第3話 ゲームスタート

 デデーン!

 壮大なBGMと共にオープニングムービーがはじまる。


【1999年、7の月。空から恐怖の大王が降ってくる――】


「あれ? そうだっけ? 何もなかったんじゃ……。あっ、これはゲームだったっけ。

 ファンタジーなんだし、映画だと思って真面目に見なきゃ、一生懸命ゲームを作ってくれた人に失礼だよね」


 シズネはどんくさいところがある、だが真面目ではある。

 学校の成績は上の下という感じだ。

 得意科目は社会科。よって、嘘の歴史には突っ込まざるを得なかったのだ。


【……その日。人類は審判の日を迎える。ユーラシア大陸のとある国は核の炎に包まれた。

 余りの威力に使えない兵器と言われていた水素爆弾。それは独裁者のただの我がままによって、いとも簡単に投下されてしまったのだ。第三次世界大戦勃発である】 


「あれ? 第三次って確か、太陽系の惑星間戦争だったような……、あっ、まただ。いけない。黙っておこう。私の悪い癖だ。

 シズカちゃんに注意されたっけ、いちいち突っ込まないって。そう、だから私は嫌われるんだ」


 シズネは誤解している。いちいち突っ込む対象は、いつもいい加減なことを言うシズカだけだ。

 基本人見知りであるシズネは他のクラスメイトには一度もそういったことは言わない。


 むしろシズカはシズネの突っ込みスタイルを気に入っている。

 嫌いどころか、お笑いコンビのボケとツッコミを期待してのシズカの発言だったのだ。


 ストーリーは進む。


【第三次世界大戦の結果、人類は大きな損失を被った。

 人々の居住区はその過半数が地下施設へと移行していった。

 愚かな戦争の末に、大国間では和平条約が締結された。

 多くの民衆は、また平和で活気あふれる戦後復興の時代に移るだろうと期待した。


 ……だが、そうはならなかった。地獄への入り口『ヘルゲート』が出現したのだから】


 デデーン!


「わっ! また、ゲームタイトルの骸骨のドアップ。心臓に悪いなー」


【ようこそ、ヘルゲートアヴァロンへ。ユーザー名、シズネッチ様。これから職業、モンスターのチュートリアルを受けますか?】


「もちろん、受けます!」

 

