第七話 願いは叶うが

その日の仕事は、上の空ながら、

なんとなく無事に済ませたつもりの由希ゆき


閉店間際となって、いつも以上に疲労困憊ひろうこんぱいではあるが、

カフェのカウンターで、まばらになったお客を誘導する。


「ご注文はこちらへどーぞ。」


「アイスコーヒーとレモンソーダを。」

注文主の顔を見た途端、涙が溢れ、もう仕事にはならなかった。


「《あっ!!!!!あの、お父さん!後にはあの男の子!》」


そばにいた光輔こうすけの腕を引っ張ってカウンターに入れて、

「代わって、お願い。」


由希ゆきはバックヤードへ駆け込んだ。

もう、とにかく、何がなんだか、涙が止まらなかった。


「よかった、、、、」


「ほんとに、、、、」


「よかった。」






タイムカードを済ませると、

向こうでは光輔こうすけも帰り支度ができているようだった。

ロッカールーム前の休憩室は、

仕事を終えてリラックスしたスタッフの

退社の前の楽しい談笑タイムだった。


「ねーねー昨日のニュース見た?カーチェイス!!

由希ゆきのお父さんのクルマと同じだったよ。」

話を振って来たのは、アルバイト同期で、

ここでは一番の仲良しの柘植つげ 麻結子まゆこだ。


「それ、私です。」

由希ゆきはあっさりと自白する。

案の定、あれだけの騒ぎ、話題が出ないはずがない。

否定しても誤魔化し切れないとの判断で、

針のむしろの覚悟を決める由希ゆき


休憩室の同僚が全員集合だ。

「えっーーーー!うっそー!」


「一晩、警察で泊まって来ましたー。」

明るく振る舞って、話を早く切り上げたい由希ゆき


「ちょっと朋皐ともおかさん、どうしたの?何かあったの?」

由希ゆき、本当に大丈夫?」

「先輩、今日ちょっとおかしかったのは、それですか。」


由希「うーーん、私もよくわからない。これ夢じゃないよね。」


「ちょっと、大丈夫か?朋皐ともおかちゃん?」


一同からの事情聴取、質問攻めに疲れて来たところで、


朋皐ともおかさん、今日この後、予定があったんだよね。」

光輔こうすけから助け舟が出た。


「《ナイス光輔こうすけ!》」


「それじゃあ。」

と言うことで、大方のスタッフは帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る