第16話 サブクエスト③
シズカは拳銃を構え迫りくるガーゴイルに向けて拳銃を放つ。
パンッ! パンッ! パンッ!
だが、ガーゴイルは何事も無く自由に空中を舞う。
「あれれー? おっかしーなー。全然あたんないんですけどー?」
シズカは自分の武器が壊れたのかと思い、銃口を覗く。
「シズカちゃん殿! 銃口は覗いてはダメでござる! それと指はトリガーから外すさないと危ないでござる!」
もちろん、現実ならソウジの言う事は正しい。だが、これはゲームの世界だ。
「うえー、マジでいたー、トリガー警察……まあ確かに一理あるし、反論すると色々と面倒くさいか……」
「シズカちゃん殿、指トリガーはさておき、プリーストはあくまで後衛職です。射撃武器の適性は低いのですよ」
そう、射撃武器適性が高いのはマシーン、その次にローグである。
プリーストは最下位、当然遠距離ではまず当てることはできない。
「ちっ、空飛ぶ奴に当てるのは難しいか、ゴブリンとは格が違うっってやつだね。
シズネッチ! くるよ! 気を付けて!」
せまりくるガーゴイル。
ドゴンッ!
間一髪シズネはガーゴイルの急降下攻撃をかわす。
「ひゃ! 凄い攻撃!」
シズネが回避した真下の墓石は粉々に砕ける。
ガーゴイルは一瞬の硬直状態だ。
シズネは見逃さない。
これまでの経験が生きたのだ。
「よーし、キックを喰らえー! おりゃー!」
ボンッ!
シズネはゴブリンクイーン、そのたくましい身体から繰り出されるキックの威力は確かにあった。
「ギギェー!」
ガーゴイルは吹き飛ばされ、数メートル先の墓石に激突する。
「ほら! オタク兄弟! ヘイトを! シズネッチからタゲを剥がして!」
一番レベルの低いシズネからターゲットを外すのはパーティ戦として定石である。
だが……。
「まって、シズカちゃん! 私、ここでレベルアップする! 格上モンスターを一人で倒せば経験値効率がいいんだよね!」
「ふ、そうか、よし、ならあたしは見守ることにするよ。限界までヒールはしないから。一人でやってみな!」
「うん! わたし頑張る! おりゃー!」
続いてスキル『体当たり』だ。
シズネは起き上がったばかりのガーゴイルに追撃の体当たり攻撃。
ガーゴイルの頭上には星が回る演出が現れた。
「お! シズネッチ。相手が麻痺状態になってるよ。このまま全力で叩きこんじゃえ!」
ステータス異常の一つである麻痺状態は数秒間の行動が不能になる。
接近戦を得意とする職業はこの麻痺状態を上手く活かしつつ、強力な攻撃を叩き込むのだ。
「よし! こん棒!」
シズネはスキル、こん棒を発動させると思い切り両手で振りかぶる。
「ふー。よーし。私はこれでも剣道3級。いくぞー! メーン!」
ボゴンッ!
ガーゴイルに向かって力一杯、こん棒を振り下ろした。
「ギギャー!」
ガーゴイルはその場でのたうち回る。
「ナイス! シズネッチ、敵のHPバーはあと一ミリってところかな? でも、敵は憤怒状態だ、気を付けて! 下手したらカウンターでやられるよ?」
プリーストのスキルには敵のステータスを確認するものがある。それによりガーゴイルの状態を確認出来るのだ。
「え? 憤怒状態? 怒ってるってこと! まあ、そうだよね。ならとどめを刺さないとだ!」
シズネはもう一度こん棒を振りかぶろうとした。
そのとき【武器破損! スキル、こん棒の再使用まであと9分55秒必要です】
「え? あれ? こん棒がない!」
先程まで持っていたこん棒は影も形もない。
モンスターのスキルでも武器に属する物は破損をするし、魔法に属する物は魔力消費によるリキャスト時間がある。
ゲームバランスの為だ。ちなみに、ゴブリンクイーンのこん棒は攻撃力は高いが耐久力はかなり低めに設定されている。
「シズネッチ危ない!」
ブシュッ!
ガーゴイルの爪がシズネの腹部に突き刺さる。
「痛ったー! ……HPはまだ大丈夫だよね」
名前:シズネッチ
レベル:11
HP:89/256 【167ダメージ!】
「うそ! 一撃で半分以上ダメージ喰らってる?」
シズネは距離をとる。あと一撃くらったら死んでしまう。
だがガーゴイルも瀕死状態である為、距離を取ったまま近づいてこない。先に攻撃を当てた方に勝ちは決まるのだから。
「シズネッチ! 回復する?」
「ううん、もうちょっと頑張ってみるよ。私のレベルをあげないとこの先足手まといだし。
できるだけ早くレベルをあげたいし、戦闘に慣れなくちゃ。それに緊張感があったほうが良いと思うの」
「お! いいねー。ゲームを楽しんでる。
まあ安心してよ。低レベル帯のデスペナルティーは大したことないから。どんとやんなさい!」
相手は憤怒状態。全ステータスは上がっている。
だが、こちらにもステータスを強化するスキルがある。
「そういえばスキル『ウォークライ』って仲間を鼓舞するように叫べば発動するんだっけ。でも私、普段叫んだことないし……。
これで良いのかな……。が、がんばれー……」
何も起きない。弱々しい声ではスキルは発動しなかった。
もう一度、大きく息を吸い込む。
「ガンバレ! ガンバレ! …………すぅー、ガンバエーッッ!」
【ウォークライが発動しました。味方全体の攻撃力と素早さが向上しました】
「よし! 出来た。次に強そうなスキル『ぶん殴る』を使うよ!
