第15話 サブクエスト②
シズネとシズカ、ソウジとセイジのパーティーは中央ポータルからメインクエストステージに移動した。
デデーンッ!
迫力あるBGMに続き、イベントムービーが始まる。
廃墟で祈る壮年の男性。神父の様な格好をしている。
だが……彼の目の前には子供達の遺体。
まだ生きている子供もいた。やめて! やめて! と懇願する子供を無視して。
彼は何の感情も無く機械的に剣を振り下ろした。
廃墟の教会中に響く断末魔の声。
『ふははは! 慟哭せよ、愚かなる人類たちよ……。
ヘルゲートが開いたとき、お前達は神に背き続けた罪への償いをするのだ。
だが安心しろ、我らは幸運だ、選ばれし民は特別にルシファー様の加護が得られたのだ。
常に人類への試練と罰のみを与え続ける狭量な神よりも、富と快楽を与えてくれるルシファー様の為にこの教会は生まれ変わったのだ!
だが、まだ供物はたらぬ。我が神は強欲……しかし見返りは大きい。この世界が完全に地獄に飲まれた暁には私は悪魔としての地位を約束されたのだから……』
ムービーが終わる。
ピコンッ! とシズネの視界にメッセージが表示される。
【メインクエスト。殺戮の天使を討伐せよ! が開放されました】
シズネ達が降り立った場所は墓地だった。
カトリック風の墓地、しかし整備はされておらず墓石はひび割れており、雑草で覆いつくされようとしていた。
遠くに見えるのはゴシック建築のいかにもな教会。
窓ガラスは全て割られており、ひび割れた外壁には苔や蔦がびっしりと這っている。
「ルシファーかー……。いよいよシナリオが進んできたねー。 あっ! いたよ! あそこ! 屋根にいるじゃん。
あれがガーゴイルだよ。しかしゴシック教会の外壁にガーゴイルがいると雰囲気でるよねー。家もそういうモニュメントとかあってもいいかも?」
シズカは先ほどのムービーを見ても何も思うことはないのだろうか。
あくまでゲームはゲームとして割り切っているのか……。
逆にシズネの方が気を遣ってしまうほどの神への冒涜シーンだった。
だが同時にシズカは大人なのだと改めて感心するシズネであった。
「でも、シズカちゃん。勝手にそんなことしたらお父さん怒るんじゃ……」
「うーん、それよねー、でもカッコいいし。
ヘルゲートアヴァロンとコラボして、オフイベントの主催をやれば観光地として一儲け出来そうじゃん? どうよ? 我ながら名案じゃん?」
なんとも短絡的な発想である。
だが、シズネとしても良い案に思えた。
神の加護がある教会とて、お金が無いと生活できないのだ。
シズカは一人娘ではあるが今後の進学を考えるとお金は必要である。
それに、普段からギャルを維持するのにお金が必要だと愚痴っていたのだ。
「シズカちゃん殿、それはお勧めしないでござる。
下手にコラボをするとその後が大変でござる。シズカちゃん殿の実家は教会でござるな。
それなのに世間の流行に迎合すると地元の支持を失う恐れがござる」
「兄さんの言うとおり、例え観光客でにぎわっても、観光客など所詮は一時のもの、飽きたら二度と来ないでしょう。
そのあとの地元の信頼を回復させるのにシズカちゃん殿は対策があるのですか?
