第4話 サイレントフラワー
「さあ、シズネッチ。地上へお行きなさい。
アナタはただの兵士じゃありません。あなた自身何を思い感じるのかを大切にしなさい、そしていつでも生まれ故郷であるこの研究所へ戻って来なさい。
……うふふ。アナタの活躍期待しているわ」
チュートリアルNPCの声と共にシズネは突如、光に包まれた。
「わっ! わわわ。眩しい!」
思わず両目をふさぐ。
ぷにゅっと顔に気持ちのいい感触。
「あ、私の両手に肉球が! そっか、初期のモンスターはワーキャットだったっけ。なるほどチュートリアルはその同線ってことか。
ストーリーはいまいちだったけど……なるほどー。これで私は可愛い猫モンスターになったんだー。よーし、さっそくステータスオープン!」
名前:シズネッチ
職業:モンスター
レベル:1
種族:ワーキャット
HP:50
力:30
素早さ:50
防御:30
魔力:20
スキル:『ひっかく』『猫パンチ』『かみつく』
「うーん、強くなってる……よね? まあ今はどうでもいっか。それに猫モンスターだし、きっと可愛いはず。早く自分の姿が見たいなぁ」
シズネを覆っていた光が消える。
【人類最後の都市アヴェンジャー】
そこは地下都市であった。
巨大な洞窟に街を作ったような外観。
天井は低く、所々に照明が設置されている。
太陽にはとても及ばないが、それでも周囲を見渡すことができる程度には明るさを保っている。
どうやら、ここからがゲームの始まりのようだ。
「うーん、いい感じの街、地下都市ってこうなってるんだ。ちょっと見学したいなぁー。
あ! そうだ! その前にシズカちゃんに連絡しないと。えっと、待ち合わせの時間にはちょっと早いけど、連絡ってどうしたらいいんだっけ……
こういう時はヘルプを参照って――」
「やあ、そこの可愛い子猫ちゃん、あたしとデートしないかい? キラッ!」
背後から、やけに凛々しい女性の声が聞こえる。
まるで、某劇団の男役みたいな口調だ。
振り向くと、そこにはシスター服を着た長身の女性が立っていた。
おそらくプリーストの職業だろう。
綺麗な金髪におしゃれなサングラス。
そして、スリットが太ももまで開いた煽情的なシスター服。
しかし、聖職者だというのに、いきなりナンパだなんてどういうことだろう。
それに女の子同士である。
いろいろと情報過多な状況にシズネは硬直してしまった。
……だが相手は女性なので、かろうじで返事をすることができた。
「あ、あのー。すいません。私、ここで友達と待ち合わせしてて……」
…………。
数秒間の沈黙のあと。
目の前のシスターはお腹を抱えて笑う。
「あはは! やだもうー。……あたしだよ、あたし。もう、こんなあからさまな変声で騙されないでよー」
「あ! もしかしてシズカちゃん? もう、びっくりしたー。変な声でしゃべるからわからなかったよ」
「バカ! リアルネームを言うなっての。
……それにしてもシズネッチって。
なんでキャラの名前に実名を混ぜるかなー。世の中には怖い特定犯とかいるんだぞ? バレバレなネーミングはNGだっての!」
「そうなの? でもシズネなんて平凡な名前だし、苗字が分からなければ大丈夫でしょ? それにいつも通りの呼び方のほうがやりやすいし」
「たしかに一理あるけど……。まあ、シズネッチがそれでいいなら別にいっか。
あたしのこともずっとシズカちゃんって呼ぶんだろうな……ま、かくいう私もシワシワネーム、問題ないか。
……ぷっ! 思い出した。アタシらって、おばあちゃんコンビって言われてたね! あはは! うけるー」
シズカもシズネもシワシワネームだと小学生のときに馬鹿にされた記憶がある。
だがそれは昔の話。
今は無難な名前を与えてくれた両親に感謝しているくらいだ。
そう……クラスに一人か二人は居た、なんとも言えないキラキラネームの子に比べたら遥かにマシなのだ。
実際にいたのは宝石と書いてジュエル、これならまだマシな方だ。
酷いのは月と書いてライトだ……。きっと彼の性格は歪んでしまうだろうと思わずにはいられないのだ。
「まあ、シズネッチ。とりあえずはフレンド登録をしようじゃないか。そうすればお互いのステータスが見れるようになるし、あとパーティーも組もう」
【シズネッチはサイレントフラワーからフレンド申請及びパーティーの招集を受けました! 承諾しますか?】
「あ、そうだね。えっと、もちろんオッケー。パーティー招集に参加っと……」
【パーティーメンバー】
名前:サイレントフラワー
職業:プリースト
レベル:15
HP:210
力:109
素早さ:92
防御:130
魔力:180
「あ! ほんとだ、シズカちゃん凄いね! レベル15なんだ!」
そのステータスの高さに感心するシズネだが……。
どうしても気になるのがシズカのキャラネームである。
「サイレントフラワーって、シズカ(静花)ちゃんだって本名がバレバレだよ、漢字までたどれちゃうじゃん……」
「え? そっかなー。あはは、だってあたし、ネーミングセンス無いし?
今さらキラキラ系みたいなのは無理じゃん? まあ、名前なんて適当でいいんだよ。強い人ほど名前が適当になるのがMMOってね!」
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