でも、ぶん殴るスキルってどういうことだろう」
もちろん、現実世界で一度もぶん殴ったことがないシズネには皆目見当のつかないスキルである。
膠着状態にしびれを切らしたガーゴイルがシズネに突進する。一か八かなのだろう。
シズネとて追い詰められている。お互いの条件は同じ。
「よーし、喰らえー! ぶん殴る!」
ボコボコボコボコボコボコボコボコボコッ!
スキル『ぶん殴る』それは文字通り、ただただ敵を殴るものだった。
スキルによるアシストがあるとはいえ連続で相手を殴る経験は初めてだった。
まるで男の子が好きそうな漫画によく出てくる暴力的なシーンを、ゲームとはいえ初めて経験してしまったシズネ。
「シズカちゃん、暴力はちょっと……いやだな」
「シズネッチ……。それを言うなら、さっきこん棒で思い切り頭をかち割った時に言わないと説得力がないよ。それに昨日だって散々敵をぶっ殺したでしょ?」
「……そ、そうだね。でもなんか、素手で一方的に殴るのはなんかやな感触があるんだよ……」
ガーゴイルは絶命した。
ガーゴイルの死体はそのまま光と共に霧散し、その場には汚れた靴が片方だけ落ちていた。
「うん? クエストアイテム『傷だらけの子供の靴』だって」
シズネはそれを拾う。
【おめでとうございます! サブクエスト『さらわれた子供達を探せ!』を完了しました。大聖堂にて報酬を受け取ってください】
「さすがシズネッチ殿でござる! 感動したでござる!
拙者、失礼ながら今までは女子の格闘技は敬遠していたでござるが、これは再評価せざるを得ないでござるなー」
「えへへー、そんなことないよー。スキルのおかげだよー。でも少しだけ慣れてきたかも?」
「いえいえご謙遜を、兄さんの言うとおり実にお見事でした。
バインバインと躍動する、たわわなオッパ……ごほん、鍛えられた筋肉の動きは実にしなやかで芸術的でしたね。とても良い物を見れました」
「うん? オタク兄弟、今なんか言ったか? ……まあいっか、シズネッチのパーフェクトボディーを見て、何も思わない方が男として問題ありだし。
じゃあ、早速クエスト報酬をもらいに街に戻ろっか」
シズカはアイテムボックスから帰還スクロールを取り出す。
帰還スクロールは街のポータルに移動するアイテムで、冒険の途中で街に帰還する場合に使用するアイテムである。
アイテムを使用すると人が通れる程度の大きさの光の門が出現した。
…………。
……。
大聖堂にいるシスターのNPC、祈りの聖女の前にてクエスト完了を報告する一行。
「……ああ! この靴は紛れもなくあの子の靴です。私が誕生日にプレゼントしたので覚えています。
あの子は私がシスターになる前に、夫と共に悪魔に殺されてしまった我が子とそっくりでした……。
だからつい、地上が見たいという、あの子の我儘を聞いてしまったんです。
それだというのに……ああ……何という事でしょう……でも薄々は分かっていたのです。
それなのに無力な私は祈ってばかりで、でも現実は……ああ……こんな事ってあんまりだわ!
…………ふう、ごめんなさい。私は無力でした。でも前に向かわないといけませんね。
あの教会にいるのはかつての同胞『殺戮の天使・メレンゲ』です。
どうか、騎士様、子供達のかたきを討ってください!
それとこれは僅かばかりのお礼です。復讐に囚われるのはシスター失格でしょうけど、私は……いいえ、大丈夫です。
一生をかけて罪を償います……」
【サイレントフラワー、ジェミニ=サガ・ソウジ、ジェミニ=サガ・セイジはクエスト報酬『猛毒の短剣』『1000ゴールド』を取得しました】
「うーん、シスターさんから貰ったアイテム……猛毒の短剣って穏やかじゃないよね。
なんかキリスト教に対する偏見があるっしょ。クレームしとこっかなー。そうだ、今度パパに相談してみようかな?」
「シズカちゃん殿。そういうクレームは感心しないでござる。
それに、そのアイテムは多分メインクエストの攻略アイテムでござる!
関連のサブクエストを攻略するとメインクエストのヒントとか攻略アイテムがもらえるのでござる」
「ふーん、そうなんだー。でも、シスターさんから貰ったのが猛毒の短剣って、やっぱダメっしょ。せめて聖なる短剣とかに名前だけでも変えてもらわないと。
シズネッチもそう思うよね? ……って、なんでガン泣きしてんのさ!
これはゲームだっての! ……まあそれがシズネッチのいい所かな、ほんと天使様みたい……。
おいオタク共! 今日はもう解散だ! 異論はないっしょ!」
「も、もちろんでござる……」
「さすがに空気は読めますよ……ではまた明日」
こういう時のシズカの行動は早い。
「うえぇぇん。ごめんー。今日はもう無理ー。ぐすん、あんまりだよー!」
「はいはい。分かったっての。じゃあさ、午後はプールにでも行こっか、体動かさないとね、気分転換ってやつ?」
「水着がないよー。ぐすん」
「あー、おっけー。じゃあ駅前のデパート・ヨコシマ屋に集合だ! 約束通りアイスおごるからさ!」
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