失礼ながら、地球ではそう言ったコラボキャンペーンは諸刃の剣でしたよ。
一時はメディアにも注目されましたが、その後の衰退ぶりは目に余りました。駄菓子屋に美少女等身大パネルは飾ったものの、店主のお爺さんは何の作品のキャラなのか分からないという醜態……。地元コラボは危険なんですよ!」
「ちょっと、マジレスはキモいって。……でも、確かにそうかな……うん。パパやママに迷惑は掛けれない、今のは無し!」
思い浮かんだことを後先考える前に実行に移すのがシズカの欠点だ、軽率だと周りからは思われている。
だが、とりあえず言ってみて周りの反応が悪ければ直ぐに切り替える、この機転がシズカの長所だといえる。
「うん、私もその方が良いと思うよ。サンジョウ神父様にこのゲームの内容を理解してなんて言えないでしょ……。ほら、聖アマクサ教会にはカステラがあるじゃん。
それをもう少し広めたらいいでしょ?」
そう、シズネは昨日食べた美味しいカステラを思い出していた。
「あーね、あれ、作るの大変なんだよねー。朝早く起きるのだけでも大変だし、生地こねるのってマジ重労働なんだよねー。まあ、その分お小遣いは弾んでくれるけどねー。毎日やるのは正直しんどいって感じ?」
「そっかー。……ってシズカちゃんが作ってたの? あれ絶対売れるよー。将来はお菓子屋さんになれるって!」
シズネは驚きだったがそれはそうだ。おそらく代々継承されたお菓子作りなのだからシズカも当然レシピは教わっているのだ。
シズカは照れくさそうに言う。
「あー、パパがシズネッチの家に持っていったの、実はあたしが作ったんだよ。美味しかったなら作ったかいがあったかも?」
そう、シズカがギャルファッションを維持しているのは、家の手伝いで得られるお小遣いであった。
何気に羽振りがよさそうに見えるが、ちゃんと働いて得たお金なのだとシズネはシズカを尊敬せざるを得なかった。
「さてと、それはそれとして、メインクエストにはボスがいる。私たちのレベルだと多分無理! ということで、取り巻きのガーゴイルを倒してサブクエ報酬をゲットするっしょ!」
「うむ、拙者もシズカちゃん殿に同意でござる。
レベル的にもパーティーのバランス的にもアタッカー不足。ここはサブクエをこなすのが吉」
「そういうこと、じゃあ、シズネッチ。あの教会のてっぺんにいるガーゴイルに手斧をお見舞いしよっか。
手斧はダメージが低すぎるから運が良ければ一匹だけ釣れるかも?」
「なるほど、ガーゴイルは基本リンクするモンスターですが、ダメージが入らなかった場合は単体でおびき寄せることができますね」
弟のセイジはシズカの作戦を理解する。
「お、オタク兄弟の弟の方は攻略サイト見てる感じだね。なら話は早い。シズネッチ理解した?」
「ううん。全然……詳しく教えてよ」
シズカが言うには物理耐性のあるガーゴイルに低物理ダメージの手斧を使用することで、ガーゴイルはダメージを負わずリンクをする集団モンスターはそのままに、一匹ずつおびき寄せることができるらしいのだ。
「ま、バグ技っぽいから直ぐに修正されるかもだけど?」
「な、なるほど。凄いねー。
そっかー、なら私頑張る! アイテム『手斧×100』……よーし。やってみる!」
アイテムウインドウから手斧を『ショートカット』に登録する。
ショートカットに登録できるアイテムはポーションなどの回復アイテムも含まれる。
早速ショートカットを試すシズネ。
デフォルト設定は音声入力であるが、入力方法はあらゆる五感に対応している。
例えば特定のポーズを取ることで発動するなどのカスタマイズは可能。
シズネは初心者なのでとりあえずはデフォルト設定のままだ。
「手斧っ!」
シズネがそうつぶやくと、彼女の手には小ぶりの斧が握られていた。
「なるほど、じゃあ、投げるよ……せーの。おりゃー!」
ブンッ! 勢いよく手斧は空を切りながら石像に擬態したガーゴイルに命中する。
ガスンッ!
ダメージは無いが、ガーゴイルは石像から生きたモンスターに変化する。
白色の石像が、全身黒色の翼をもつ悪魔に変ったのだ。
「ナイス! モンスター化したのは一匹だけだ。
よーし、くるよー。レベル的には格上のガーゴイル、だが一匹だけ、皆でボコすよ!」
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