第10話 ゴブリンクイーン
【シズネッチはゴブリンクイーンに進化しました】
「ふーん、なるほど。……なかなかエッチじゃん」
シズネが進化したモンスターはゴブリンの上位種であるゴブリンクイーン。
緑の素肌に筋肉質の身体、栗色のショートヘアーの雌型モンスター。
一般的なゴブリンの身長は大体120センチの個体が多いが、その上位種であるため身長は高い。
おおよそ160センチはあるだろう。
というか現実でのシズネの身長と同じである。そしてスリーサイズも……。
「うーん、ワイルドアンドビューティーだね。シズネッチ、サイコー!」
「ひっ! なっ! なにこれ!」
素肌は緑色ではあるがほぼ全裸である。
それを服というのだろうか、頼りない腰布一枚は、ミニスカートの丈よりもはるかに短い。
そして防具として意味があるのか分からない、サイズがまったく合っていない小さな皮の胸当ては今にもはち切れんばかりだ。
一応、首には動物の骨を使った首飾りや腕輪などの装飾はあるものの全体的にかなりセクシーである。
シズネの羞恥心は一瞬で最高潮に達する。
思わず両手で胸と股間を隠してしまうシズネであった。
「シズネっち。その恥ずかしがるポーズ……。
ゴブリンとはいえ、なんだかいけない気持ちになってくるんですけど?
それに、ただでさえ布面積が小さいのに両手で服を隠したらさ、全裸に見えてよりエッチじゃん。
他のプレイヤー達は何か目覚めそうにもじもじしているよ?」
シズカはポータル前にいる他のプレイヤーを指さして言う。
指さされたプレイヤーは気まずそうにその場を離れる。
シズカはいつでもシズネの味方であった。
シズネは気分を改める。
「ありがとうシズカちゃん。そうだね、堂々としないと。ゴブリンはそもそもエッチなモンスターではない!」
両手を腰に当て、仁王立ちをするシズネ。その姿は確かに誇り高いゴブリンクイーン、六つに割れた腹筋が眩しい。
「シズカちゃん、これは開き直るしかないよね。そう、堂々としていればファンタジーにありがちなビキニアーマーだってカッコよくなるんだ!」
「おう! その調子。いいねー、腹筋バキバキ、アタシだって結構鍛えてたけど腹筋割るのはダイエットしないと不可能って、JKには無理ゲーじゃん?」
「うん、たしかに、腹筋凄いね、ゴブリンクイーン。私ちょっと強くなったかな?」
ボディービルダーの様なポーズをとりながら。
「ステータスオープン!」
名前:シズネッチ
職業:モンスター
レベル:11
種族:ゴブリンクイーン
HP:256
力:150
素早さ:102
防御:80
魔力:51
スキル:『こん棒』『ウォークライ』『ぶん殴る』『蹴る』『体当たり』『かみつく』
全体的にステータスは向上、特にHPと力はかなり高い。
そして気になるスキル。
「こん棒? 武器だよね。よし!」
シズネはスキル『こん棒』を発動させる。
すると、先端が太く取っ手部分は持ちやすい形状に加工された木の棒が出現した。
「えー……なんかこれじゃないって感じ? せっかくだったらシズカちゃんのセプターみたいなのが良かったなー。
これじゃ太くて硬いただの棒じゃん。せめてトゲトゲとかあると良かったなー」
シズネはやや残念そうな表情で、こん棒の先端部の手の平で撫でまわす。
そして取っ手の握り心地を試しているのか、上下に動かしながら良いポジションをさぐる。
「シズネッチ……わざとじゃないよね?」
「うん? 何が? ……でも、武器があるのは良い事だし、正直素手で戦うのはちょっと勇気がいるから、とりあえずはこういうので良いよね」
試しに素振りをするシズネ。
「剣道は小学生の頃ちょっとやってたから、やりやすいかも。シズカちゃん見てて、えいやー!」
ブンッ! ぶるん。
「メーン!」
ブンッ! ぶるるん。
「メン! メン! ドー!」
ブンッ! ブンッ! ブンッ! ばいんばいん。
シズカは剣道は詳しくない。
だが二つの柔らかそうな緑色のメロンの動きは良く分かった。
「なるほど、改めて見るとやっぱデカい……。これは嫉妬を超えて、もはや清々しさがある。目の保養になるねぇ、ありがたやー……」
シズカは自分の慎ましい胸にそっと手をあて、ゆっくりと十字を切る。
ちなみにプリーストのアバターの体形は自由に調整可能だが、サイズを偽ることはシズカのプライドに反していた。
ましてや、現実よりも盛るという行為は教会の娘としては罪深い行為だと思っている。
「シズカちゃん、おばあちゃんみたいなこといってる。ところで、さっき戦ったゴブリンリーダーは剣もってたじゃん。
なんでそれよりも偉いクイーンがこん棒なのかな?」
シズネはこん棒を手放すと空間から消えた。スキルによって生み出された武器の為、アイテムというよりは魔法に近いのだ。
「さあ、ゲームだし? 深い意味はないんじゃない?
