第41話 王都への到着と冒険者ランクの確認

 そこはまるで別世界だった。

 噂以上に、壮麗で活気に満ちている。

 まず、とても大きい。単純な広さだけでも、ヴァースの町の十倍以上はあるだろう。

 都市を守る城壁も、高く分厚い。

 さらに、見上げるほどに大きな建物がいくつも存在し、空を見ればなにやら飛んでいる船がいるという有り様。


 「これが……王都か……」


 今まで自分が暮らしていたところはなんだったのか。

 思わずそう言いたくなるくらい、王都アールムの発展ぶりにリリィは圧倒されていた。


 「……世界は広いな。あたしたちの住んでいた場所は、とても狭かったことを実感する」

 「お母様から色々と話を聞いていましたが、やはり実際に見ると驚くばかりです」


 ずっとヴァースの町で暮らしていた子どもにとって、目の前に広がる光景はまさしく別世界。

 だが、大人であるセラだけは、発展している王都を淡々と見つめていた。


 「遠くから見れば、それはとても豪華絢爛で輝きに満ちてる。けれどね、中に入れば薄汚さに満ちてもいる。子どもたちには、刺激が強いかもね?」


 話していくうちに挑発的な笑みを浮かべたが、すぐに憂いを帯びた表情へ変わる。

 気になったリリィは、小声で呼びかけた。


 「セラは、王都で何かあったの?」

 「ま、色々とね。なにせ、あなたたちより長く生きてるから」


 自らの過去を話すつもりはないのか、大人のラミアであるセラは、それだけを言うと甲板から船内に戻っていく。

 少しして、乗っていた船はアールムの港に停泊するため船を降りる準備を進める。


 「お世話になりました。残りの支払いをします」

 「うん、金貨十五枚、確かに。……ああ、そうそう。多分大丈夫だとは思うけど、王都で騒ぎを起こさないようにね? 騎士団を率いる者として、対処しないといけなくなるから」


 赤い髪の女性からちょっとした忠告を受けつつ、四人は馬車と共にアールムへと降り立つ。

 広い港には大勢の人々がいるが、格好を見る限り、大部分が新王の即位式のために遠路はるばるやって来ているのは明らか。


 「さて、このあとどうするかですが」

 「レーア、ちょっとお願いが」

 「なんですか」

 「最初は冒険者ギルドでいい?」


 リリィは冒険者カードを取り出す。

 数年間忘れ去られた結果、細かい傷だらけで全体的にボロボロ。

 よく見ると折り目がついていたりする。


 「冒険者ランクの確認とか、カードの更新とかしたい」

 「あたしも、リリィのついでにやっておく。面倒だったのもあって、これまで放置していたから」

 「それなら最初はギルドへ向かいましょう」


 最初の行き先は決まった。

 向かう途中、リリィはセラを見る。


 「ところで、セラの冒険者ランクとかって」

 「ふふふ、ギルドについたら教えてあげる」


 アールムの冒険者ギルドは、王都にあるだけあってかなりの規模。

 受付はいくつかに分かれており、数十人の職員が、大量の冒険者を相手になんらかの手続きを進めている。

 当然ながら、依頼が貼ってある木のボードも複数存在し、じっくりと内容を読んでいたら他の冒険者に次々と取られてしまう。

 たまに依頼を取り合う喧嘩が起きるが、すぐさまギルドの職員が鎮圧しに行くのだから凄まじい。


 「酒場並みに騒々しいんだけど。いや、むしろ酒場以上かも」

 「ここの職員は大変だな」


 リリィは空いている受付に向かうと、冒険者ランクの確認と、カードの更新をしたいと伝えた。

 サレナもあとに続く。


 「……何年も放置されていたようですが」

 「いやあ、すっかり忘れてて。えへへ」

 「放置していても問題なかったもので」

 「リリィ・スウィフトフット。サレナ・アートルム。どちらも、ヴァースの町出身。……しばらくお待ちください」


 職員の一人が離れると、代わりに別の職員がやって来る。


 「改めて冒険者ランクについての説明は必要ですか?」

 「はい、お願いします」


 今まで気にしたことのなかったリリィだが、さすがに今は気になる。

 ということで、説明を求めた。


 「冒険者ランクとは、冒険者の実力をわかりやすく示したものになります」


 冒険者ギルドに登録した冒険者は、いくつかのランクに分けられる。

 一番下っ端で微妙なストーン。

 それよりややマシなアイアン。

 多少は使い物になるブロンズ。

 周囲から認められるシルバー。

 誰もが憧れて目指すゴールド。

 この五つである。


 「最初は最低ランクのストーンから始まり、ギルドに出されている依頼をこなしていくと、ランクを上げることができます」

 「ギルド以外の依頼をこなした場合は?」

 「特に影響はありません。早くランクを上げたい場合は、ギルドで依頼を受けるのが一番です」


 冒険者ランクは、良くも悪くもあくまでギルドによる評価を形にしたもの。

 リリィは納得するように軽く頷いたあと、次の質問を行う。


 「ランクによる違いとかって」

 「一部のダンジョンでは、低ランク冒険者の入場を禁止しています。例えば王都アールムにおいては、誰でも入れるダンジョンと、制限のあるダンジョンが存在します。さらに一部の商店では、高ランク冒険者にだけ販売する商品があったりします」


