第4話 魔族の姉妹4

「どうやらミヨさんは肉になるらしいよ」


『!?』

『えっ!?』

『肉!?』

『どういうこと!?』


 次の日の朝、昨日人間から聞いたことを視聴者さんに説明していく。


「イクちゃんやミヨさんの種族の肉ってめちゃくちゃ美味しいんだってさ」


 この村から出荷されたお肉は非常に高価なものとして扱われるらしい。


「高級ブランド肉って扱いで貴族からも非常に好かれているらしいよ」


 おっと、そうだった。


「ちなみにミヨさんのお肉を求めたのは、ここら一帯を治めている国の王様だってさ」


 なんでも生誕パーティをやるとかで必要になったとか。

 そんなもんで、あの人間としてはイクちゃんとミヨさんを一緒に出荷しようとしていたらしいんだけど、断れなかったとのこと。


「というのが昨日のお話ね」


 いやぁ、まさかの展開だった……ってわけではなかったけど。


「最初から人間を様付けしてるとか、ちょくちょく出てくるワードとか色々と不穏ではあったから、ついに来たかぁって感じ」


 予想していた範囲からは超えなかったね。思わず苦笑してしまうよ。


『笑ってる!?』

『いや確かに若干の不穏さはあったけど、流石にびっくりなんだが?』

『ナナちゃんメンタルやばない?』


 ははっ、まぁ、僕は直に雰囲気を感じてたからね。視聴者さんよりもこの展開には違和感はないかな。


『助けるとかしないの?』


 そんなコメントが目に止まった。


「うん、まぁ、そういうコメントも出るとは思ってたよ」


 でも……


「僕は何もしないよ」


 何かするつもりなら最初からしてる。でも、僕は今冷静に視聴者さんに状況を説明している。つまりそういうことだよ。


「そもそもの話、僕はこの世界では部外者だからね」


 村どころか世界からして部外者だ。外よりも外って感じ。


『ミヨさんとかイクちゃんがかわいそうって思わないの?』


「あー、そりゃ多少は感情移入はしたけどね。でも、それとこれとは別だよね」


 確かに助けてくれたし、昨日だって一緒にいたから多少思うところはある。


「でも、考えてもごらんよ。この世界の人間にとっては彼らは食料なんだよ。そうだなぁ、僕らの世界における畜産って考えればいいんじゃないかな?」


 僕の世界でだって、牛や豚、鳥を育てて、肉として出荷することはしている。

 この世界ではそれがたまたま、多少喋って意思疎通ができたってだけ。


「まぁ、イクちゃん達も模様は牛だからね。そういう生物だと思えば多少は……ね」


『言いたいことはわかるけどさぁ……』

『やっぱりちょっと複雑だよ……』

『文化どころか世界が違うからなぁ……』

『むしろこの世界の人たちからすれば当たり前で、俺達の方が異端なんだよな……』


 そう、助けたいなんて考えるほうがおかしいってわけ。


「だから僕は何もしない」


 きっとこのままだと、ミヨさんは肉になってどこぞの王様に食べられ、数年後にはイクちゃんも同じ道をたどることでしょう。

 それでおしまい。この世界はそういう世界だから。


 そう……何もしない……だって部外者なんだもの。今日にはこの世界からおさらばしようなんて思ってるただの通りすがり。

 それが口を出すなんておかしな話だよ。


 でも……


「ナナちゃん……少し聞きたいことがあるんだけど」


 当事者からお願いされたらそれはもう関係者判定でいいよね?



 結論から言うと、イクちゃんは昨日の僕と人間の会話を聞いていたらしい。


「出荷って言葉。仕事に出かけることだと思ってたんだけど、昨日のナナちゃんの反応だと違うんだよね?」


 聞けばこれまでも同じように出荷された仲間がいたらしい。


「だけど、誰も出荷から帰ってこなくて……ねぇ、ナナちゃん。出荷って何なの?」


 聞かれたことには素直に答えてあげようかな。


「簡単に言えば、昨日、イクちゃんはウリボーを採取して食べたよね?」


「うん。美味しかった」


「それで言うと、人間がイクちゃんでミヨさんがウリボーの立場になるってことだね」


 人間からすると畜産。育てた食材を刈り取った感じかな。これこそ採取なんてね。


「……ミヨ姉が採取されて食べられる……ってこと?」


「正解。ついでに言えば、数年後にはイクちゃんも同じような道を辿ることになるね」


「そんな……」


 イクちゃんは僕の言葉を聞いて黙ってしまった。


『絶句しちゃったよ』

『そらそうだろ。大好きだった姉が食料として出荷されて、数年後にはお前も同じになるって言われたんだぞ』

『言ってることやばすぎて草も生えないw』

『生えとるやないか!』


 ちょっと。ここ一応シリアスシーンなんだけど? その草も採取してやろうか、なんてね。


「どうしてそんなことを……」


 うつむいたままのイクちゃんの口から溢れるようにそんな言葉が出てきた。


「どうして……どうしてかぁ……まぁ、端的に言えばそういう立場だからかな?」


 この世界においては、イクちゃんたちの種族は美味しいお肉という扱いなのだ。

 現代日本で言うところの国産黒毛和牛みたいな?


「人間という種族に囲われて飼育されて、最後には肉になる。今のイクちゃん達がそれを受け入れているからこうなっているって感じかな」


「受け入れてなんか……」


「だったらなんで人間様なんて呼んで従っているのかな?」


「だって! 人間様は偉くて……!」


「なんで偉いの?」


「それは……」


 うん、そうだよね。答えなんかないよね。


「僕が見た限り、イクちゃんは例え一人になったって生きていけると思う」


 昨日の狩りの様子を見ていると、そう思う。正直、強さという点では人間に負けている点はないと思う。


「だけど、そこに一切の疑問を持たずに人間様なんて敬って盲信してきた。それは受け入れているってことだよね」


「……」


 また黙っちゃった。


『子供に対して言い過ぎなのでは?』

『正論パンチはやめろ! 繰り返す。正論パンチはやめろ!』

『正論パンツ?』

『1文字違うだけで意味合い全然違うんだなぁ』

『お前らのコメントで安心感が半端ない』


 正直、僕も部外者だから好き勝手言ってる自覚はあるよ。なんだろ、説教っぽいことって言ってる側はものすごい気持ちがいいんだよね。

 あ、いや。イクちゃんそろそろ泣きそうだからフォローもしてあげないとか。


「ただ、イクちゃんはもの凄く運がいい」


「何を……」


「だって、何も知らないまま出荷されることなく、今を迎えることができたんだから」


 多分だけど、ミヨさんは何も知らないままドナドナされたんじゃないかな?

 あ、あれは悲しい瞳してたって歌詞があるから自分の立場知ってたのかも? まぁ、それはどうでもよくて。


「例えばだけど、今のイクちゃんだったら逃げるってこともできる」


 知ったからこそ取れる選択肢だ。


「でも……」


 イクちゃんはその選択肢を取らない。うん。知ってた。姉思いのこの子のことだ、1人で逃げるなんてしないだろう。


「さらにイクちゃんは非常に運がいいことに」


 ニヤッと笑って言う。


「僕に頼み込んで自分とミヨさんを助けてくださいってお願いすることができるんだから。もちろん、タダじゃないけどね」


『悪魔の笑みだ……』


 失礼だね。これはただの取引だよ。


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