第6話 初めてのクエスト

「シズネッチ、とりあえずメインクエストを受注しよっか。このポータルに触ると現在受注できるクエストが表示されるから確認してみて」


「うん、わかった」


 人類最後の都市アヴェンジャーの中央には、ポータルと呼ばれる大きな光る球体のモニュメントがある。


 ポータルで出来ることはクエストの受注にオークション、各拠点へのテレポート、または死亡時の帰還先の登録などがある。


 シズネはとりあえず言われたとおりにメインクエストの受注をする。


 すると、デデーンというお馴染みのBGMと共にムービーが始まる。


【メインクエスト1『反撃の狼煙』 チャプター1。


 悪魔どもに地上を奪われて数十年。

 だが我々とて手をこまねいていた訳ではない。人種や宗教、思想の違い、様々なしがらみを乗り越えて人類は団結した。今こそ反撃のときだ。


 メインクエストが開放されました。


 これよりポータルから、ゴブリンの砦へテレポートができます。

 ゴブリンは悪魔の先兵、個々の戦闘能力は低いが数が揃うとそれなりに厄介な相手です。

 まずはゴブリン偵察兵を全て倒してください。

 戦闘のスキルについてはオプションメニューのヘルプを参照してください。


 シズネッチ様、テレポートを開始しますか?】


「あ、はい。お願いします」


 システムの声にいちいち敬語で反応するシズネを見ながら、シズカはくすくすと笑う。


「それ、ほんと真面目だよねー。相手は人じゃないしAIでもないんだよ? ただのシステムメッセージに敬語で喋る癖、直した方がいいよ?」


「えー、だって中に人が居るかもしれないじゃん。もし年上だったら失礼だし。私って結構ドジだし間違えちゃったら大変だよ」


「はいはい。ま、それがシズネッチのいい所だし、じゃあ、早速行きますか」



 ポータルからクエストエリアにテレポートする二人。


【廃墟都市、ゴブリンの砦】


 薄暗い瓦礫だらけの街。

 おそらくここは、かつて繁華街であった事が伺える十字路にシズネ達は降り立った。


「すごーい、リアルっていうか、雰囲気あるよね。まるでパニック映画みたい」


「そうそう、あたしもそれ思ってた。ほら、物陰からゾンビとか出てきそうじゃん? 映画でよくある感じ?」


「もう、シズカちゃん、脅かさないでよー」


「あはは、シズネッチは怖いの苦手だっけ? まったく、どれだけ属性持ってんのよ、あざといったらないぞ!」


「あざといって……本当に苦手なんだからしょうがないじゃん」


 シズネがそう言い終えるや否や、廃墟の建物奥から物音が聞こえた。


「ひっ! まさか、本当にお化け?」


「んな訳ないっしょ。ゴブリン偵察兵を倒せってクエストなんだからゴブリン偵察兵が潜んでいるに決まってんじゃん。

 さて、こちらもいくよ!」


 シズカはシスター服のスカートのスリットに手を入れると銀色の拳銃を取り出す。


 一瞬だけちらりと見える黒い下着と、対照的に陶器のように色白で美しい太ももに思わず視線が吸い寄せられる。

 同性とはいえ、まるでモデルさんの様な美しい脚には思わず見とれてしまうのだ。


 シズカは昔、欧米系の女優さんみたいになりたいと思っていた。

 夢はアクション映画のヒロインだと、シズネは小学生の時にシズカから聞いたことがある。


 今では髪の毛は金髪に染めているし、目元ぱっちりなメイクも勉強している。


 巡り巡って今では立派なギャルに落ち着いてはいるが。

 やはり、昔の憧れが今のアバターなのだろう……と、シズネは暖かい目でシズカを見つめる。


「うん? なによその目は……ああ、これ? 現実のシスター服じゃ有り得ないっしょ。ガンホルスター付のガーターベルト。

 まるで、少しお色気シーンありのB級アクション映画の主人公みたいっしょ?」


「う、うん、そうだね。シズカちゃんがそれでいいならいいけど……」


 シズカの実家は正真正銘のカトリック系教会である。

 それを冒涜するかのようなデザインの衣装に、文句はないのだろうかと思うシズネであった。


 シズカは拳銃のスライドを慣れた手つきで引くと、正面に構えながらシズネの前を歩く。


「当面は私の方がレベルが高いから前衛は私がやるね。慣れてきたらシズネッチもガンガン前に出てっていいよ」


「わかった、よーし! お化けじゃないなら何とかなるかも」


「シズネッチ……お化けのモンスターも当たり前だけど居るからね、このゲーム。おっと!」


 パンッ! パンッ! パンッ!


 シズカは廃墟ビルの入り口に向かって銃を撃つ。


「うーむ、やっぱエアガンと違って当てるのが難しいか、練習あるのみかなー。

 そうだ、今度パパに射撃場につれてってもらおうかな。シズネッチもどう? 土日は礼拝で忙しいけど平日なら結構暇だし?」


「そうだね、シズカちゃんのお父さんと会うのも久しぶりだしいいかも」


 ちなみにシズネは人見知りだが、シズカの父親であるサンジョウ神父とは気楽に話せる数少ない大人の男性の一人だ。

 小学校の時はよく遊びにいったが、中学が別々になってからは疎遠だったので久しぶりに会いたいと思った。


 パンッ! パンッ! パンッ! パパンッ! パパパンッ! パパパパンッ!


 シズネが小学校の頃の記憶をたどるあいだも、銃声は引っ切り無しに聞こえてくる。


【おめでとうございます! シズネッチ様のレベルが上がりました】


「あれ? なんかレベルが上がったって、私何もやってないのに、なんで?」


「そりゃPT組んでるからだよ。おっと、弾切れだ。リロードするからフォローお願い!」


 シズカは再びスカートのスリット部分を開くと、太ももに付けられたポーチからマガジンを一本抜き出す。


 そうしている間に、一匹のゴブリン偵察兵がこちらに突っ込んでくる。


 ゴブリンの足は速い。シズカは間に合わないだろう。


「よ、よーし、ここは私が頑張らなきゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る