第21話 殺戮の天使
「いやー、シズネッチ殿、実にお見事でござった!」
「あ、サガ兄弟さんが正気に戻った! よかったー、スキルに掛かっちゃったかと思ったよー」
「いやはや先程は取り乱したでござる。我ら兄弟、サキュバスは大好物でござる故……」
「兄さん。それを言うならサキュバスは全ての男性の夢ですよ。
夢魔だけに……ぜひとも今夜の夢に出てきてほしいですね!」
「げっ! キモッ! まったくこれだから男ってやつは……。 さては今晩のおかずにするつもりだな?
まあ、今回はシズネッチに免じて許してやろう。実際あたしも天使の様な悪魔の笑顔に信仰心がバグってるし?」
「お、シズカちゃん殿、なかなか上手いことを言うでござるな? やはりサキュバスは最高だぜ! でござるな!」
先程から何を言っているのかよく分からないシズネであったが、サガ兄弟がいつもの調子に戻ったのでホッとしたのであった。
「でも、うーん、サキュバスがおかず?
サキュ……バス。
あ、そういえばお父さんが地球に出張したときに、接待でバス釣りをしたって言ってたっけ……」
(今度お父さんに聞いてみようかな……。
ゲームで知り合った人がサキュバスはおかずになるらしいって)
「あー、シズネッチよ、何を思っているのか分からないけど、それはやめた方が良いと思うよ? 割とマジで……」
【警告! クエストボス『殺戮の天使・メレンゲ』が出現しました!】
デデーン! 重々しいBGMと共に、廃墟となった教会から一人の男が出てきた。
所謂、神父の様な格好をしているが、ここはダークファンタジーの世界観。
いかにも邪教を信仰しているような禍々しいデザインの衣装。
シズカの父親が着ている祭服はもっと質素で神聖な感じなので全くの別物だった。
ゲームとはいえ宗教に関してはコンプライアンスがあるという事だろう。
「へぇ、あのコスプレ神父が今回のクエストボスってことね。よーし、いっちょ本物の教会の力を見せてやるっしょ!」
『フハハハッ! 愚かなる下等生物、人類よ。
まだ足掻くというのか? 実に滑稽だな。
既にこの大地は、我が主たるルシファー様の御手にある。
貴様たち、旧人類など所詮は地下に蠢くモグラに過ぎぬ。
己の役割を弁え、地の底へ帰るがいい。
……いや、これは失礼。君たちはそんなモグラどもの英雄だったか。
フッ、それならば見せてもらおうか、その無力なる抵抗を。
だが忘れるなモグラが何匹いようと、
ルシファー様に与えられしこの力の前では、貴様らはただの塵芥に過ぎぬのだ!』
「おっ! いかにもボスキャラっぽい長台詞だ。
これは強敵の予感!
よーし、シズネッチにオタク兄弟、準備はいい?」
「うん、まかせて!」
「もちろんでござる!」
「ふっ、敵は1体のみ、完成された我がパーティーの前では楽勝ですね!」
『フッ……愚かな連中よ、我が一人で戦うと思ったか? グールどもよ、奴らをもてなしてやれ!』
突如、周辺の墓地から出現したアンデッドモンスターであるグールが数十体。
……完全に囲まれてしまった。
「馬鹿が! フラグっぽいセリフを言うから数が増えたじゃん!」
「シズカちゃん殿、誤解でござるよ。たまたまセリフが噛み合っただけで、奴のセリフは最初から決まっていたでござる!」
グール。
殺戮の天使・メレンゲによって魂を奪われた人間の成れの果て。
アンデッドモンスターとしては下位の存在で攻撃方法は噛みつくのみ。
足は遅く知性も低いため動きは単調だが、数が揃うとそれなりに厄介。
聖属性や炎属性が弱点だが、精神攻撃や毒攻撃に耐性がある。
「ど、どうしよう。囲まれてるし数が多いよ?」
「まー、ここは乱戦っしょ。ふふふ、忘れてない? あたしにはこういう時の為のとっておきの武器があるって」
カシャンッ!
シズカは久しぶりに自慢の拳銃をとりだす。
「プリーストが持てる遠距離武器の中では最強の部類に入るシルバーセプターと銀の弾丸の組み合わせ。
ガーゴイルには全然当たらなかったけど、こいつらなら目をつぶっても当てれるってね!」
パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!
銀の弾丸はアンデッドモンスターに対して特攻ダメージが発生する。
一撃で次々と絶命していくグールたち。
「あははは! 死ね死ねー! ああ、もう死んでるんだっけ? おらおらー!」
パパパンッ! パパパンッ! パパパンッ! カシャンッ!
シズカの豹変ぶりにドン引きしたサガ兄弟はシズネにそっと耳打ちする。
「……シズネッチ殿。さっきも思ったでござるが、シズカちゃん殿に拳銃は持たせない方がよいでござる……あれはトリガーハッピーでござる。危険でござるよ」
「ハッピー? うーん、シズカちゃんはいつも幸せを祈ってるよ?
それにシズカちゃんって、ずっとアクション映画に憧れてたから、たぶん何かのキャラになりきってるんだと思うなー」
「ほらほら、ボーッとしてるとあたしが全部狩っちゃうよー? ちなみにアンデッドに『誘惑』は多分効かないと思うから気を付けてねー」
「うん分かったー。よーし、私も頑張らなきゃ……『ブリザード』!」
範囲攻撃魔法も効果は抜群だ、密集しているグール達を次々と巻き込んでいく。
「よし! 次は『ハイヒールキック』を試さないと……えっと、つまりキックってことだよね。いくぞー! おりゃー!」
グサッ!
尖ったハイヒールの踵がグールの顔面に突き刺さる。
「やー!」
ズシャッ!
今度は尖ったつま先がグールの身体を引き裂く。
実に魅惑的な足技である。
「なるほど、サキュバスにも近接攻撃スキルがあるのでござるな。
しかもハイヒールで蹴るという……まるでご褒美の様な技、新解釈でござる。
……しかし、ゴクリ……それにしてもシズネッチ殿のアバターは実にエロ……よくできているでござるなー」
「……そうですね、物理演算の高さでしょう。プルンプルンと躍動的な動きをよく再現していますね……。
ふっ、僕はまた『誘惑』スキルにかかってしまいそうです。
……しかし、惜しむらくはポロリが無い事でしょうね。現実だったら確実にこぼれそうなのに……」
カシャン! カチッ!
パパパパパパパパパパパパパパパァーンッ!
「ひっ! 痛いっ!」
「シズカちゃん殿! フレンドリーファイアでござる!」
「あー、ごめーん。ぼーっと突っ立てるからグールと間違えちゃったー! でもわざとじゃないし? マジごめんねー、てへっ」
「絶対わざとでござる……ワンマガジン全て撃ち尽くしたでござる、しかもフルオートで……」
しかし、後ろめたさを自覚しているサガ兄弟は素直にグール討伐に参戦するのであった。
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