第6話 魔族の姉妹6
「よし、到着!」
降り立ったのは、村の近くの森の中だ。
「さて、イクちゃんはと……」
「あの、ナナ様……何か村の方が騒がしい気がしますが……」
うーん?
「確かになんか騒ぎになってるね」
まぁ、理由はおおよそ予想がつくけど。
「ナナちゃん」
「おっ? イクちゃん。無事だった?」
草陰から声が聞こえたと思ったらイクちゃんが顔を出してきた。草葉の陰じゃなくて良かったね。
『草葉の陰じゃなくて良かったね』
あ、視聴者と被った。ちょっと恥ずかしい。
「とりあえず、ミヨさんは回収してきたよ」
ミヨさんが僕の後ろから顔を出す。
「イク!」
「ミヨ姉!」
おお、おお。感動的な再会だね。
ちなみに、ここに来る間にミヨさんには諸々の事情は話しておいた。
最初は信じられないような顔をしていたミヨさんだったけど、自分の身を振り返ってみると心当たりしかなかったらしく、顔を真っ青にしていた。
まぁ、ミヨさんも心配していたのは、自分の身じゃなくて、イクちゃんの身だったけど。
ほんと。てぇてぇ姉妹だこと。
「とりあえず、これで依頼は終わりだね」
「ありがとうございます。ナナ様。おかげでまたイクと出会うことができました」
嬉しそうにしてるミヨさん。それでこそ助けた価値があるもんだね。
ただ、こっちもタダで助けたわけじゃないんだよね。
「それで、報酬の件なんだけど……」
「うん……覚悟はできてるよ」
こっちも依頼を受けて仕事したからね。当然報酬はもらう。
「1つ目に関しては、もう終わらせたよ」
「うん、あっちで騒ぎになってるのを見ればわかるよ」
「どういうことですか?」
何も知らないミヨさんが首をかしげる。
「今回、ミヨさんを助けるのにあたってイクちゃんに2つほど条件を決めたんですよ」
まぁ、1つでも良かったんだけど、もう1つはイクちゃんが言い出したからね。
「1つ目は、村の人間を殺すこと」
「えっ?」
「……」
ミヨさんが驚愕の目で僕とイクちゃんの顔を見た。
「そんな……人間様を……どうして……」
どうして……どうしてかぁ……
「うーん、なんとなく?」
あの人間を殺せっていうのは僕が出した条件なんだけど、実は別段理由はなかったりするんだよね。
「強いて言うなら、言いなりになってる2人を見てるのがなんとなく不快だったからかな?」
大した人間でもないくせに様付けされちゃってね。実はちょっとイラッとしてたんだよね。
『そういえば、ナナちゃんも人間呼ばわりで最後まで名前聞かなかったな』
『今回の冒険で名前出たのって、イクちゃん、ミヨさんと、あの英雄様くらいだな』
『英雄がヒーローってwww』
『あれは単に覚えやすかっただけだから』
うん、そういうこと。そもそもモブを覚えるなんてリソースの無駄遣いだからね。
「あ、もう、顔も覚えてないや」
「それじゃあ、村で騒ぎになっているのはそのせい……」
一応あの村の長である人間が死んだからね。騒ぎにはなるか。あの村の魔族はイクちゃん達だけじゃないしね。
「もしかして誰かに見られたりした?」
「多分……誰にも見られずにできたはず……」
どうやって殺したのか詳しく聞きたいところだけど、今はいいか。
「うんうん、よくやってくれたね。さて、それで2つ目の件なんだけど……」
「はい……あたしの肉を……ナナちゃんにあげます」
そう言うイクちゃんは覚悟を決めた顔をしていた。
「……どういうことですか?」
「どうも何も……イクちゃんが言い出したんだよ? ミヨさんを助けてきたら僕にその身を捧げるってね」
僕としてはもっと別の何かでも良かったんだけどね。
「そんな! それじゃあ、私のためにイクが!」
そう、つまり。イクちゃんはミヨさんを助けるために自分の身を犠牲にしたってわけ。
「イク! あなた!」
「ごめん、ミヨ姉……でも、あたしはどうしてもミヨ姉に生きてほしくて……」
うつむきながら言うイクちゃんを、ミヨさんが抱きしめた。
「あたしに支払えるものなんてそのくらいしかなくて……」
「そんなの……私の代わりにイクがなんて……それだったら私が犠牲になった方が良かったわ」
ミヨさんが僕の方を見てくる。
「ナナ様……お願いです。イクの代わりに私を……」
「そんな……それじゃあ意味がないじゃない!」
「いいのよ。最後にまた会えた。それだけで十分よ」
「ミヨ姉!」
うん、うん。感動的な抱擁だこと。僕が原因じゃなければだけど。
『さて、ナナちゃんはどうするかなぁ』
どうするって。
「契約は契約なんでね。やっぱりイクちゃんかなぁ……」
