第15話 未来
◇反撃開始◇
土田は不気味な笑みを浮かべた後、検察官に声を荒げてこう言った。
「まだまだ証拠はありますよ、これをご覧ください。」
「爪…?」
裁判員や、傍聴をしている人々から、困惑の声が聞こえてくる。
そんな雰囲気をお構いなしに、土田は話を続ける。
「この爪は、事件現場に落ちていたものです。警察の方々も現場捜索の時にご覧になったでしょう。あなたがたは、この爪を"牧野怜奈"さんの物だと判断し、特に回収等は行わないませんでした。でも、それは間違いだったんです」
土田は息を一度吸い直し、こう言った。
「この爪は来田商事代表取締役社長、"来田正成"さんのものです」
この一言をきっかけに、裁判上の雰囲気は、一気に混沌と化した。
『どういうことだ?』
『犯人は別にいるのか?』
など、様々な憶測が部屋中に巡った。
そんな雰囲気を追い風にして、土田は更に追い打ちをかける。
「ちなみにこの爪は、DNA鑑定もかけているので、証拠としては十分でしょう」
そう言い切った土田に、検察官は苦し紛れの反論をする。
「だがその爪も、実際に事件現場にあったかどうかはわからないでしょう!」
しかし土田は焦ることなく、
「あなたたち警察は、現場捜索の時に見ていたって先程私は言いましたよね。もし否定するのなら、事件現場で撮影した写真を見てみてください。きっと写ってますよ」
これを聞いた検察官はついに黙り込んでしまった。
そんな黙り込んだ検察官に、土田はモニターに映像を流し、最後の証拠を突きつける。
「これは、被告人のタイムカードを改ざんする、来田正成さんの姿です。被告人は、"午前1時"に自宅に帰宅しました。近隣住民の方にも聞きましたが、被告人がその時間に帰宅するのを見た、という方が多いようです。しかし、タイムカードには"午前10時帰宅"と書いてあります。これは、どうなんですか。検察官さん?」
土田は、検察官に悪魔のような笑みを向けた。
検察官は黙り込み、数秒経ってから、
「来田正成さんによるものでしょう。異議はないです」
と力なく言った。
その声を聞き、何かを理解したような裁判官が、大声でこう言った。
「では裁決に移ります。被告人が"牧野怜奈さん殺人事件"の犯人である証拠は薄く、犯罪を犯したとは考えにくい。よって、被告人を無罪とする!」
俺は、この声を聞いた時、一瞬時が止まったが、傍聴席の声で、現実を理解した。
そうか、俺は無罪になったのか。
怜奈殺害の犯人が、ちゃんと探されるのか。
そう思うと嬉しい気持ちが溢れ、かつ、再び怜奈を失った悲しみを思い出し、涙が溢れていた。
嬉し泣き&悲し泣きだ。
判決が決まり、ある程度の礼式が終わると、俺は出所の準備をしていた。
新しい生活をどうするか、どんなふうに生きるかはまだ未定だ。
だが、俺は俺らしくありたいとは思う。
彼女が、土田が俺に元気と勇気を与えてくれたから。
彼女に感謝しないとな。
…あれ?
俺って確か盟約で土田と付き合ってたよな。
それって今も継続?そんな事を考えると、この先の未来のプランに、土田が加わることになってしまう。
「嘘だろぉ」
俺は力なく呟いて、過ごし慣れてしまった警察署を後にした。
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