 依頼についても、冒険者ランクで足切りをするものがあるが、これは王都ほど人口が多いところでないと、基本的に見かけることはない。

 なぜなら、制限をかけるほどに依頼の完了は遠のいてしまう。


 「冒険者ランクは、低いよりは高い方がいいですが、ランクを振りかざして問題を起こすことがないよう、そこまでの利点は付与されません」

 「なるほど」


 話を聞いていると、さっき離れた職員が戻ってくる。

 そして今いる者と入れ替わると、真新しい冒険者カードが目の前に置かれる。

 リリィとサレナのを合わせて二枚。


 「確認が済みました。リリィ・スウィフトフット及びサレナ・アートルムの両人は、オウルベアの討伐依頼を完了させた段階で、シルバーランクとなっています」


 五つあるうちの、上から二番目。

 まさか自分たちがそこまで高いランクになっていたとは。

 その驚きから、リリィとサレナは思わず顔を見合わせた。


 「シルバーだってさ。わーお」

 「リリィ、お前はわかる。毎日コツコツ、毎月の支払いのために依頼をこなしていたから。けれど、あたしはそこまで潜ってないぞ」

 「サレナの場合は、団長と一緒に難しい依頼をこなしてたのが大きいんじゃない?」

 「ああ、そうか。それがあったか」


 お互い、ある程度の納得をする。

 小さい頃からコツコツと活動していたリリィ。

 定期的に、オーウェンという実力者と活動することのあったサレナ。

 簡単なのをたくさんと、難しいものを少しという違いはあるが、これまでに数年という積み重ねがあった。

 そこにオウルベアの討伐が加わることで、シルバーランクになれたのは喜ばしいこと。

 だが、そうなると気になる部分が出てくる。

 オウルベア討伐の依頼は、レーアが用意した。

 最初からこうなることを見越していたのだろうか?


 「レーアは……」

 「あそこだ」


 セラは受付にいるのか、レーアは空いている席に一人だけで座っている。

 二人は急いで合流すると質問をぶつける。


 「二人とも、どうでしたか?」

 「シルバーだって」

 「あたしも同じ」

 「それは良いことです」


 レーアは微笑む。まるでそうなることがわかっているような笑みだった。


 「聞きたいことがあるんだけど」

 「なんでしょう?」

 「オウルベアの討伐をこなしたことで、シルバーランクになれたってのを職員の人が言ってた」

 「わざわざ、ダンジョンから脱出できる魔法のスクロールを持たせてまで、厄介な依頼を受けさせた。……ランクを上げるために仕組んだのか?」

 「ええ。形としてはそうなります」


 あっさりと認めるので、二人はわずかに驚くも、レーアは口元に指を置いて静かにするよう求めた。


 「しーっ。あまり大声で話さないように」

 「……じゃあ、なんでそうしたのか教えて」

 「わたくしの手で、少しでもリリィを育て上げたいからです」

 「ま、まさか」


 嫌な予感にリリィは固まる。


 「最強冒険者計画。これは消えずに続いているわけです。ふふふふ、わたくしは諦めません」

 「こいつを育てるのはいい。あたしを巻き込むのはやめてもらいたいのだが」

 「いいではありませんか。結果的に、シルバーランクの冒険者になれたわけですから」


 話していると、受付からセラが戻ってくる。

 その視線は、リリィとサレナ、より正確には二人の持っている冒険者カードに向いていた。


 「え、ちょっと待った。シルバーランクって嘘でしょ?」

 「本当だよ。受付で更新したから」

 「そこのお金持ちのお嬢様のおかげで、なったわけだ」

 「ところで、セラのランクは?」


 その質問に対し、セラは非常に険しい表情を浮かべると、舌打ちしてから呟く。


 「……ブロンズよ。くそっ、あまりギルドからの依頼をやってないことがここで響くなんて。面倒だけど、依頼をこなしておくしかないか」

 「ちなみにわたくしのランクはアイアンです。途中でお母様からダンジョンに潜ることを止められたので」


 冒険者ランクについてのあれこれについては、軽く揉めたものの大したことはない。

 ギルドの中で色々喋っていると誰が聞いているかわからないため、四人は一度ギルドの外へ出た。

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