第17話 電車と顔色

   ◇秘密と盟約者◇

 出所した日の翌日、俺は約束通り最寄りの駅に来ていた。

 デートのような行為に少し罪悪感を覚えながらも、きちんと30分前には来ておいた。

 俺は紳士だからな(デートなんか久しぶりだから、緊張しすぎて早く家を出てしまったことは黙っておこう)。

 しかし、まだ土田は来ていない。

 まあ30分前なんかに来るアホなんかいると思わないだろうしな。

 気長に待とう。


   ー50分後ー

 おかしい。

 約束の時間からは20分も過ぎているのに、土田がまだ来ない。

 何かあったんだろうか。

 なんてことを考えていると、小走りに走る俺の待ち人が、手を振りながら近づいてきた。

 そして、流れる汗を拭いながら、


「ごめんね。約束のことすっかり忘れてたよ」


なんてことを言ってきた。

 『なんてマイペースな奴なんだ』なんて思いながらも


「ああ、大丈夫だ」


と、返しておいた。

 俺は紳士だからな(汗を拭いながら上目遣いで俺を見つめるの、反則だと思う)。


「じゃあ行こうか」


「ああ」


 俺たちはそう言いながら歩き、2人で駅の改札を通った。


   ー電車内ー

 俺の実家は、だいぶ田舎の所にある。

 Wi-Fiですら通っていないから長らく帰省はしていなかったが、久しぶりに両親に会うのが楽しみだ。

 なんてことを考えていると、土田から


「子どもみたいだね」


と言われてしまった。

 どうやら気分が顔に出ていたらしい。

 恥ずかしい。 


 それから、電車を乗り継ぎしていき、後10分程度で駅に着く所まで来た。

 俺は長旅の疲れから、少し眠気がしていたが土田の表情は、近づくたびに曇る一方だった。

 俺は、その表情が少し気になり、土田に直接聞いてみることにした。


「顔色が悪いけど、どうしたんだ?」


 すると、土田はビクッと体を震えさせてから俺に、


「別に悪くないよ」


と、返してきた。

 だがその声色は、いつものマイペースな彼女のものではない。

 まるで、何かを俺に"隠している"かのような態度だ。  

 考えてみれば土田は、俺が"両親"の話を出すたびに顔色が悪くなっていた気がする。

 それは、何故なんだろうか。

 気になった俺は、もう少し探りを入れてみることにした。


「俺の両親が何か関わっているのか?」


 すると土田は、また顔色を悪くしてからため息をつき、もう一度息をついてから、言葉を発した。


「感づかれるなんて私もまだまだだね。でも、いつまでも隠していていいものじゃないし、君に教えてあげるよ」


「教える?何をだ?」


 俺がオウム返しのように聞くと、土田は暗い声色で、こう言った。


「君が知りたくない、真実をだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る