第14話 証拠不十分

   ◇赤い頬の壇上◇

 土田の大声が響いた裁判場は、一気に静まり返った。  

 皆の視線は土田に向けられ、緊張感が走る。

 俺も場の緊張感に呑まれながら、土田の方を見た。

 すると土田の頬は赤く染まっていた。

 どうやら思ったより声が響いてしまって、恥ずかしいらしい。

 いつも化け物みたいな行動をしているだけに、少し可愛いなと、不覚にも思ってしまった。

 そんな静かな雰囲気をぶち破るように、土田は再び力強く話し始めた。


「被告人は犯行当時、残業をしていました。当時残業をしていたのは被告人を含め2人。その残業していた1人、"西野景子にしのけいこ"に話を聞き、彼女は彼を見たと言っていました。これは、被告人の紛れもない"アリバイ"です」


 何!?俺以外に残業をしていた奴がいたのかよ。

 ていうかいつの間に聞いてたんだよ!

 そんな情報作戦会議の時でさえ言ってなかったぞ。

 まじで凄いなコイツ。


 だが、検察官はそれだけで許してくれる程、甘くはなかった。


「ですが、その会社に西野さんがいたという証拠はない。これは被告人が犯人じゃない証拠にはならないんじゃないですか?」


 確かに。

 会社には防犯カメラも無かったようだし、その判断は妥当か。

 まして口頭で確認しただけなんて、証拠としてはかなり薄いよな。

 すると土田は、


「勿論会話はボイスレコーダーで撮ってありますよ。」


と、言いながらそのボイスレコーダーの音声を流しだした。

 確かに西野と土田の声が入っているし、俺が残業をしていたという内容もちゃんと入っていた。

 まあ土田がそんなミスをするはずないもんな。

 証拠としては十分だ。


 だが、またしても検察官は邪魔をしてきた。


「音声だけでは何とも言えないですね。話によると西野さんは、10時半から12時まで被告人とは別の階で仕事をしていたそうですので」


 確かに俺は、残業中その時間だけ西野に合わなかったしな。

 本当によく調べてるな、検察官は。

 まあそれが仕事だし当然だろうけど。

 だけど、これで映像以外の証拠が無くなったんじゃないか?


 不穏な雰囲気になった中、土田は何故か笑みを浮かべた。

 一体何を考えているんだろうか。


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