第20話 サキュバス
再びメインクエストへ挑戦するパーティー一行。
「さーて、オタク兄弟。今度こそアンタたちの活躍を見せてちょうだいな!」
今回は二人共テンプラーらしく片手剣に盾を装備している。
「今買える店売り最強装備のブロードソードとラウンドシールドでござる。
定番の装備で余り気乗りはしないでござるが……致し方ないでござるな」
「ふっ、シズカちゃん殿の機嫌が直るように頑張るとしますか」
「はいはい、期待半分にしておくよ。今回はアンタたちだけが前衛なんだからね。
それとシズネッチは後衛アタッカーになったから、あたしの側にいてね」
「あ、そっかー。私は今サキュバスだったね。よーし、皆、ガンバレ! ガンバレー!」
【シズネッチはスキル『ウォークライ』を使用しました。パーティーメンバー全ての攻撃力と素早さが向上しました】
「兄さん……聞いたかい?」
「もちろんでござる。サキュバスからのガンバレガンバレ…………格別でござるなぁ」
もちろんスキル『ウォークライ』は種族による効果の違いは無い。
だが、オタクであるサガ兄弟にはなにか思うところがあるのだろう。
「よーし、気合120パーセント、我ら兄弟の力、見せつけてやりましょう!」
「おう、汚名返上、名誉挽回でござる!」
【ジェミニ=サガ・ソウジはスキル『マイトオーラ』を使用しました。パーティーメンバー全ての攻撃力が向上しました】
【ジェミニ=サガ・セイジはスキル『シールドオーラ』を使用しました。パーティーメンバー全ての防御力が向上しました】
ヘイトのスキルにより10匹のガーゴイルがサガ兄弟に向かって迫りくる。
「シズカちゃん。攻撃魔法使っていいかな?」
「もちろんオッケー、やっちゃいな!」
「よーし、えっとー、手の平を前に突き出して、魔法を唱える……『ブリザード』!」
シズネの両手から氷と雪の混じった冷気の突風が空を飛ぶガーゴイル目掛けて放出される。
巻き込まれた3匹のガーゴイルは全身が凍り付き地面に落下する。
ガラスが砕けるような音がした。
「お! やるじゃん! 今ので3匹倒せたんじゃない? やつら魔法耐性は低いみたいだね」
ガーゴイルは高い物理耐性を持っているが、その逆に魔法攻撃が弱点になっている。
「よーし、もう1回『ブリザード』! ……あれ?」
【スキル『ブリザード』の再使用まで、4分50秒】
「あ、そっか、強いスキルは再使用時間があるんだっけ……」
「そゆことー。まあ、連発できたら前衛いらないしね、ゲームバランスってやつっしょ」
ガーゴイルは残り7匹。一斉にサガ兄弟に襲い掛かる。
前回と同じく急降下攻撃だ。
だが今回は違う。
ガキンッ!
サガ兄弟の二人は見事ガーゴイルの猛攻を盾でブロックする。
「ナーイス! やれば出来るじゃん。しかもこの数を同時に受け止めるなんて、ちょっと見直しちゃったかも?」
褒めるときはちゃんと褒めるシズカ。
誰にでもフランクに話すシズカは男女問わずクラスの人気者である。
そんなシズカと親友であるシズネは本当に誇らしいと思っている。
ガーゴイルの群れとテンプラーの二人。
盾で弾いて剣でチクチクとカウンターを喰らわす。
ダメージこそ低いが安定している。
「シズカちゃん殿、さすがに多勢に無勢、支援をお願いするでござる!」
「おっけー、『ヒール』!」
タンカーであるテンプラーの二人が敵を引き付けながら攻撃、HPが減ったらプリーストが回復魔法で支援。
前回のパーティー戦とは雲泥の差である。
「うーん、次のブリザードまであと3分。別のスキルを試さないと」
「ほら、シズネッチ、ここはあれだよ。
『誘惑』の出番だ、ふへへ、見せてもらおうか、サキュバスシズネッチのセクシーポーズの実力とやらを!」
スキル『誘惑』は敵を魅了状態にし、同士討ちをさせるサキュバスならではの状態異常スキル。
複数の敵を相手にする場合に最も活躍するスキルだ。
「でも、このスキルって実際に相手に見られてないと発動しないんじゃ……。
今の敵さん達、全員サガ兄弟さんを見てるよ?」
そう、ヘイトのスキルによって、ガーゴイル達はサガ兄弟しか見えていない。
「うーん、そだねー。案外タンカーとは相性が悪いのかもね。
高火力アタッカーで乱戦するのに役に立つスキルってことかなー。使いどころが難しいよねー…………。
……あっ! ふふふ、あたし閃いちゃったかも? シズネッチよ、とっておきのセクシーポーズ考えておきなさいよ?」
シズカは不敵に笑う。
そして、次の瞬間。
「いっくよー『グループヒール』!」
全てのパーティーメンバーに癒しの光が降り注ぐ。
【パーティーメンバー全員のHPが回復しました】
スキル『グループヒール』はプリーストが使える全体回復魔法であり、ボス戦などでは必須のスキルである。
だが、大きな効果とは裏腹にヘイトが高いため、使い方を間違えるとターゲットを全て引き付けてしまうデメリットもある。
案の定、全てのガーゴイルはシズカに向けて飛び掛かってくる。
「シズカちゃん殿! タゲが外れてしまったでござる!」
シズカは待ってましたとばかりにシズネの真後ろに隠れる。
「オタク兄弟! ヘイトの掛け直しはちょい待ち!
さあ、シズネッチ。敵の視線はこちらにくぎ付けだよ?」
そう、シズカに襲い掛かろうと接近してくるガーゴイルの視界には必然的にシズネが入っている。
「なるほど、じゃ、じゃあ。やるよー!」
シズネは左手を腰に当てる。そしてやや前かがみの姿勢をとり。
右手の平を唇に当てると、
「ちゅっ!」
…………。
……。
投げキッスだ。シズネが思いつく最もセクシーなポーズであった。
【ガーゴイルAは魅了状態になりました】
【ガーゴイルBは魅了状態になりました】
【ガーゴイルCは状態異常をレジストしました】
【ガーゴイルDは魅了状態になりました】
【ガーゴイルEは魅了状態になりました】
【ガーゴイルFは状態異常をレジストしました】
【ガーゴイルGは状態異常をレジストしました】
「「「「ギギャー! ギャギャギャ! キーッ!」」」」
突如、同士討ちを始めるガーゴイル。
「どう? シズカちゃん、私だってもう大人なんだからね! えっへん!」
「お、おう、投げキッスがセクシーかどうかはさておき、効果は抜群だね。
……まあ、その格好だとエロさ100倍だから充分セクシーなのかな? ほら、オタク兄弟も魅了されてるし……」
「え? 本当だ! このスキルって実は使えないんじゃないの?」
もちろんゲームの仕様上パーティーメンバーには掛かるはずはない。
それなのに同士討ちをしているように見える。
「シズネッチ殿は拙者に投げキッスをしたでござる!」
「いいえ、僕にしたのですよ。手の角度は確かに僕に向いていました! 兄さんではありません!」
「なにをー、それを言うなら目線はばっちり頂いたでござる! 投げキッスは拙者の物でござる!」
………。
「あれだねー、罪作りだねー。
やはりシズネッチは魔性の女になるね。これは将来楽しみだ!」
「もう、私そんなんじゃないってばー」
そうこうしているうちにガーゴイルは全滅した。
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