 …………。


 ……。


【科学技術学会企業連合共同体。通称、科学者サイドの本拠地。

 その地下深くにある『バイオ研究所ベヒモス』にて、君は生まれた。

 モンスターとは、科学技術によって生み出された人類の為に奉仕する兵士である。

 遺伝子を研究した末に生み出された最高傑作の新人類ともいえるだろう】


「我々の何が非人道的であろうか。

 常に自分たちこそが正道だと、実に傲慢な教会勢力のテンプラーやプリースト。

 もともと悪の道を突き進む外道のソーサラーにローグ、彼らこそ太古から存在する非人道的な武装勢力ではないか。

 ……それに比べて、我ら科学者サイドは健全だわ。

 純粋に人類を救うために生み出されたマシーン。そして人類の進化の可能性を目指すモンスター。


 ……おっと、そろそろ新たな個体が生まれるようね。

 『シズネッチ』よ、起きなさい? 今日からアナタは人類の希望となる勇者なのだから」


 真っ暗だ。

 聞こえてくるのは大人の女性の声。まるで先生の様に知的な喋り方だ。


「あ、はい。私、頑張ります!」


 チュートリアルNPCに真面目に返事をするシズネ。


 次の瞬間、シズネは自分の身体に違和感を覚える。

 フルダイブモードにより五感を感じられるようになったためだ。


 シズネは今、全身が水に包まれているような奇妙な感覚をおぼえた。


「ごぼっ! ごぼぼぼっ!」


 溺れている。今の自分は大きな試験管の中にいるのだと知った。


 直ぐに液体は排出され、自分を包み込んでいた試験管から解放された。


「はぁ、はぁ。いきなり溺れるかと思った。あれ、でも結構平気? なるほど、チュートリアルではフルダイブMMOの適正テストもあるんだっけ。

 ちょっとびっくりだけど、私はこれくらいなら我慢できるかな。よーし、頑張るぞ!」


 勢いよく立ち上がるシズネの前に。白衣を着た科学者のような女性が目の前に立っていた。


「シズネッチ。よくぞ試験に耐え、この地獄の世に誕生してくれました。私達、科学者サイドとしてはこれ以上の喜びはありません。

 これより、アナタは地上の悪魔どもを殺し、そして喰らい。悪魔の能力を吸収し。やがて、それ以上の生命体へ上り詰めることでしょう。

 悪魔を追い出したら次こそは、我ら科学者サイドが世界の指導者になるべく、アナタには期待していますよ?」


「あ、はい。そういう設定ですね。頑張ります!」


 相変わらずNPCに真面目に返事をするシズネであった。


【ヒント! モンスターは武器を装備することが出来ませんが、敵モンスターの肉を喰らうことにより、進化することができます。

 また、戦闘による経験値によってレベルアップが可能です、レベル上限に達した状態でモンスターの肉を食べると、より上位種のモンスターに進化できます。

 進化系統は食べた肉の種類、あるいは生体データーの影響を受けます。ではまずオリジンモンスターであるシズネッチ様は最初のモンスターを殺し、喰らう体験をしましょう!】


 目の前には猫っぽいモンスターが鎖につながれていた。

 

「さあ、シズネッチ。最初の生贄よ? これを殺し喰らいなさい。ここからアナタの物語が始まるのです!」


「え? えーー! あ、そっか。ゲームだよね。いちいち突っ込まない! シズカちゃんに笑われちゃう」


 鎖につながれた猫型モンスター。金属製の首輪には『ワーキャット』と書かれている。 


 ワーキャットはよだれを垂らしながら敵意をむき出しにして、こちらを威嚇している。


(うーん、これって動物虐待じゃないの? このゲーム本当に大丈夫?

 シズカちゃんのお墨付きだから大丈夫なんだろうけど……、でも、うーん)


「シズネッチ。初めての捕食に忌避感があるようですね。でも、考えてみなさい。野生とはそういう物よ?

 食うか食われるか。アナタは今、モンスターに生まれたのよ?

 なら答えは簡単、それに……こいつらは悪魔共の先兵。

 一方的に食われたのは我ら人類なのよ? こいつを生きたまま捕らえるのに科学者サイドの人員が何人死んだか……わかるでしょ?」


「うーん、でも、なんか、ちょっと良心の呵責が……。

 でもこれはゲームだし、真面目に考えてもしょうがないか、ネトゲ症候群なんて言葉もあるくらいだし、楽な気持ちでやらないと」


 シズネは覚悟を決める。よく見ると、ワーキャットの顔は憎らしいくらいに歪んでおり、全然可愛くない。


「グルルルッ! シャーッ!」


 手足を縛られ身動きが取れないワーキャットはせめてもの抵抗に牙を剥きだしながらシズネに威嚇する。


(うーん。チュートリアルモンスターだからそこまで強くないよね……) 


「よし、頑張るぞ!

 えっと、私の使えるスキルは……。

 そうだ、ステータスオープン!」


【名前:シズネッチ】

 職業:モンスター

 レベル:1

 種族:オリジンモンスター

 HP:20

 力:10

 素早さ:10

 防御:10

 魔力:10


 スキル:『蹴る』『殴る』『かみつく』


「うえー、バイオレンスだなぁー。

 でも、私はもっと大人にならなくっちゃ!

 スキル発動! 『殴る』!」


 ボゴッ!


 ワーキャットは死んだ。


「お見事、さあ、シズネッチ。それを喰らうのです! スキル『かみつく』を使用すれば自動的に捕食行動に移りますよ」


「そ、そっか……まあ、ゲームだし、ちょっと失礼して。えっとスキル発動! 『かみつく』!」


 ブシュルッ!


「あれ? 甘い? なんか美味しい?。

 なんだー、全然いけるかも……そうか、味覚設定ってそう言う事だったんだ。リアルにしなくてよかったー。

 というかリアルにする意味って何なんだろう……」


【シズネッチはワーキャットに進化しました。これにてチュートリアルは終了します。今後ともヘルゲートアヴァロンの世界をお楽しみください】

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ヘルゲートアヴァロン ~エッチなモンスターでダークファンタジーを攻略します~ 神谷モロ @morooneone

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