第2話

 帰宅時の違和感が何なのかわからないまま彼女を家に上げ、手を洗って早速カレーとサラダを作る準備をする。

「なんかやることある?」彼女に聞くと、髪を束ねながら「大丈夫。ゆっくりテレビでもみてて!」

頼もしい答えが返ってきたので、俺は言われた通りテレビを付けて待つことにした。


 彼女が家に来たのは初めてじゃない。

付き合い始めてからこれまでに何回も来ている。

初めて家に来た日はオムライスを作ってくれた。

それが凄く美味しくて驚いたのをよく覚えている。

 料理上手な彼女は仕事もできれば家事もできる。おまけに美人ときた。言うことなしの完璧で俺には勿体無いくらいだ。

 釣り合う様な男にならなくちゃいけないなぁなんて物思いに耽っていたら、いい匂いがしてきた。

 

 しばらくスマホを弄りながら、テレビもなんとなくみているとカレーが運ばれてきた。

「じゃーん!出来たよー!」嬉しそうにテーブルへ料理を運んでくる彼女。

「おぉ、この短時間で凄いな。手際がいいんだな」俺がそう言うと「えへへっ」と照れくさそうに彼女は笑った。

 人参、玉葱、豚肉、きのこ、ほうれん草が入った具沢山のカレーと緑の葉っぱやきゅうりの瑞々しさの中にトマトの赤が映える綺麗なサラダが並んでいた。

「「いただきます」」二人声を揃えて食べ出す。

「ん!このカレー俺の母親が作るカレーよりも段違いに旨いよ!こんな旨いカレー食べたことないわ」

「それは言い過ぎだよ〜。けど嬉しい。隠し味はよく炒めたにんにくなんだぁ。これを入れるか入れないかで全然違うんだよ!」

嬉しそうに説明してくれる彼女をみて俺も嬉しくなる。

 

 母親のカレーは人参、玉葱、じゃがいも、豚肉と平凡な具材のカレーに味噌汁が必ず出てくる。

格別美味しいって訳でもなく不味くもない。

家庭の味ってやつなんだろうけど、作る人や具材によってこんなに味に差が出る物なのかと正直驚いた。

 カレーを2杯もおかわりして、お腹いっぱいになった。食べすぎたかな。でも本当に旨かった。

 食べ終えた後は俺が洗い物をして、彼女がそれを拭いて食器棚へ戻してくれた。

 同棲したらこんな感じなのかもな‥なんて浮ついていると「あ、もうこんな時間。明日も仕事だからそろそろ帰らなくちゃ」と彼女が帰る支度を始めた。

 次の日も来る約束をして彼女を見送る。

「気をつけて帰れよ。近くても油断すんな。」

「心配性だなぁ。大丈夫だよ!ありがとう。おやすみ」

 キスをして手を振る。

 さぁ風呂入って寝るかな。




 次の日の仕事は定時で帰れず残業になった。

彼女に先に家へ行ってもらうため、鍵を渡したのできっとご飯を作って待ってくれているだろう。

そう思うと残りの仕事も頑張れた。早く終わらせて帰ろう。


 ようやく仕事が片付き、帰れる頃には外はすっかり暗くなっていた。

 早く帰りたくて駆け足で家へと向かう。

部屋の明かりがついている。家で俺の帰りを待ってくれている人が居るってこんなにも嬉しいんだな。ニヤつきながらドアをあける。

「おかえり!お疲れ様」

「ただいま」

 あぁ、彼女の顔をみるとホッとする。


 「帰ってきた時に近所の方かな?玄関前でおばさんに話しかけられちゃった。」

 彼女から近所に住むらしいおばさんに声をかけられた話を聞きながら部屋着に着替える。

 「凄く優しそうな人で、ここに住んでる方の彼女さんですか?って聞かれちゃった。なんか照れちゃったよ。でも感じ良さそうなご近所さんで良かったね」

 「そうなんだ‥近所の人あんまり顔合わせないから知らないんだよな。引っ越しの挨拶も隣と真上しか行ってないし」

 アパートの一階の角部屋だから隣と真上だけでいいやと思い、他の部屋への挨拶は行かなかった。

 両方とも男性で、それぞれ単身赴任と独身って感じの人だった。

 おばさんか‥どの部屋の人だか分からないな。

挨拶を交わしたこともなければ、もちろん見かけたこともない。

‥まぁいいか。


 彼女はせかせかと忙しく準備をしている。

「今日は肉じゃがに焼き魚とお味噌汁で和食にしてみました!どうかな?」

「最高」

 目の前に並べられた料理を見た途端、急激にお腹が空いてきた。

「「いただきます」」

 肉じゃがを一口。たまらなく旨い。お味噌汁も丁度いい味付けだ。残業で疲れた身体に染み渡る。

 目の前にはニコニコしながら今日あった出来事を身振り手振りを加えて話す彼女。あぁ、なんて幸せ者なんだろう。





 次の日、仕事が無事に定時で終わり帰宅した。

今日は予定があるようで彼女は来ない。

お互い別々の時間も必要だと分かってはいるが、ちょっと寂しい。

 晩ご飯は帰りに寄ったスーパーで買ったお弁当。しかも半額の値引きシール付き。

 少し温めてから食べようと電子レンジへ入れた時、母親から連絡がきていることに気が付いた。


 『ちゃんと食べてる?連絡ないから心配です。誰かに頼らなくても自分で自炊して栄養取れる様にしないと。それと、ご近所の迷惑になるような事はしないようにね』


 なんだか監視されてるみたいでうんざりした。

「何歳だと思ってんだよ‥」

 電子レンジの中で温められているお弁当を見ながら、どっと疲れを感じた。

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