第15話 レーアからの依頼
「それで次は何を?」
「わたくしは今からギルドに依頼を出します。それを受けてください」
どういう依頼を出すのか首をかしげつつも、リリィとサレナは空いている椅子に座って待つことに。
ウサギの獣人は耳のおかげでそこそこ目立つが、それ以上に目立つ種族があちこちにいるため、相対的に目立たない。
冒険者にはあらゆる種族が存在し、それゆえに揉め事も多い。
「羽虫、取り分はどうなっている。少ないぞ」
「うるさいね、トカゲ野郎。事前の取り決め通りだけど」
白黒ウサギの二人以上に目立つ存在が、近くで揉めていた。
一人は、手のひらに乗るくらい小さな妖精。
妖精はだいぶ珍しい存在だが、数が少ない以外は割とどこにでもいる。集団で見かけることはあまりないが。
もう一人は、二足歩行するトカゲのような存在。リザードと呼ばれており、独自の文化と国を持つ程度には数が多い。
ハーピーやラミアといった種族の方がまだ人に近いと言えるくらい、非常に特徴的な姿をしている。
「……賞金首を追いかけてここまで来たというのに、王都に行ったという。いつまで向かうための資金稼ぎをすればいいのやら」
「このペースなら数日で貯まるから我慢してほしい。っと、僕たちは見世物じゃないぞ、ウサギのお嬢ちゃんたち」
近くの揉め事を見ていたリリィとサレナに対し、妖精は空中を浮遊しながら言う。
男性にも女性にも見える中性的な姿は、どこか不思議なものがあった。
「賞金首って、ワイズという名前の?」
リリィが呟くと、リザードの男性は頷いた。
「うむ。何をしでかしたは知らんが、金貨五千枚の大物だ。追いかける価値がある」
「聞いた話では、ラウリート商会ってところがずっと追いかけてるらしい。そこのお偉いさんは、何か知ってたりして」
そこまで話したあと、奇妙な二人組はギルドから出ていった。お金について言い争いつつ。
近くに人がいないのを確認してから、リリィはサレナに尋ねる。
「どう思う?」
「あたしに聞くな。さっきの二人組が言っていた、お偉いさんの娘であるレーアに聞けばいい」
話しているうちに、手続きを終えたレーアがやって来る。
その手に一枚の紙を持って。
本来なら木のボードに貼るべき依頼だが、依頼人が渡したい相手に直接渡すこともできる。相手がギルドにいる場合のみ。
「二人とも、これを」
「なになに」
「変な依頼でないことを願う」
レーアからの依頼は、オウルベアというモンスターを正面から打ち倒すというもの。
「フクロウとクマが合わさったようなモンスターで、地下七階辺りに出るそうです。地図はないならあげます」
「待ってよ。二人だけで地下七階はきつい」
「ああ。せめてあと一人か二人は冒険者がいないと」
ダンジョンは地下深くになるほど強力なモンスターが出てくる。
深い階層に少数で挑むことに二人は否定的でいたが、そういう反応が来るのは予想していたのか、レーアは一枚の丸められた羊皮紙を取り出す。
「この魔法のスクロールを渡すので、無理だと判断したら使ってください。ダンジョンから一気に地上へ脱出できます。ちなみに金貨十枚なので、気軽に使わないように」
「ひええ、高級品だ」
「ある意味、このお嬢様は本気なわけだ。リリィに期待しているんだろう」
魔法のスクロールは、その名の通り魔法が仕込まれている。
一度使えばボロボロになるので使い捨てることが前提だが、誰でも魔法を使用できるという利点がある。
値段はどんな魔法が使えるのかで変わり、ダンジョンから脱出できるものとなれば、金貨十枚でも安い。
もし、ヴァースよりも深い階層のダンジョンがあるところで転売すれば、大きく稼げるだろう。
「成功報酬は、渡した魔法のスクロール」
「もう少し奮発して?」
「ここで土下座するなら考えなくもないです」
おねだりすると、土下座を求めてきた。
さすがに大勢の人々がいる前でするのは無理なので、リリィは渋々と引き下がる。
その代わり、仏頂面のままレーアは言う。
「お金持ちなお嬢様、付き合わされるあたしには何かないのか」
「わたくしの意思で連れ回しているわけですから、何かあげないといけませんね。では、金貨を一枚」
