第2話 ゆめゆめ
夢を見た。
何でも私のハンカチには私の名前である
こんな物騒な世の中に、そんなどこにでも失くしそうなハンカチに個人情報を細かに記す莫迦がどこにいる。
現実の私は無論、そんな事はしていない。
住所も名前も何も記していない。
三つ葉のクローバーが端っこに刺繍された淡い桃色の無地のハンカチである。
けれど、夢のハンカチには確かに、私の名前と住所が刺繍で記されていた。
なんだなんだなんだ。
私は恐怖に慄いた。
まさか私は砂原に懸想しているのだろうか。恋しちゃっているのだろうか。キュンキュンドキドキしているのだろうか。
意識していないだけで、無意識下では砂原を意識しちゃっているのだろうか。
だったら無意識のままに刹那として枯らしてしまってくれ。私には不要な気持ちである。
もちろん、照れ隠しでもなければ、悲嘆しているわけでもない。
純然たる気持ちである。
「これ。落ちてたぜ」
砂原が竜の子どもを拾った翌日の土曜日。
私はいつものように小遣い稼ぎをすべく、父親が営んでいる小さな食堂店の手伝い(開店前の掃除、お客さんの案内、メニュー受付、テーブル片付け、食器洗い、閉店後の掃除など、料理と会計以外の細々した仕事)をしていた時だった。
砂原が、来たのだ。
頭に真っ赤な竜の子どもを乗せた砂原が、私のハンカチを持って、やって、来たのだ。
「こいつが案内してくれた」
真っ赤な竜の子どもを頭に乗せたまま、腕を伸ばして真っ赤な竜の子どもの頭を撫でた砂原は、雪女が如く瞬く間に人を凍らせてしまうようなおっそろしい笑みを浮かべたのであった。
(2024.11.30)
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