2・今週末の予定

 緒形からの質問に、菜穂はわずかに身体を強ばらせた。

 もちろん、彼がそう訊ねた意図はわかっている。それでも、内心の動揺をなんとか隠したくて、菜穂はわざと首を傾げてみせた。


「どうって?」

「いや、ほら……俺たち付き合ってるわけだろ? だったら、デートくらいしたいなぁって」


 当然のなりゆきだ。

 ましてや、菜穂は彼との交際に条件を出している。


 ――「緒形くん、私のこと抱ける?」


 そうだ、自分から申し出たことだ。

 だったら覚悟を決めるべきだろう。


「土曜日なら空いてるよ」

「日曜は?」

「……午前中だけなら」


 嘘だった。この週末に発生する諸々を踏まえ、日曜の午後はひとりで過ごしたいと考えただけだ。


「午前中か」


 緒形は、考え込むように黙り込んだ。この様子だと、彼は日曜日にデートしたかったのだろう。

 心が揺れた。喉元まで「やっぱり日曜日でもいいよ」の言葉が出かかった。

 けれど、それよりも早く緒形が口を開いた。


「わかった。じゃあ、土曜日で」


 菜穂の要望が通った。なのに、ホッとするどころか、むしろ心臓が派手な音をたてた。


「どうする? どこか行きたいところは?」

「特には……緒形くんの行きたいところでいいよ」


 だって、彼とデートをしたいわけではない。

 単に、長年抱えてきた重たい荷物を下ろしたいだけなのだ。「処女」という、自分ひとりではどうにもできない荷物を。

 そんな菜穂の真意に、果たして緒形はどこまで気づいているのか。


「わかった、適当に考えておくよ。その代わり、どんなプランでも文句つけるなよ?」


 おどけた口調の彼に、菜穂は「そんなことしないよ」と苦笑いを返す。


(どんなデートでもいい。処女じゃなくなるのなら)


 どうせ、それさえ達成されてしまえば、あとは別れるだけなのだから。

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