第二話 ああ、神様!

横断歩道など無いところではあるが、由希は歩行者に道を譲った。

由希は手をあげて感謝する父親に、会釈で答えた。

その時、突然、右後方の視界から急加速する車が。

その前方には、横断中の男の子が。


「あっ!!!」


と、声が出た瞬間には、男の子の自転車は宙に舞っていた。

男の子は、十数メートルも先に着地して、さらに何メートルも転がった。

男の子の父親は、自分の自転車を投げ出して、

子供の名前を叫びながら走り出した。

子供のかたわらに座り込むと、必死に心臓マッサージを始めた。

急加速の車は停車して、ドライバーは外に出たが、

開けたドアの内側から出ることができずに、呆然としていた。

由希ゆきは、ハンドルを握ったまま、震えが止まらなくなっていた。


「誰かぁ!!!救急車を!」


父親の叫ぶ声で、由希ゆきは我に返った。

車外に出て、震える手で、スマホを操作しながら、親子に近づいた。


「今!救急車呼びましたから。」

父親に伝えると、


「あり、が、とう!!!」と悲しみいっぱい、涙声の絶叫の謝意が。

子供の状態を見ると、

いまさら!もう!意味が!ないかもしれない、

それでも心臓マッサージは続く。


由希ゆきは怖くて、体が固まって、それ以上は何もできなかった。





救急車が来て、救急車が出発して、

警察が来て、話を聞かれて。

「ドライブレコーダーによると事故発生は14時50分、、、、、」


車を脇道に移動して、

シートに収まったまま、ボーっと時間が過ぎて、

気が付くと、夕暮れで、現場には誰もいなくなっていた。


ラジオのニュースが伝えている。

今日、交通事故で男の子が亡くなったと。





「私が止まらなければ、こんなことにはならなかった。」





「私が止まらなければ、、、、」


「私がドライブに出かけなければ、、、、」


「私が免許を取らなければ、、、、」


「、、、、父さんが生きていれば。」

溢れ出る涙は、これまでの人生で史上最大だった。


「神様!」

「タイムリープとか、パラレルワールドとか、

そんな都合の良い話は、今日のためにあるんじゃないの!?」

「ねえ!神様!」

初詣の時くらいしか意識した事ないのに、

つい神様なんて叫んでしまった。

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