「そんなっ」
「……っ」
悲壮な顔。無意識なのか、ミヨさんは僕からイクちゃんを守るように立つ。
「……」
絶対に守る。そんな意思を感じる。
「……」
僕は黙ってそれを見て。
「うん、満足。じゃあもう行っていいよ」
撮れ高的にも十分かなぁ。
「「……?」」
2人がきょとんとした表情を浮かべた。
いや、だってねぇ……
「別に僕、2人の肉とかいらないし」
この世界ではそれなりに価値があるのかもしれないけど、正直、僕にとっては価値は0に等しいんだよね。
「だって、僕、機械だから食事なんて必要ないからね」
美味しいとか言われても、味もわからんし。
「最初から言ってるじゃん。僕は人間じゃないって」
『食べ物はナナちゃんの報酬にならんのよなぁ……』
『せめて電力とかのエネルギーだったらワンチャンあったか?』
『エナドリがなんだって?』
『エナドリにエネルギーは含まれてねぇだろ』
『えっ!? じゃあ、なんで元気出るの!?』
『そら、お前。疲れてるんだよ』
視聴者さんたちにはバレバレだったかなぁ。僕がイクちゃんの肉を欲しがってないの。
「えっと……それじゃあ、なんでそんな条件を……」
「いや、そもそも、それイクちゃんから言い出したことでしょ? 自分の身を犠牲に誰かを守ってくれなんて言われたらさ、あ、これ良い撮れ高になりそうって思うじゃん、普通」
さっきの2人の抱擁とか、やりとりとか、ごちそうさまって感じだよね。
「まぁ、最初に岩から出るのに手伝ってくれたお礼って思っておけばいいよ」
あの行動で2人の運命は変わったってわけ。
「というわけで、バイバイ。姉妹仲良く暮らしてどうぞ」
僕は振り返って後ろ手に手を振る。僕の役割もこれで終わりっと。
「……ナナちゃん!」
「んー?」
「ありがとう!」
ふふっ、そんな事言われたらいいことしたなぁって気持ちになっちゃうね。
ニヤケ顔を隠しつつ、僕はそのまま空に飛び立った。
「さて、というわけで、お楽しみいただけましたかな? 今回の世界はこれにて終了」
本当はもうちょっと数日いるつもりだったんだけど、余計なエネルギー消費しちゃったから帰らなきゃいけなくなった。
『いやぁ、今回はファンタジーってことで剣と魔法みたいな世界で魔物相手に無双するのかと思いきや予想外な方向に行ったね』
『無双はしてたでしょ。人間相手に』
『そういえば、魔法とか全然出なかったなぁ』
だね。使っているところとかも見なかったね。
『しかし、ナナちゃんにしては、あの姉妹には特別優しかった気がする』
「うーん? そうかな?」
『だって、結局、イクちゃんが人間殺すだけであれだけのことを引き受けたでしょ?』
「それは……だって、肉とかいらないし」
『それでもいつものナナちゃんだったら、お土産にもらってたんじゃない?』
「うーん……どうだろうねぇ。情をかけただけかもよ? 正直、この先2人が生きていけるとは思えないし」
魔族が生きづらいっていうのは、2人だけの問題じゃなくてこの世界の構造の問題だ。
今日は生きれたけど、明日また生きられるなんて保証はない。
『またまた……俺等はちゃんと見逃さなかったぞ』
「なにをさ」
『ナナちゃん、城から帰る直前に密かにエネルギー放出して何かしてたね』
『多分、時限式の爆弾でも仕掛けてたんじゃない?』
『なんかやってると思ったらそれか』
……ほんとこいつら……
「君たちのような勘のいい視聴者は……まぁ、嫌いじゃないかな」
『やったぜ!』
『おっ? ナナちゃんデレ期か?』
『ワンチャンある?』
「あるわけないでしょ。そもそも僕は君らと違って人間じゃないからね」
これにて今回の配信は終了。また次回をお楽しみに。
-----
これにてこの異世界でのお話は終了です。
今回でこの作品のおおよそのスタンスは示せたかなと。
気に入りましたら、フォロー、星など押していただき、続きも呼んでいただけると幸いです。
明日は1話だけ雑談回を投稿して、明後日から再び2話投稿に戻ります。
次の更新予定
その美少女アンドロイドは転移装置で移動した異世界でやりたい放題の愉悦配信をする 猫月九日 @CatFall68
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。その美少女アンドロイドは転移装置で移動した異世界でやりたい放題の愉悦配信をするの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます