第8話 シズカのガンカタ

【メインクエスト1、『反撃の狼煙』チャプター2】

 ――ゴブリン偵察兵を一掃した。

 君達はこの廃墟にたしかにゴブリンの主力が居ることを確認した。

 遠慮はいらない、かつて栄華を誇った人類の楽園を破壊し、我が物顔で闊歩する不浄の存在を決して許してはならないのだ。


【全てのゴブリン戦士団を狩りつくせ!】



「よし、どんどん行くよー。シズネッチは時間まだあるよね?」


「うん、大丈夫!」


 マップは前と同じ廃墟である。違いは市街地ではなく、公園であるということ。

 ただ、やはり廃墟だ。森は焼け落ち、池には水がなく、噴水のモニュメントや鉄棒、ブランコ等の遊具は全てボロボロに崩れ落ち、より悲壮感がただよっていた。


 代わりにあるのは、移動式テントを中心とした砦が数か所、公園の中央の広場に建っている。


「あれだ、ゴブリン戦士団が居る場所。なんて言うんだっけ……? モンゴル伝統のテントみたいなの?

 あ、ゲルだっけ。あたし、ああいうのに一回泊まってみたいんだよねー」


 たしかにと、シズネも同意する。キャンプで使うテントよりもはるかに大きく天井も高い。

 それにハイテク機器を駆使して生活には何も支障が無いらしい。


 アーススリーの高原地域にはモンゴルをルーツとする人々が住んでるので一度旅行に行ってもいいかもしれない。


「じゃあ、シズネッチ。また私が残り一匹になるまで狩るから、その後、また一体一でやってみてよ。

 今度の敵はちょっと背も高いし、剣と盾もってるから難しいと思うけど頑張ってねー」


 そう言うとシズカは拳銃を取り出し、大きく深呼吸をする。


「おらー、ゴブリン共ー! 出てこんかーい!」


 もの凄い大声だ。


「ちょ……シズカちゃん。そんなこと言ったら……」


 言わんこっちゃない。直ぐに角笛の音が鳴り、テントからワラワラと剣と盾を持ったゴブリン達が出てくる。


 数にして20匹以上はいるだろう。


「シズネッチ、見ておくと良い、プリーストもある程度の近接戦が出来るということを!

 さあ来い! 雑魚共が!」


 シズカはスカートのスリットからマガジンを二本同時に引き抜く。


 それを左手に持ちながらゴブリン戦士団に突っ込む。


「さて、さっきの偵察兵は2発で死んだから、おそらくこいつらは3発ってところかな?」


 シズカはそう言うと、銃のセレクターを3点バーストに切り替える。


 パパパンッ! 

 連続する銃声の直後、先頭にいたゴブリン戦士が倒れる。


 そして、後方の二匹。

 パパパンッ! パパパンッ!


 さらに後方の三匹。

 パパパンッ! パパパンッ! カチッ。


 弾切れだ。

 撃ち漏らした一匹が剣を振りかぶる。

 シズカはゴブリンの剣を銃身の裏側で受け止め、勢いそのままに斜め横にそらす。

 その剣は勢いを失わず、地面に突き刺さった。


 そしてシズカは体を竦めると足払いで、ゴブリンを転がす。


 ゴブリンが転倒すると同時に空のマガジンが地面に落ちる。

 間髪入れずに左手に持っているマガジンを勢いよく差し込む。


「じゃあね」

 パパパンッ!


「さて、これで6匹、本気にならないとこのままヤッちゃうよー? 本気になってもヤッちゃうんだけどー?」


「シ、シズカちゃん……言い方が……(怖い)」


「うん? どしたん? カッコいいっしょ。プリーストには戦闘スキルもあるんだよ。

 スキルの優先順位としては回復特化が鉄板なんだけど、シズネッチとペアなら戦闘スキルが必要かもってね、ずっと考えてたんだー。

 ちなみに今のはガンカタといって、その起源は1000年前に遡るのだ!」


 ガンカタ、その発祥については諸説あるものの、低予算のアクション映画でいかにド派手な映像を見せるかをきっかけに生み出されたとされる。

 今では銃と格闘を組み合わせた新しい格闘技として、オリンピック競技にもなっているほどだ。


 もちろんシズネが聞きたかったのはそれではない。

 教会の娘がそんなバイオレンスなセリフを言っていいのかと聞きたかったのだが……。


 しかし、シズネとていつまでもお花畑脳ではないしだんだん慣れてきた。

 そう、このゲームは映画のヒーローになった気分でやるのが正解なんだと。


 たとえ現実では由緒ある教会のお嬢様が言っていいセリフではないとしても、ゲームの世界ではまったくの別人になれるのだ。


 だからこそ自分はこのゲームをやると決めたことに改めて気付く。


 常識をぶちこわせ……である。


「シズカちゃん、さっきゴブリンを転ばした技ってどうやったの? カッコよかったよ。私もやりたい!」


「あー、あれは単純にただのキックだよ。

 まあ、私は中学の頃は空手部だったから、それなりに動けるんだけどね。

 シズネッチって相変わらず鈍くさいし……。

 いやいや、まあ安心してよ。ゲームシステムのアシストはあるし。

 モンスターなんか人外の身体能力が売りなんだからどうとでもなるって。

 本能のままに……そう獣になるのだシズネッチー、ぐへへ。

 おっと、まだ敵が残ってる。オラー! 死ね死ね。鉛玉の味は美味しいだろ?」


 パパパンッ! パパパンッ! パパパンッ! パパパンッ!


「よ、よーし。私もやるぞー、おりゃー」


 シズネは勇気をもらった気がした。それこそ、元気に走り回ったのは小学生以来だ。

 思春期を迎える頃には周りの目が気になり、女の子らしくならなきゃと自分に言い聞かせていたような気がした。

 だが、今は自由だ。思いっきり体を動かす喜びを思い出した。


「お、テンションアゲアゲだね。よし! こっからは乱戦といこうか!」


 いつのまにかシズカは拳銃ではなく、先端にトゲの着いたカナヅチの様なものを持っていた。


「おっとシズネッチ、突っ込みは待った! これも立派な祭具だよ。セプターっていってね、ほら、高名な司祭様や各国の王様もこういうの持ってるじゃん?」


 持ってるじゃん? と言われても、そんな禍々しい祭具など皆目知らない。

 いや、シズカの実家は教会である。自分が知らないのは無知であるからだ。


 そう納得しようとしたが、すぐにそれはシズカの冗談だと気づく。


 なぜならそのセプターという祭具で、ゴブリンの頭部を思い切り叩きつける瞬間を見てしまったのだ。


 ああ、なるほど、拳銃もセプターって言い張る世界だ。

 常識の外の世界なんだと思わなければと、シズネは自分の馬鹿正直な性格に恥じ入るのだった。


『ゴブーッ!』


 よろけるゴブリン戦士。だがまだ生きている。


「シズネッチ! 止めをお願い! ほら四つん這いになって! クリティカルヒットの実験をしないと!」


「そ、そうだった。よーし」


 シズネはその場にしゃがみ込み、クラウチングスタートの体勢をとると、地面を大きく蹴る。

 勢いよく前に飛び出す身体。現実のシズネではありえない瞬発力だ。


 そう、現実ではありえない瞬発力、ワーキャットの肉体は全身がバネのようだった。


 まるで自分がスポーツ選手になったみたいだ。

 シズネはようやく、このゲームの楽しさを知ることが出来た。


「おりゃー! 猫パーンチ!」


『ゴブゥアアア!』


 ゴブリン戦士はシズネの猫パンチを喰らい絶命する。クリティカルヒットだ。


「ナイス、シズネッチ! よーし、ドンドン来いやー!」


 ……。


 …………。


【ゴブリン戦士団を全て倒しました。

 警告! ゴブリンリーダーが出現しました。

 クエストボス、ゴブリンリーダーを倒してください!】


「あ、そう言えばここ、ボスが出るんだった。あちゃー弾がなくなっちゃったかー。

 そうだ! シズネッチ一人でやってみる? 初のボス戦だよ? いろいろ経験が詰めるかもだし?」


「うん、やってみる。ステータスオープン!」


 名前:シズネッチ

 職業:モンスター

 レベル:9

 種族:ワーキャット

 HP:180

 力:78

 素早さ:114

 防御:62

 魔力:38


「よーし、私だってかなり強くなった。やってやるんだ!」

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