第19話 新居と恐怖

   ◇次の日◇

 土田との帰省から1日、俺は特に帰れる場所もないので、しばらく土田の家に泊めてもらうことにした。

 まあ怜奈の死体があった家や、両親の死体があったであろう実家には、帰りたくないしこれが最善策だろう。  

 家に来た時、土田に


『一緒のベッドで寝る?』


だとか、


『別に襲ってくれていいよ』


だとか、しょうもないからかいをされた覚えがある。

 まあ当然断ったんだけどな。


 それにしても土田は、本当に何者なんだろうか?

 最近怖くなってきてる自分がいる。

 この家だって、かなり家賃が高そうなタワマンだし。 

 それに、俺の両親の死を知っている事も不自然だ。

 その死の情報が俺に伝わらないように出来ただけの、来田をも防ぐ力。

 そんな力を持っていることも不自然だ。

 別に土田を信用していない訳じゃない。

 ただ…、"俺の知らない世界"をたくさん知る土田を、俺自身がまた、"俺の知らない世界"に巻き込まれることを恐れてしまっているだけなんだ。

 どうせ同棲するんだから、ある程度素性はわかると思うが…。

 …あれ?盟約者を疑う俺、我ながら最低じゃないか?

 

 そんな事を考えていたら、気づいたら外は真っ暗になっていた。



   ◇盟約上の食卓◇

 土田の家に来てからの最初の夜、食事は土田が作ってくれるというので、俺はしばらくゆっくりすることにした。


「味は期待しないでね〜、簡単にできるものしか作らないから」


 そう土田は話しながら、手際よく手を動かしている。    

 材料から予想するに、おそらくカレーだろう。

 カレーのどこが手軽なんだか。


「…君、カレーは全然手軽じゃないだろ。とか思ってない?」


 一瞬にして図星を突かれて、俺は素っ頓狂な声で、


「思ってない!」


と叫んでしまった。

 それを見て土田はニヤニヤ笑っている。

 クソッ、いたずら好きなのかよコイツ。

 そんな事を思いながらも俺は、カレーの完成を気長に待つことにした。


   ーー1時間後ーー

 カレーの香ばしい匂いが、部屋中に充満してきた。

 そろそろ完成の頃合いだろうか。


「はい、できたよ」


 そう言いながら、土田は俺の分の皿をリビングの机に置いた。

 昨日はネカフェに泊まったから、人の手の込んだ料理は本当に久しぶりだ。

 怜奈の料理も、もう食べられないしな。

 そんな事を思っていたら土田から、


「私がいるのに、もう別の女の事考えてるの!」


と言われてしまった。

 盟約場の相手だからいつか別れを切り出すつもりではあるとはいえ、確かに失礼だったなと思い、土田に軽く謝りながら、席に着いた。

 土田も頬を少し膨らませてはいたが、


「別にいいよ」


と言いながら、席に着いた。

 そして、2人で同時に手を合わせ、


「「いただきます!」」


の合図と共に俺は、直ぐにスプーンを口に走らせた。

 どうやら思っていたよりお腹が空いていたらしい。

 パクッ。

 口に入れた時、一気にスプーンを走らせた事を一瞬にして後悔した。


「辛っ!ゴホッ、ゴホッ」


 そう、メチャクチャ辛かったのだ。

 どんなカレーだよ。

 人を殺す気か!

 ていうかカレーが少し赤い時点で気づくべきだった!


「別の女の事を考えてるからだよ。私だけを見てくれないと、許さないから」


 土田は俺を睨みつけてそう言った。


 女は怒らせちゃいけない。

 心底そう思った。

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