第14話 サブクエスト①
テンプラーサブクエスト『祈りの聖女を探せ』
サガ兄弟がシズカをNPCと誤解していた件のクエストである。
「はあ? あたしを祈りの聖女と間違えただって? ……まあ、確かに聖女ってのはその通りですけど?
まったく、クエストNPCが居るのは教会だっつーの、ほら、ボンクラ共ついてきな!」
シズカを少し機嫌が直ったのか彼らを先導しながらしばらく歩くと、そこにはプリーストとテンプラーの拠点、大聖堂があった。
サブクエストはメインクエストに付属して、その事前の雑魚モンスターを狩ることで報酬が得られることが多い。
サブクエストの内容は廃墟となった教会跡でガーゴイルを倒せというもの。
「ほら、そこの隅っこに祈ってるシスターさんのNPCがいるっしょ。多分、アレだと思うけど。
……あ! あたしもサブクエ受注できるね。ついでに受けとこう」
テンプラーとプリーストはゲーム内では同じ教会勢力の所属である。サブクエストが重複することもある。
大聖堂の隅っこで祈り続けるシスターに話しかける一行。
「ああ、聖騎士様! お助け下さい! 子供がさらわれてしまいました。
私が少し目を離したすきにガーゴイルに連れ去られてしまったのです!
……私は、罪を犯してしまいました。子供達にせめて本物の空を見せたいと……。ああ、私は何ということをしてしまったのでしょう……」
【サブクエスト『さらわれた子供達を探せ!』を受注しました。
……だが、子供達はもう生きてはいないだろう。
せめて、祈りを続けるシスターの為に子供達の敵討ちを……。
ガーゴイルを倒して、子供達の遺品を得ることで報酬が得られます】
「……ぐすん、それってあんまりだよ。私きっと敵を討ちます!」
「いやいやシズネッチ。これ、ゲームの話だからね? それにこの人はイベントNPC、ゲーム開始時からずっと祈ってるから……。
そういや、シズネッチもサブクエストあるんじゃない? メインクエスト関連の敵だし。一回モンスターの拠点によってこうか。オタク兄弟もそれでいいっしょ?」
「もちろんでござる。モンスターは興味深い職業でござるからな。楽しみでござる」
モンスターの拠点は中央ポータルを挟んで反対側にある建物の地下にある。
地下都市なのに更に地下があるのはモンスターという職業が特殊であるからだ。
――バイオ研究所ベヒモス。地下一階。
そこにはモンスターのチュートリアルクエストをしてくれた、白衣のお姉さん科学者がいる。
「あ、白衣のお姉さんだ! お久しぶりです!」
実際は昨日ぶりなのだが、シズネにとってはいろんなことがあり過ぎて、つい懐かしく思えてしまったのだ。
「シズネッチ……、よく戻ってくれました。
今の貴女の種族は『ゴブリンクイーン』……見違えましたね。
シズネッチは新たなモンスターの遺伝子を取り込みより強くなりました。
今後とも人類の為、そして私の為にその進化の先を見せてくださいね。
……さて『ゴブリンクイーン』のレベル上限は20です。
次の上位モンスターへ進化を果たすにはさらに強力な悪魔の遺伝子が必要です。
そうね、まずは下位悪魔、ガーゴイルの遺伝子を吸収しましょうか」
【サブクエストを受注しました。バイオ研究所ベヒモスは本格的な悪魔の討伐に向けて新たな計画をたてている。まずは下位の悪魔であるガーゴイルを捕食し進化せよ】
「よーし、頑張ります!」
相変わらずNPCに真面目に返事をするシズネであった。
「しかし、いかにもなセンスの研究所でござるな。マッドサイエンティスト……さすが科学者サイド、モンスターの生まれ故郷でござる」
そう、モンスターの拠点はその名の通り研究所である。様々な試験管に薬品、膨大な資料がファイルされた本棚。
ガラス越しには、人がすっぽり入るだけの大きさの試験管が設置された機械だらけの部屋。
シズネがチュートリアルを受けた部屋のようだ。
「ふ、しかし。あの白衣のお姉さんは美人でしたね。チュートリアルNPCにするのはもったいないです。
ログアウトしたらアンケートを出しましょう、あのお姉さんのメインクエストを……」
「あー、はいはい、オタク諸君。サブクエの受注は終わったっしょ。で、ガーゴイルってのが次のアタシたちのターゲット。悪魔用の装備を揃えなきゃなんだけど……」
「おう、そうでござった。しかし、純粋な悪魔なら属性的にテンプラーが二人、クレリックが一人なので楽勝だと思うのでござるが……」
「ちっちっち。あまい、ガーゴイルは空飛ぶモンスター、剣が当たる訳ないっしょ。
もちろんカウンター狙いでちまちまやっても良いけど、それに付き合うのも面倒だ、必要なのは剣ではない。銃なのだ!」
シズカは中央ポータルにある端末を操作し装備品を購入する。
そして自慢の拳銃シルバーセプターを取り出す。
「ふふふ、今日は新たに銀の弾丸を試してみよう。値段は通常弾よりも10倍高い、だがアンデッドや悪魔に特攻効果があるのだ! つまりプリースト専用装備である、シルバーセプターの本来の弾丸ってことよ!」
シズカはスカートのスリットをちらりと開き、太ももに装着しているポーチから銀色のマガジンを引き抜くと拳銃に差し込む。
もちろん、男性陣の視線が一点に集中しているのはバレバレだがシズカは特に気にしない。
プリーストのアバターとシズカはあくまで別人だからだ。
それにそれくらいで嫌がるならこのゲームをやっていない。
ちなみにソーサラーの女性アバターは、どの装備を着てもパンチラしまくりで有名である。
それでも、シズネのように全身をスキャンされ、自分とほぼ同じ体形のアバターだったらさすがに嫌な気分にはなるが……。
「ま、シズネッチの場合は隠してる方が罪だもんね。もっと世間からその魅力を称賛されるべきなのだ……。
……で? 変態兄弟はあたしの太ももばかり見てないで飛び道具の一つでも探せば?」
「おっと失敬。しかし、シズカちゃん殿はテンプラーを舐めているでござるな。ヘイトコントロールで敵を引きつけて地上戦に持ち込むのが仕事でござる。飛び道具など邪道でござる!」
「ふっ、兄さんの言うとおりだ。テンプラーの剣、とくと見るがいいさ……」
兄弟の息はぴったりだ。さすがは双子といったところだろう。
「ああ、そっか。テンプラーには敵を引き付けるヘイトのスキルがあったっけ。なら何とかなるかも」
「あのー、シズカちゃん。私の武器ってこん棒なんだけど……」
先ほどから教会勢力のテンプラーとプリーストで会話が盛り上がっている。
ゲームの設定とはいえ、ただ一人、科学者サイドであるシズネは少し孤立感を覚えてしまった。
「おっと、そうだった。ちなみにモンスターは装備が出来ないけどアイテムは使えるんだよ。
シズネッチには今回は投擲アイテムをメインにやってもらおう。ゴブリンだし、手斧とかでいいんじゃない? あれ、投げると面白いよ? そんなに強くないけどね」
「手斧? ブーメランみたいなやつ? シズカちゃんが好きなゲームに出て来たよね」
「そうそう、ちなみに投げても戻ってこないから安心して。安いし100個くらい買ってみよっか」
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