「わかった。それでいい」
話がまとまったあとは、装備などを軽く確認してからダンジョンに潜っていく。
無駄な戦闘は疲れるだけなので、敵対的なモンスター以外は無視して進む二人だが、黙ったままでいるのは精神的によろしくないため、自然と雑談が始まった。
「リリィ、どうなんだ」
「どうって、何が?」
「冒険者として上手くやれてるのか」
「ぼちぼちってところ。そっちこそ自警団はどうなのさ」
「色んなところからやって来る冒険者が問題を起こすから、そういう者への対処で忙しい。冒険者として鍛えた技能を、泥棒とかに使う者もいるから」
「サレナ、昨日はありがとう。大金を失うところだった」
泥棒の話題になるとリリィはお礼を口にするものの、サレナはため息混じりに頭を横に振る。
「助けたせいで、あのお嬢様に振り回されることになったんだが」
「まあ、ほら、金貨貰えるんだしさ」
「やれやれだ。ついでにオーウェン団長にも文句を言いたい」
「団長は、夜にいきなり来たレーアに何か苦情とかは」
「さすがに何か言おうとしていた。だが、目の前に大量の寄付金を用意されると、苦笑するだけになった」
「あー、やっぱり大金って効果あるねえ」
同年代、同性、同じウサギの獣人ということで、雑談はそこそこ盛り上がるが、それが続くのは何も脅威がない場合。
地下六階に到達すると、敵対的なモンスターが一気に増える。
「グルルルル……」
「イヌのようなモンスターの群れがきた。いくらか任せても?」
「余裕。地上で悪さする冒険者を相手する方がよっぽど大変。あとあれはオルトロスという名前のやつだ」
鋭い爪と牙を持ち、頭が二つある四足歩行のモンスター、オルトロス。
地下五階までに出てきたイヌのようなモンスターと比べ、一回りほど大きい。
それだけに厄介な相手だが、群れの数は四体。
一人で二体相手すればいいだけなので、リリィとサレナのどちらも余裕そうな態度でいた。
「ちょっと正面から戦おうかな」
「オウルベアの前座にはちょうどいい」
あまり広くない通路で群れと戦うのは不利な部分がある。こちらは思う存分武器を振り回せないのに、相手は連携して攻撃できる。
しかし、それは自分の強さを確認する良い機会。
まずはリリィから仕掛けた。買ったばかりの防具を信頼しての行動だった。
「ガアッ!!」
「反撃!? でもこの程度!」
一気に駆け寄り、剣を振り下ろそうとした時、オルトロスというモンスターは怯むことなく飛びかかってくる。
それも複数同時に。
「援護する」
しかしその動きを読んでいたのか、すかさず剣を持ったサレナが割り込み、オルトロスの一体を空中で叩き斬った。
これで残るは三体。
「助かったよ」
「まだ相手は残ってる。他のモンスターがやって来る可能性もある」
「なら早めに終わらせないとね」
さっきと同じように駆け寄り、まずは剣を斜めに振り下ろして一体を仕留めると、次は斜め下から斬り上げる形で近くにいるもう一体を仕留めてみせた。
これで残りは一体だけ。
あっという間に群れがやられたからか、生き残りは全力で逃げ出そうとするも、白ウサギの少女に振るわれる剣は胴体を捉えた。
ザシュッ
「これで終わり、と」
足が速いということは、逃げる以外に追いかけることにも役立つ。
視界が悪いダンジョンの内部で走るのはだいぶ勇気がいるが、多少の隙は仲間であるサレナが補ってくれるため、リリィはわざわざ追撃をした。
「手応えは?」
「良い感じ。一人だとできない行動も、二人だと選べる」
「所詮、相手はイヌ。クマのモンスターに比べれば弱い。気をつけるんだ」
「油断はしない。ま、緊張もしないけど」
ダンジョンは広く、モンスターと遭遇する機会は思ったよりは少ない。
これは他の冒険者が同じ階層で活動しているのも影響している。
浅い階層ほど多く、深くなるにつれ人数は減っていく。
時折、依頼をこなしていると思わしき冒険者とすれ違ったりしながらも、怪我や疲労のないまま地下七階へ。
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