていた。


 早速バナナを手に取ってみる。

 手に持った重さや感触から、既知のバナナとは全く別のものだと判別できた。


「あぁっ。本物のバナナじゃないんだ」


「飴細工に近いはずだ」


「確かに」


 パリパリいける。

 味もほんのり甘い程度。


「じゃあ一四〇個、さくさく行こうか」


 実際の数字を聞くと、憂鬱な気分からか食べるペースが落ちていく。


「じゃあ気分を変えて、ボスの【エレム結晶】を先に摂取しろ」


「こ、これは……いくらになるのか……」


「はぁ? 金色と銀色のエレム結晶はネームドモンスターからしか得られず、金色に至っては金色ダンジョン以外から得るのは困難だろう。それを使わずに売るのか?」


「お金は大切だよ?」


「……厄災に見舞われて、死を目前にしても後悔しないなら好きにしろ」


 意味深なことを言うじゃないか。

 そこまで言われたら、ねぇ。


「金額を聞いただけなのに……」


「時間がないと言っているのに、無駄口を叩く阿呆がいるとは思わなかったからな」


 正論。

 モンスターに正論で論破されるとは。


「うん、味は一緒」


 ちょっと大きな金色のパワーストーンに、【九龍塔】らしき塔の絵柄が彫られているところ以外は変化なし。

 まぁ【エレム結晶】は大きさが統一されているようで、小さなものをまとめて大量に口に詰めることはできない。

 なので、種類関係なく軽く砕いた後、水で流し込むようにしている。


 この水も鬼がどこからか持ってきた飲めるかどうか分からないもので、普段なら「どこから持ってきた?」と聞き、飲むことを躊躇うだろう。

 だが、先程論破されたこともあり、躊躇うこともなく言われるがまま飲んでいる。


 一度【オーラ結晶】に戻り、再び【エレム結晶】を食む。

 一番の数を誇る【ジェム】は良いのかと思うかもしれないが、アレは棘の数が違うだけの金平糖だから錠剤タイプの薬のように飲めば問題ない。


「早く、早く」


「うるさいなっ」


 水を注ぐ以外は、拍手でリズムを取り追い立てる鬼。


「それより【九龍塔】で警告出してくれるんでしょ?」


「んっ?」


「人のものを奪うなって」


「あ〜あ。それは無意味だろう」


「おいっ」


 話が違うぞ。


「お前が拘束されたり、竜の卵の主みたいに洗脳されたら奪ってないってされるだろ」


「──えっ? 洗脳っ!?」


「そういうスキルがあるからな。竜の卵については塔の監視対象になっている。それゆえ動向については当人と同じくらい詳しいぞ」


「監視対象?」


「そこはどうでもいい。重要なのは、世界共通で精神干渉系スキルの使用は重罪だと決められている点だ。逆を言えば、重罪だと分かってて使用しているということは、使用しないと拘束できないと明言されているということだ」


 どうでも良いとは思えない内容だったよ。

 簡単で良いから教えて欲しい。


「使われたら一巻の終わりだけど?」


「安心しろ。お前に精神干渉系スキルは効かない」


「えっ?」


「今回の攻略の特典の一つだ。あとで確認しておけ」


 マジで?

 強奪されないなら嬉しいけど、油断は禁物だな。


「それに最悪録画というものがあるのだろう?」


「詳しいね」


「うむ、まぁな。それで金色ダンジョンのことを使って脅せ。世界的に隠蔽していることを、自分たちが欲をかいたことで明るみに出るとか。そのような失策をしたら国の信用失墜で、【九龍塔】の管理権を奪われるかもしれないな」


 そうなったら、日本に他国の軍隊を入れるようなもの。

 国が終了するな。


「ダンジョンの資源は?」


「我がお前に譲渡したとすれば良い。他のものは全て我が持ち去ったと言っておけ」


 なるほど。

 高位覚醒者に報告を頼まれた。

 残った素材などは報酬として譲渡された、と。


「あと、左手を出せ」


 ん?

 左手には覚醒者の証の紋章がある。

 これは覚醒者なら全員ある。

 左右の手の甲、ガチャを回した方に刻印される。

 痛みは全くない。

 絵柄は九つの塔それぞれで違い、研究者曰く竜生九子に因んだ絵柄らしい。


 日本の絵柄は二枚貝の中に龍がいる黄色の紋章。

 そこから日本の塔は、【椒図の塔】と呼ばれている。

 機能は、ステータスが出たり消えたりする場所で、ポーチ程度の大きさの空間収納がついている。

 ダンジョン内では電子機器が使えないので、空間収納内にスマホを入れておくと便利だ。さらに、協会に登録している証明である登録証を入れておくことも出来る。


「塔に来た時用の目印だ」


 GPS的なもの?


「一応背負袋程度に拡張をしておいたから、その重そうにしている図鑑と辞書を入れておけ」


「あっ! ありがとうっ!」


 めっちゃ重かったし、協会職員にどうやって見つからないようにしようかと悩んでいたんだよ。


「他の説明は、その紙に書いておいた。読み終わったら燃やせ」


 気が利くではないか。


「ではな。我は帰る」


「さようなら〜」


「約束は守れよ」


 なんのことだ? と思っているうちに、鬼は崩壊する拝殿内に進んでいった。


「あぁっ! 奥様への……」


 無実ってやつか。

 一番は奥様に会わないことだけどね。



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