あたしは別に女性差別とか言うつもりは無いけど、部族社会では刃物を持っていいのは男だけとか?
そもそもクイーンなんだから前線で戦わないでしょ。
それか、怪力で剣を持つ意味がないとか……まあゴブリン戦士の剣ちっちゃいじゃん。
サイズ的にあきらかに大きいゴブリンクイーンの武器は無いんじゃないかなぁ……知らんけど。
まあ、それはそれよ。次はキックの練習しようか。
元空手部エースであるサンジョウ・シズカにシズネッチのスキル『蹴る』を見せてみなさい!」
「そっか、シズカちゃん中学生の時は空手部だったね。でもキックって足を上げるんでしょ? 私そんな事やったことないよ、身体硬いし……」
「だいじょーぶ。その辺はスキルの効果で良い感じに補正してくれるから。はよ! 見せてちょうだいな! はよ!」
やや興奮気味のシズカにちょっと違和感を覚えるシズネであるが、せっかくのスキル、使いこなさなければ宝の持ち腐れという物。
「うーん、じゃ、じゃあ。いくよ? おかしなところあったら教えてね?」
シズネはスキル『蹴る』を発動させる。
何のことはない、イメージした通りの見事な蹴りが発動した。
当然だがシズネは運動は苦手であるし身体は硬い。だが足はちょうどシズカの顔くらいまでの高さに上がったのだ。
そしてバランスをしっかり保っている。もっとも、ゲームの世界だから当然ではあるがシズネは嬉しかった。
自分の足がここまでしなやかに動くことに感動でしかなかった。
「どう? シズカちゃん。ちゃんとできたでしょ?」
「うむ、問題ない。ちゃんとはいてたよ。
……しかしTバックかー、シズネッチは大胆だなー」
「ちょ! どこ見てたの! シズカちゃん、さっきからいやらしい事ばかり言って!」
「いやいや、これには理由があるのだよ。
シズネッチはさ、天然で色々やらかすじゃん。アタシはそのツッコミ役ってやつよ。
……仮に今のが見ず知らずの男に見られたら大変っしょ?」
「あ! そうだね。……うん、ありがとう。
恥をかかなくて済んだね。これからも私の恥ずかしいところにいっぱい突っ込んでくれると嬉しいな……」
「シズネッチ……。本当にわざと……じゃないよね。
まあいっか、ところでシズネッチよ。
Tバックはセクシーランジェリーの側面もあるが、実は機能的で履き心地が大変よろしいと聞いている。
通気性の良さ、ゴムによる締め付けもほとんどないそうだ。
ユーザーの間では一度履いたら、その解放感から二度と元のパンツには戻れなくなるらしい……。
我らは16歳。時代が時代なら結婚が許される年齢だ。つまり大人。
ということで、今度一緒に駅前のデパート・ヨコシマ屋にでも買いに行こっか?」
「シズカちゃん。二度と普通のパンツに戻れないってのはちょっと怖いよ。それにお母さんに説明しないと、不良だと思われちゃうじゃん。
それにシズカちゃんの家はいいの? 反対されない?」
そう、シズカの家は教会である。
「うっ……それを言われると困るなぁ。洗濯しないといけないし絶対バレるよね。こんどママに相談してみようかな……。
ああ、でも、パパにばれたらお小遣いが減るかも……それに彼氏疑惑とか誤解されたらもっと大変だ」
そう、シズカは普段からギャル風のファッションを好み、そのように振舞っているが貞操観念は保守的なのだ。
ちなみに彼氏はいない。
「うーむ、パパとは洗濯物を別にしてって言うべきか……。いやいや、それじゃ、思春期丸出しのクソガキじゃん。
あたしとしては、そんな親不孝者のクソガキムーブはプライドに反するし……。
うーん、一つ隠し事をすると、そのためにさらに新たな隠し事をしなければならない。
……詰みだな、あきらめた。Tバックは社会人になったら、また考えるとしよう。
まあ、それはそれとしてよ、シズネッチ、次の狩りにいくっしょ?」
「うーん、今日は結構いい時間だし、宿題もしなくちゃ。シズカちゃんも宿題はちゃんとやらなきゃだよ?」
「げっ! 急にリアルの話を持ち込むんだからー。そういうのはネトゲ界隈ではご法度だぞー?」
「だめだって。シズカちゃんがちゃんと宿題をやるって約束しないと、私はもう二度とゲームはしません!」
「ちぇ、シズネッチ、ママみたいな事を言う。まあいいさ、それくらいで付き合ってくれるならお安い御用。じゃあ、また明日ねー」
「うん。また明日ー」
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