第13話 オタク兄弟

 シズネとシズカの前に改めて二人のテンプラーが並ぶ。

 二人共、同じ黒髪で日本人男性っぽいアバター。

 ほぼデフォルトなのか、特徴の無い顔立ちだった。

 あえて言えば金属鎧をまとっているためそれなりに見栄えがある。


「では、改めて自己紹介をさせていただくでござる。

 拙者は地球にある日本という国の出身でサガ・ソウジと申す。大学生で今は彼女はいません。キリッ!」


 そう言うのは黒髪の短髪。


「ふっ、兄さん。今は、ではなく今までずっとだろ? 嘘は良くないな……。

 おっと失礼、僕は弟のサガ・セイジと言います。同じく今は彼女はいません。フッ!」

 そしてやや前髪の長い黒髪が続く。


 いきなりリアルネームで自己紹介をされるシズカとシズネ。


 しかも彼らのキャラネーム、ござる口調の兄の方が『ジェミニ=サガ・ソウジ』でキザな弟は『ジェミニ=サガ・セイジ』ときた。

 おそらくはリアルネームでしかも双子の兄弟だということが伺える。


 …………。


 ……。


「ちっ、やっぱただの出会い厨じゃないか……」


「シズカちゃん!」


 再び不機嫌になるシズカにシズネは思わず声を上げる。

 それを察したのかシズカは、少し溜息を吐くと自己紹介を始める。


「ふぅ、そうだね。あたしはサンジョウ・シズカ。高校生。ちなみにギャルを目指しているから彼氏はいりません!」


 シズカは早速、怪しい二人の大学生に予防線を張る。

 とはいえこちらもリアルネームを名乗らなくては失礼だという気持ちはあった。


「……カスガ・シズネ。同じく高校生です……」


 ゴブリンクイーンの見た目に反して、もじもじと俯きながら。小声で喋るシズネ。


 シズカは思った。マズい、シズネッチが可愛すぎ! と……。


「おお、何という事だ! 拙者、モンスターには特段思うことは無かったが、これはいけない気持ちになってくるでござる……」


 ござる口調のソウジに危機感を覚えるシズカ。


「おい! 変態! リアル女子高生相手にそういう態度は通報されても文句はいえないぞ? お前、大学生だろ!」


「うっ、これは失敬……。でも安心するでござる。拙者たちは地球出身。

 そしてアーススリーに行くことは、経済的にたぶん無いでござるから直結厨だとかの心配はご無用でござる……」


「そうです。僕ら兄弟はリアルに嫌気がさした人間です。

 そのような無礼は一切いたしません。その辺はわきまえております。

 ギリ2.5次元までですよ。

 ……神に誓って。そう、先日、クリステル様という生ける聖人の前で我ら兄弟は誓ったのですよ……」


「へえ、なるほどねー。クリステル様? まあ、聖人と呼ばれるような人に誓ったなら良しとしよう」


 シズカは教会の娘である。

 聖人と呼ばれるような権威ある人物の名前を出されたら、これ以上の追及はためらわれるのだ。


「ねえ、シズカちゃん。何が良しなの?」


「ふふ、つまりはアレよ。ほら、こいつら所謂オタクってやつ?

 グイグイ系のアタマ下半身の奴よりかは余程信用できるってこと。

 それに地球からわざわざ特別な通信回線を引いてるってことは知識もあるし金もあるっしょ。

 大学生ってことは直接的な収入は無いだろうし、つまり仕送りしてくれる実家の名誉のために犯罪をする確率は低いってわけ。

 まあ、このゲームにログインしてる次点で、個人情報はバレてるってことだから安心ってこと。

 ちなみにクリステル様って人が本当に居るのかは調べさせてもらうけど?」


「そ、そっかー。つまり良い人ってことだねー」


 だがシズカはシズネ程にピュアではない。

 すぐさまゲームのオプションウインドウから外部端末にアクセスする。


 …………。


 ……。


「ふむふむ、あった! クリステル・マイヤー・スズキ……。ニューヨーク出身。スズキ財団の長女にして、……なんてこと、首席にしてハーバード大学ミスコンテスト優勝!

 そして、その賞金をすべて慈善事業に寄付。卒業後は上院議員首席秘書官として福祉事業団体の運営に尽力する。

 ……まさに現代の聖女。

 しかも支援先には……アマクサ教会って……家も入ってるじゃん……」


 シズカはゲーム内から外部の端末にアクセスし終えると、二人の疑いは晴れた。


「失礼しました。これまでの失礼な態度は謝ります……」


 急に態度が急変するシズカ。

 地球の、しかもかなりの資産家で生ける聖人と呼ばれる人物の知り合いに無礼を働いたのだ。シズカは少し自分の行いを恥じるのだった。


「そっかー。二人はシズカちゃんが真剣に謝るほどに凄い人なんだね。

 聖人かー。すっごーい。よく分からないけど、よろしくお願いします。

 私、人見知りを直したくって。これからもよろしくお願いします!」


 キラキラと輝く笑顔のシズネ。

 そう、シズネはピュアだ。さすがに、ソウジとセイジも驚きを隠せない。


「シ、シズカちゃん殿……シズネッチ殿は天使でござるか……。実は小学生の妹さんとか? ゴクリッ!」


「あん? 今、小学生がどうとかで喉が鳴ったか? 前言撤回だ! リアルロリコンはゲーム規約どころかアーススリーだと死刑確定だぞ?」


 ちなみにそんな法律はない。

 だが、シズカはオタク界隈のロリコン比率の高さに少し嫌悪感を抱いていたのだ。


「も、もちろんそんな事は無いでござる! ただ天使のようにピュアでござるなと、素直に思っただけでござる。本当でござるよ!」


 天使のようにピュア。

 その言葉にシズカは今一度、気を落ち着ける。


「まあ、そうね、それはあたしも思ってたところだし。まあ許してやろう。

 ちなみに顔と肌の色以外はリアルシズネッチだからな。ロリじゃない! むしろセクシーだ!」


「ちょっ! シズカちゃん!

 なんでそんなこと言っちゃうの! そんな訳ないでしょ、私こんなに筋肉質じゃないし、腹筋だって割れてないよ」


 そう、スリーサイズについては否定しないシズネ。

 その言葉で、セイジとソウジは静かに息を呑む。そして静かに喉を鳴らすのだ。


「兄さん……。2.5次元もいいでしょ?」


「あ、ああ、たしかにセイジの言う事も理解できるでござる。……だが何度も言っているが2.5次元など存在しないのだ。

 それはつまり3次元。アバターの中には実在の人がいるのでござる……つまりそれはご法度でござるぞ?」


「アンタたち、さっきから何ぶつぶつ言ってんの。で、サブクエストだっけ?

 あたしらもサブクエスト攻略をしようかなと思ってたしちょうど良いか。パーティーでも組みましょう」

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