第5話 シズネッチ……エロくね?

「うーむ、ふむふむ。シズネッチはよりによって、一番マニアックな職業モンスターを選択したかー。

 ワーキャットねぇ……ふむふむ。

 なるほど! シズネッチ、ちょっと四つん這いになってごらん? 猫型モンスターならできるっしょ?

 たぶん、戦う時はそういうポーズとったほうが強いんじゃない? ふへへ」


 シズカはワーキャットの体が妙に色っぽいことに気付く。

 前身モフモフの毛で覆われているが体形は人間の女性、しかも胸がかなり大きいのだ。


 シズカはなぜゲーム内で初対面にも関わらず、モンスターの初期種族であるワーキャットのアバターがシズネだと分かったのか。

 ……そう、プロポーションが現実でのシズネのそれと同じだったのだ。


「あっ、そっかー。私、今、モンスターなんだっけ。自分目線だとついつい忘れちゃうね、鏡とかあったら一回全身を見てみたいかも」


 そういうと、シズネは四つん這いになり出来る限り猫の真似をしてみる。


「どう? 今の私、猫ちゃんみたい? 鳴き声はさすがに恥ずかしいから勘弁してね」


「うっ! これは強烈。まさに女豹のポーズ。それに今のシズネッチは実質素っ裸。……じゅるり、エッチじゃん……」


「ちょっと、何言ってるの?」


 シズネは自分の上半身から下半身、見える範囲で見てみる。

 モフモフではあるが、全身タイツの様に体の線がはっきりと分かる。

 なんとも煽情的な自分の姿に恥ずかしさが溢れてきた。


「あはは! シズネッチ、アバター登録の時になんかやった?

 ひょっとして、自分の体形をトレースとか? でも、あのシズネッチがそんな痴女みたいなムーブをするとも思えないし?」


「そんなことやってないよ! むー、そういえば修正パッチをあてたけど、私はそんなこと一言もいってないよ?」


「修正パッチ……。あー、なるほど。大体察した。さてはプロンプト入力の時になんか余計な事言ったな?」


 そう、シズネはたしかに言った。ありのままの自分の姿で堂々としたい……と。


「……たしかに、ありのままの自分でって言った気はするけど。まさか、こんな事になるなんて聞いてない! 私、今すぐキャラ作り直す!」


 勢いよく立ち上がると頬を膨らせるシズネ。

 そして勢いのままに上下に揺れる双丘。


 ゲームのクオリティーは細部にまで行き渡っている。 


「ちょっとまった! シズネッチよ、それはもったいな……いや、キャラデリートは今すぐにはできないよ。

 得点アイテムの不正取得対策で、新規キャラ作成から一週間はたしかキャラデリート不可能になるはずだから。


 まあ、いいじゃん? ありのままの自分でってのは素敵じゃない、すごく良いと思うよ? ほんとに。

 さすがにマジの全裸だったらアタシも止めるけどね。でも、どう見てもモンスターだから。

 例え体形がリアルのシズネッチと同じだとして、それを知ってるのはアタシだけだし?

 他人から見たら何とも思わないって。それに恥ずかしさを克服するのには持って来いかも、多少荒療治ではあるけどさ」


「うーん、そうかなー」


「そうだって、それにあたしだって一週間も待ちたくないし、シズネッチだってここまで来て一週間のお預けは嫌っしょ?」


「……うん、そうだね。それに、お父さんとお母さんにも約束したんだし、ちょっと頑張ってみる」


「よっしゃ。その意気だ!」


 シズカは大喜びの表情。ガッツポーズをとるシスターのアバター姿に普段のシズカが透けて見え、思わず笑いが漏れるシズネだった。


「あ、そうだった。たしか得点アイテムを貰ってたんだっけ」


 シズネはシステムからアイテムウインドウを開く。


「あった、『ランダムアイテムボックス』えっと、開封するとランダムでレアアイテムが一つ取得できますだって。よーし、良いアイテムが出ますよーに!」


 アイテムウインドウをダブルタップすると、目の前に大きな宝箱が出現した。


 宝箱を開けると中から光が溢れてくる。


 そしてシステムメッセージの音声が聞こえてきた。


【おめでとうございます。シズネッチ様は『M92CL-シルバーセプター』を獲得しました】


 光が消えると、シズネの手にはL字型の金属でできたアイテムが握られていた。


「え? なにこれ、鉄砲? ていうかモンスターって武器の装備ができないはずなのに、なんでこんなものが……」


 ランダムアイテムボックスは名の通り、アイテムはランダムで選ばれるため、装備不可能なアイテムになることも当然ある。


 もちろん、無意味ではない。

 たいていのプレイヤーはパーティー同士でトレードをする。

 例え需要が無くてもオークションや店売りをすることでゲーム内通貨であるゴールドを稼ぐことも出来るのだ。


「シズネッチ。ナイス! それってプリーストの専用装備じゃん。あたしにちょうだい? 今度アイス奢るからさ!」


「え? 別にいいけど。でも鉄砲ってシスターさんが装備できるの? 鉄砲だよ? おかしくない?」


「ちっちっち。これは銃じゃないんだよ。あくまでゲームの設定だけどね。

 一応プリーストの専用装備カテゴリーなのだ。

 もっとも現実だって似たようなこじつけはあるし? この辺がリアルで良い感じっしょ」


 M92CL-シルバーセプター。

 グリップに十字架の意匠の入った9ミリオートマチックピストル。

 全体はシルバーメッキの美しい処理がされている。

 戒律により武器の所持が禁止されているプリースト用の祭具セプター(銃)である。

 装備すると、プリーストのスキルレベルを向上させる効果がある。


 シズカは拳銃を受け取ると、マガジンを抜き、スライドオープン。

 カシャンッ! と勢いよく飛び出した弾丸を空中でキャッチすると、スライドを閉鎖。

 トリガーを引き空撃ちを試すと、またマガジンを差し込む。


 実に慣れたような手つきだ。


「なるほど、構造はほぼベレッタだね。シルバーでおしゃれな装飾が良い感じ。私のシスター服と良く似合うっしょ」


 両手で銃を構え、アクション映画のポスターのようなポーズをとるシズカ。


「……シズカちゃんのお家って教会だよね。なんで鉄砲に慣れてるのよ」


「いやー、それは秘密……て、程でもないけどね。ほら、あたしん家って聖アマクサ教会じゃん? 色々と成り立ちが物騒だったから、武器の所持は推奨されてるのだ。

 まあ、もちろん昔の話で実際に使ったことないけどね、でもシズネッチだっておもちゃの銃くらい持ってたことあるっしょ?」


「ええ、ないよー。それって男の子の趣味じゃ……」


「まあまあ、そう言ってくれるなって。

 さてと装備も整ったことだし、さっそく一狩り行きますか! このゲームの醍醐味は戦いにあるのだ!」

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